2019.07.23

「ダイバーズウォッチ」の定義とは? 元祖はどのブランド?

そもそも、どこからどこまでが本格ダイバーズ?

潜水時間のリミットを示し、ダイバーの安全を守る。ダイバーズウォッチは、重要な使命を担っている。そのため国際標準化機構(ISO)は、要求事項を制定。これに準ずる機能を持つことが本格ダイバーズの条件だ。

 

BLANCPAIN(ブランパン)
フィフティ ファゾムス
オートマティック
米国海軍の要求に応えた機能を復刻

1958年に米国海軍に納入した「MIL-SPEC1」と同じ2トーンの水密性表示を₆ 時位置に装備する。搭載するCal.1151は4日巻き。限定500本。自動巻き。径40.3㎜。SSケース。セイルキャンバスストラップ。30気圧防水。139万円。お問い合わせ先:ブランパン ブティック銀座

 

ダイバーズウォッチ、それは……ブランパンから始まった!!

今あるダイバーズウォッチのルーツは、1953年にブランパンが発表した「フィフティ ファゾムス」にある。開発の指揮を執ったのはダイビングを愛する当時のCEO。自身の苦い経験から、高性能な潜水用時計は生まれた。

 

フィフティ ファゾムス着用の米国海軍特殊部隊のダイバーと言葉を交わすジョン・F・ケネディ大統領。

 

南フランスでダイビングをするブランパンCEO(1950~1980)のジャン-ジャック・フィスター。

 

各国の海軍に採用され完成度の高さを実証

防水性が高いケース、視認性に優れたダイヤル、潜水時間が計れる回転ベゼル── これらダイバーズウォッチに必要な3つの要項は、ブランパンによって考案され、1953年に「フィフティ ファゾムス」に結実した。さらに言えば、耐磁性も軟鉄製インナーケースによってかなえていた。

その開発は、当時のCEOであり、ダイビングに情熱を注いだジャン‐ジャック・フィスターの苦い経験から始まったという。彼はある日、ダイビングに興ずるあまりボンベの空気を使い切ってしまい、あやうく遭難しかけたのだ。そして海中で時間が正しく読める時計を作ろうと決意したのである。

開発を進める中、優れた潜水用時計を求めていたフランス潜水戦闘部隊のロベール・“ボブ”・マルビエ大尉も参画。彼はプロの視点で、潜水中の経過時間が計れる機能等の必要性を説いた。

では、いかにして経過時間を計るのか? 試行錯誤の末にフィスターが辿り着いた答えが、分目盛りが付いた回転ベゼルだった。海中で誤まって動いてしまわないようにロック機構も考案。高い防水性は、二重密閉構造のリューズと特殊密閉設計の裏蓋によって実現された。リューズの負荷を減らすために、自動巻きムーブメントを搭載。また、ダイヤルはブラックとし、蓄光塗料を塗布した針とインデックスを組み合わせることで、海中での良好な視認性を得ていた。

かくして完成したフィフティ ファゾムスは、フランス海軍の基準を完全に満たし、フランス海軍に制式採用された。それだけではない。アメリカ、ドイツ、スペインなど各国の海軍が、こぞってフィフィティ ファゾムスを望んだのである。左は、1958年にアメリカ海軍用に製作した「MIL-SPEC1」と呼ばれるモデル。6時位置には、軍の要請で開発した水が浸入すると色が変わって知らせる水密性表示が備わっている。

フィフティ ファゾムスのスタイルは、多くのメーカーがフォローし、今日へと至る。ダイバーズウォッチの歴史は、ブランパンによって開かれた。

 

米海軍にはアメリカでブランパンを扱っていたアレン・V・トルネク氏を通じ、納品。写真は彼が作った取扱説明書。ダイヤルにはBLANCPAINに代わりTORNEK-RAYVILLEの文字が。

 

リューズと裏蓋の気密構造の図面。裏蓋は二重構造で、リューズはパッキンが二重に。

 

リューズと裏蓋の密閉構造は特許を取得。上はスイスの特許証。日本にも特許申請され、下がその特許証。日付は昭和32年6 月21日。

 

[時計Begin 2019 SUMMERの記事を再構成]
文/高木教雄 構成/市塚忠義