2018.12.13

【受け継ぐ時計】“ミスター・ミドー”が語る思い出の時計、息子への時計、尊敬する人とは?

 

スイス時計に関わる一人としての覚悟

今年創業100周年を迎えたミドー。2015年の日本再上陸以来、シンプルかつコストパフォーマンスの高いモデルで支持を得てきた。そのプレジデント、フランツ・ヒューゴ・リンダー氏は、ミドー在籍23年。人の流れが激しい時計業界にあって、地に足の着いたスタンスが、その言葉に滲む。

Franz Hugo Linder(フランツ・ヒューゴ・リンダー)
1967年生まれ。銀行業界でキャリアをスタートさせ、1995年ミドー入社。2001年までセールスマネージャーを務める。
2002年、プレジデントに就任し、現在に至る。建築界との繋がりを模索するなどして、ブランド・アイデンティティの構築に尽力。
趣味はジョギングやスキーという、アクティブな一面も。18歳と16歳の二人の息子を持つ。

 

「世代を超えて使われる品質こそが大切」

 

プレジデント就任後の挑戦を物語るモデル

スイスの主要産業といえば、金融とチョコレートとチーズ、それと時計くらいなんです(笑)。私は、金融業界からキャリアをスタートさせました。グローバルなビジネスに興味があったんです。ただ、金融は実体のあるモノを扱うわけではありません。モノを扱うグローバルなビジネスということで、時計業界に関心を持ち、ミドーに入社し、もう23年になります。

それまでは特別、時計好きだったわけではなかったんです。記憶にあるモデルとしては、中学を卒業したときに両親から贈られた、初めてのしっかりとしたスイス製の時計。それはエドックスのクォーツでしたね。妻のファミリーから、1950年代くらいのジラール・ペルゴのモデルも受け継いでいます。時計には、世代をまたいで使われるだけの価値がある。そのためには、それだけのクオリティを守ることが大切だと肝に銘じています。

2年ほど前に、カナダ人の高齢の方から、お礼の手紙を頂いたことがあります。その方が、1944年に軍に入隊する際に親御さんから贈られたミドーの時計を今も使っている、と書いてありました。世代を超えていく品質の大切さを教えられましたね。

ミドーで働き始めた日からは、ミドー以外の時計は使っていません(笑)。仕事だからではなく、個人的にもミドーのデザインが好きなんです。

たくさん持っているミドーの時計の中で、思い出深い2モデルを紹介させてください。ひとつは、14年ほど前の「オールダイヤル」というシリーズのもの。ローマのコロッセオがインスピレーションのもとで、ベゼルがなく、フェイスが大きいのが特徴です。

ちょうど私がミドーのプレジデントに就任した直後で、ブランドが新しいステージに立つためのいろいろな試みを始めた時期でした。これは私のアイデアで、建築物や歴史的モニュメントから着想した最初のモデルなんです。時計と建築には、技術革新や機能性、普遍性など、いくつかの共通点を見出していました。歴史的に名高い建築物と、ミドーの時計の価値とをリンクさせるのはおもしろいんじゃないか、という発想だったんです。建築とのつながりは、現在のミドーにも継承されています。

もう1本は「マルチフォート」というシリーズのクロノグラフ。10年ほど前から、ミドーはブラック&オレンジをコーポレートカラーにしています。これは、私が個人的に好きな色で、こう言うとプロっぽくないですが、特にマーケティング的なことを意識したカラーではなかった(笑)。

MIDO
マルチフォート クロノグラフ
スペシャルエディション

リンダー氏が愛用するモデル。ブラック&オレンジは、リンダー氏の好みを反映したもの。自動巻き。径44㎜。SS×PVDケース。レザーストラップ。10気圧防水。現在も継続してラインナップされており、価格は23万9000円。お問い合わせ先:ミドー/スウォッチ グループ ジャパン

 

私には18歳と16歳の二人の息子がいます。上の息子には、中学を卒業するとき、ミドーのカタログを渡し、好きな時計を選ぶように言いました。私が選んだ時計ではなく、自分で選んだものを、責任と愛着を持って使ってほしかったのです。すると彼は「マルチフォート」のブラック&オレンジの3針タイプを選びました。たまたま私と好みが一致したのかもしれませんが、それを選んだことよりも、自分で選んだ時計を毎日使うという行為自体を嬉しく感じています。

下の子にも気に入った時計を選ぶように勧めたんですが、ちょっと自分では決めかねて、結局「今はいらない」ということになりました(笑)。時計よりも、もっとほかのデバイスなどに、まだ興味があるんですね。

若い層に腕時計をアピールすることは、時計業界全体の今後の課題のひとつです。デバイス的な性格を兼備したスマートウォッチも、ひとつの手段かもしれません。でも我々は、現状スマートウォッチは考えていません。

ミドーは、ファッショナブルなブランドではなく、どちらかと言えばトラディショナルなタイプです。急激に伸ばすことよりも、少しずつ時間をかけて育てていきたい。ティーン・エイジャー受けするようなファンシーなデザインではなく、そこからステップアップしたとき手に取ってもらえる、スイス製のしっかりとした機械式時計を提供したい。ビギナーだけでなく、ある程度時計を知っている人で、他人と被らないものを求める層にもアピールできると思っています。

 

尊敬するハイエック前会長から受け継いだもの

スウォッチ グループをつくった、故ニコラス・G・ハイエック前会長とは、たくさんの思い出があります。偉大な人物で、強烈な個性があって、すごく尊敬していました。

よく覚えているのは、ある年の予算会議のとき。その当時、ミドーは数字的に厳しい状況で、緊張しながら会議に臨みました。ダメ出しもされましたが、現状や今後の方針について一生懸命説明すると、前会長は「グッド・ジョブ!」「よし、それでやってくれ」と言ってくれましてね。自信を与えてもらった嬉しさや、前会長の理解の早さや優しさが、今も心に残っています。

ハイエック前会長は、なりたくてもなれるような人物ではありませんが、正しい判断やフェアな姿勢は、スイス・ウォッチに関わる一人として見習いたいものです。スウォッチ グループは、現在ハイエック前会長のご家族に受け継がれていますが、その精神は、私たちも含め、グループ全体にしっかりと受け継がれていると思っています。

 

「ハイエック前会長は、自信を与えてくれました」

現在ミドーの日本でのラインナップは機械式がメインである。
「アーカイブに想を求めたモデルにも、ミドーらしさがあると思っています」

 

 

MIDO
オールダイヤル

プレジデント就任直後、建築物から得たインスピレーションを形にした最初のモデル。ローマのコロッセオをモチーフとし、ダイヤルを広く取った。ダイバーズ仕様で、インナーベゼルを装備。スキーや水泳など、アクティブなシーンのホリデイ・ウォッチとして愛用しているとか。

MIDO
コマンダー シェイド
スペシャルエディション

創業100周年を祝う70’sレトロテイスト

1959年から継続されているコレクション「コマンダー」。その1979年発表モデルがモチーフ。スモークサンレイサテン仕上げのダイヤルやミラネーゼ・ブレスなど、レトロな味わい。自動巻き。径37㎜。SSケース&ブレスは9万4000円。SS×ローズゴールドPVDケース&ブレスは11万7000円。お問い合わせ先:ミドー/スウォッチ グループ ジャパン

<strong>MIDO<br />オールダイヤル</strong><br />プレジデント就任直後、建築物から得たインスピレーションを形にした最初のモデル。ローマのコロッセオをモチーフとし、ダイヤルを広く取った。ダイバーズ仕様で、インナーベゼルを装備。スキーや水泳など、アクティブなシーンのホリデイ・ウォッチとして愛用しているとか。
<strong>MIDO<br />コマンダー シェイド<br />スペシャルエディション<br /><br />創業100周年を祝う70’sレトロテイスト</strong><br />1959年から継続されているコレクション「コマンダー」。その1979年発表モデルがモチーフ。スモークサンレイサテン仕上げのダイヤルやミラネーゼ・ブレスなど、レトロな味わい。自動巻き。径37㎜。SSケース&ブレスは9万4000円。SS×ローズゴールドPVDケース&ブレスは11万7000円。お問い合わせ先:ミドー/スウォッチ グループ ジャパン

 

 

[時計Begin 2018 AUTUMNの記事を再構成]
写真/山下亮一 文/まつあみ 靖

https://www.midowatches.com/jp/

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