2018.09.07

【英国発はこんなにスゴイ!】コーアクシャル脱進機

コーアクシャル脱進機

ジョージ・ダニエルズがコーアクシャル脱進機を発明

今ではオメガの代名詞ともなっている「コーアクシャル(同軸)脱進機」。抜群の耐久性と高精度で知られるこのシステムも、その先進性から開発当初は製品化が危ぶまれた。

第1世代のコーアクシャル脱進機。異なる2枚のガンギ車と3つ爪のアンクルが使われている。現在は3層構造&シリコンパーツの第3世代へと進化。

 

壊れにくくてメンテも容易な特殊二重構造

1970年代半ば、かつてない同軸構造をもつ「コーアクシャル脱進機」が誕生。それをたった一人で作り上げたのが、アカデミー所属の英国人独立時計師ジョージ・ダニエルズだ。

同脱進機における最大の特徴は、通常は1枚のみのガンギ車を2枚に増やし、それらを同軸上に重ねて配置していること。さらに、これに対応する特殊形状のアンクルを採用して、ガンギ車の歯先への摩擦を抑えることで、耐久性を高めるとともに、オイルを長期間注入せずとも非常に高い精度を発揮するようにした。いいことづくしだが、あえて欠点を挙げるなら、部品数が多く複雑なために、比較的コストが高く量産化が困難だということだろうか。

実際ダニエルズは、開発後にパテック フィリップやロレックスといった名門に持ち込んだが、あまりに先進的すぎることから製品化を断られている。唯一手を挙げたのがオメガであり、’90年代に初製品化されたのち、現在では主要モデルの多くに取り入れられている。

 

発案した英国人はこの人

独学で修得し生涯を時計に捧げた孤高の独立時計師

ジョージ・ダニエルズ(George Daniels)

幼少時にトーマス・マッジや ジョン・ハリソンらの書物に触れ、時計師を目指すことを決意。独学で時計作りを始め、独立時計師として寡作ながら複雑時計を手がける。1974年にコーアクシャル脱進機を開発し、’80年に特許を取得。’82年以降はマン島で隠遁生活を送りながら研究を続け、ロンドン市立大学の名誉博士号を取得。ブレゲの研究書やウォッチメイキングの技術書なども著す。

 

[時計Begin 2018 SUMMERの記事を再構成]
文/岡崎隆奈 イラスト/WADE LTD