2019.06.14

おたくの細道「1920~30年代の個性派が大集合! まぼろしの自動巻き機構」

毎度マニアな時計情報を読者にお届けするこのコーナー。今回は、自動巻き腕時計の初期に現れたとびきりレアなモデルをご紹介。ロレックスと同時代に生まれ、消えたその機構とは!?

 

 

各社が独自に生み出した百花繚乱の巻き上げ仕様

時計の歴史に詳しい方ならご存知のように、自動巻きの腕時計は、英国人時計師ジョン・ハーウッドが1924年に特許取得した製品が元祖。その後、’31年にロレックスが「パーペチュアル」を開発し、これが現在に至る全回転式ローターの原点となった。しかし、ここで見落とされがちなのは、これらの機構だけが突如出現したわけではなく、有名・無名問わず、同時代に数多くの時計会社が独自の自動巻き機構で開発を競い合っていたことである。

たとえば、「パーペチュアル」という名のメーカーが開発した自動巻きは、ハンマーのような形状の錘が左右に揺れてゼンマイを巻く“振り子式”を採用。また「マーズ」のモデルは、文字盤を含めたムーブ全体がレール上を上下に移動する“スライド式”となる。見た目もユニークな「ワイラー」製品は、半開きになったケースバックを手首で押すことにより巻き上げる“裏蓋プッシュ式”。そして「オートリスト」では、ベルトの装着部がレバーのように動く“ラグ可動式”を取り入れている。

こうした自動巻き機構は、全回転ローターに慣れた今の目で見れば、どれも奇想天外な発想に基づく独創的なものばかり。その一方で、全回転式に比べ、巻き上げ効率が劣り、耐久性やメンテナンスなども優れているとは言い難い。結果、それらはすべて淘汰され、現方式に収束されてしまう。

だが、たとえ機構は姿を消しても、腕時計が自動巻きという新たな武器を手に入れるべく、各社が開発に情熱を注いだ事実は決して消えない。残された時計たちは、その生き証人なのだ。

 

振り子式「パーペチュアル」

パーペチュアル・ウォッチ・カンパニーの角型自動巻き時計。先端のみブリッジに取り付けた縦長の錘が、振り子のように左右に振れることでゼンマイを巻き上げる。ちなみに社名の「パーペチュアル」はロレックスの特許だが、両社の関係性は不明である。

 

元祖自動巻き「ハーウッド」

自動巻き腕時計の始祖・ハーウッドの後期型(’30年代前半)。幅の狭い扇形の錘が振り子状に半回転する、いわゆるバンパー式ハーフローターの原型。ベゼルを時計回りに回して時刻合わせを、反時計回りでローターのロックを解除。その状態を文字盤のインジケーターで示す。

 

ラグ可動式「オートリスト」

スイスの無名の会社オートリストREGPの製品。ベルト装着用のラグ部分を可動式とした、非常にめずらしい角型自動巻き時計である。装着時に手首を動かすことで下側のラグがレバー状に作動し、この動きをゼンマイの巻き上げエネルギーに変換。他のモデルと同じく、リューズによる手巻き機構は備えていない。

 

スライド式「マーズ」

スイス無名メーカーの角型自動巻き。ムーブの両脇にレールが設置されており、腕を振ると文字盤ごと上下にスライドして巻き上げる方式。スライドの効率を高めるため、ムーブ中央には巨大な丸型の錘が装備されている。したがって時計自体に重量感がある。

 

裏蓋プッシュ式「ワイラー」

"ワイラーテンプ" でも知られるスイスメーカーの1 作。裏蓋がもともと浮いた状態で装備された異色のスタイルが特徴。腕に着けたまま手首を動かすと、半開きの裏蓋が対面の突起部分をプッシュして巻き上げる。リューズは普段、ケースカバーに隠れている。

 

アンティーク・ウォッチ鑑定入門

今回取り上げた時計は、東京・森下のアンティーク時計店ケアーズの川瀬会長より提供を受けた。川瀬氏が講師を務める講座「アンティーク・ウォッチ鑑定入門」でも、レアな時計を多数紹介。詳しくは"セブンアカデミー"へ。

 

[時計Begin 2018 AUTUMNの記事を再構成]
文/岡崎隆奈