2019.05.09

【ラドーの工房へ行ってきた!!】時計業界で「これ」ができるのはラドーだけ!

メタリックなケースの質感はプラズマ状態の化学反応だった!!

時計業界でこれができるのはラドーだけ

ラドーの卓越したハイテクセラミックス技術は、色だけでなく質感までも操ることを可能とする。2万℃で活性化した気体によって組成を変え、まるでメタルのように輝く独自の素材が生まれる。

赤い発光がイオン化の証
プラズマ処理中の炉内の様子。イオン化したガスが、赤く発光している。オーロラの輝きも、これと同じ現象だ。充填したガスは2万℃もの高温によりイオン化するが、100℃のサウナに入っても火傷しないように、ガスのみが高温となるため、ハイテクセラミックスやその吊り具が溶けることはない。コマデュール社では、このプラズマの炉が3基稼働中。

 

ラドーの錬金術がかなえるメタリックなセラミック

ラドーは1998年、黒と白に続く第3のハイテクセラミックスを世に送り出した。それは金属系顔料を用いた新色……では、ない。表層にまるで金属のようなメタリックな質感を宿した、プラズマハイテクセラミックスである。その製造方法は極めて特殊で、まさに現代の錬金術と呼ぶにふさわしい。

原材料は、それまでのハイテクセラミックスと同じ酸化ジルコニウム。顔料は一切混ぜていないが、金型による成型方法も1450℃で焼成する点も、ポリッシュ仕上げの工程も同じだ。しかし、その後に加えられるプロセスに“プラズマ”を冠する理由がある。

プラズマとは、気体の分子がプラスとマイナスの各イオンに電離した状態を指す。これを人工的に誘発できる特殊な炉に焼成後のハイテクセラミックスを入れ、炉内を真空状態にした後、炭素と水素の化合物であるメタンガスと水素ガスとを充填。そしてマイクロ波の照射などにより各ガスを2万℃の高温にすると、各ガスはプラズマ化して炭素イオンと水素イオンとが活発に運動する状態となる。それらがハイテクセラミックスに激しく衝突。まず水素が酸化ジルコニウムから酸素を奪って結合して水となり、残ったジルコニウムと炭素とが結び付く。結果、表層に生じた炭化ジルコニウムこそが、メタリックな質感の正体。顔料を用いるのではなく、物質の組成自体を操り、白い酸化ジルコニウムをメタリックな炭化ジルコニウムへと変化させる。ゆえに、現代の錬金術なのである。この技術を時計界で擁するのは、今をもってしてもラドーだけ。プラズマハイテクセラミックスは、唯一無二の存在だ。

微細なパーツもプラズマ処理可能
プラズマ処理を終えたパーツは、ご覧のように金属に似た質感になっている。ケースだけでなく、上の写真にあるようにブレスのリンクやリューズまでプラズマハイテクセラミックスに。

 

オリジナルのムーブでダイヤルを遊ぶ
ラドー ダイヤマスター ハイライン
ETAと共同でオリジナルのムーブメントを開発。ダイヤルを大胆に開口させ、時分針とスモールセコンド、それぞれのオフセットしたギアトレインを覗かせた。その下に見える地板は、繊細なコート・ド・ジュネーブ仕上げに。時分針を載せる一直線状のブリッジの造作が、潔い。自動巻き。径43㎜。プラズマハイテクセラミックスケース。カーフストラップ。各29万5000円。

 

究極のミニマリズム
ラドー トゥルー シンライン
4.9㎜厚の薄型仕様。時分針とロゴだけを置くシンプルを極めたダイヤルは、ケースやブレスのメタリックな質感と実に相性がいい。ラドーならではの、ミニマリズムの表現。クォーツ。径39㎜。プラズマハイテクセラミックスケース&ブレスレット。22万5000円。

[時計Begin 2019 SPRINGの記事を再構成]
文/高木教雄 構成/市塚忠義