2020.05.13

ウォッチメーカーとしての進化を支えたブルガリのキーパーソンを直撃!

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イタリアンデザインのDNAを形に

ローマのサルトリアで仕立てた上質なスーツやジャケットにいつも身を包み、イタリアン・ジェントルマンを地でいくファブリツィオ氏。ブルガリのウォッチデザインの要となる彼が、自身のキャリアやデザイン哲学、そして次世代へ受け継ぎたい時計を語る。

Fabrizio Buonamassa Stigliani(ファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニ)
1971年イタリア・ナポリ生まれ。国立デザイン大学ローマ校でインダストリアル・デザインを専攻。卒業後、トリノのフィアット・スタイル・センターに入社。2001年ブルガリに転職し、ウォッチ デザインチームに加わる。’07年ブルガリ ウォッチ デザインセンター ディレクターに就任。’09年に同センターがスイス・ヌーシャテルに移転後も、ブルガリのウォッチデザインの”要”としてブランドのDNAを受け継ぎつつ、現代的に再解釈したデザインに精力的に取り組んでいる。

「機能性を美にまで昇華させたデザインにリスペクトを覚えます」

ナポリとローマ、二つのDNAを感じて

5、6歳の頃からスケッチが大好きでした。同時期に機械に関心を持ち始め、腕時計も好きになり、祖父の時計を欲しがったものです。結局その時計はもらえませんでしたが、私があまりにも時計が欲しいとうるさいので、代わりに誰だったか覚えていませんが、お古のシンプルな3針のクォーツの時計をプレゼントしてくれました。嬉しくて当初毎日着けていましたが、しばらくすると別のが欲しいと駄々をこねていましたね(笑)。2歳でローマに引っ越すまでナポリで育ちました。ナポリはローマとは全く違う歴史をたどり、文学、歌、演劇、食など、独自の洗練された豊かな文化を育んできました。デザインを学んだのはローマの大学ですから、私自身はナポリとローマのミックスだと思っています。

私のキャリアは自動車メーカーのフィアットからスタートしました。ランチアやアルファロメオのデザインを担当したのですが、カーデザインは立体的かつダイナミックで、非常に楽しい反面、法令や規制など様々な制約も多い。自動車のデザインは一つの夢でしたが、正直言ってエキサイティングなものではなくなってきたとき、私はブルガリファミリーの3代目で当時会長だったパオロ・ブルガリ氏に、時計のスケッチを送ったんです。なぜブルガリだったかといえば、ジュエリーにしろ時計にしろ、イタリアのルーツにつながるデザインが製品に息づいていましたから。

送ったのはA2サイズの巨大なデザイン画でした。スポーツウォッチで、その後の「ディアゴノ」に通じるようなブルガリのテイストに沿ったものだったと思いますが、自分のデザインがどんな進化をブランドにもたらすかを示す必要がありました。面接でパオロ氏からは「実際の時計のデザインの10倍も大きいね。これから針やリューズなどのディテールについて、チャレンジングな仕事になるよ」という言葉を頂き、ブルガリに入社しました。

ブルガリでの18年間で多くの製品に携わってきました。デザイナーの仕事は、今まで存在していなかったスケッチやアイデアを提案することですが、それに対する経営陣の理解が不可欠です。またそれを製品化するプロダクト部門も重要です。デザイナーは一人で仕事をするのではなく、他の部門と共同してプロジェクトを進めていきますから。そのためには、デザイナーのテイストがブランドのそれと近いものであるべきだと思います。ブランドのエッセンスを再解釈し、それを進化させていかなければならない。たとえば「セルペンティ」は、ブランドのアイデンティティともいうべき歴史的なモデルだとも考えています。2009~’10年にかけて、「セルペンティ」に新たなデザインを施し、イノベーションを起こしました。その意味では、次世代に残すべき時計になったと思います。

もう一つ次世代に受け継ぎたいモデルとして「オクト フィニッシモ オートマティック」を挙げたいですね。「オクト フィニッシモ」としては初の自動巻きで、世界最薄のミニッツリピーターに続く大きなチャレンジでした。ミニッツリピーターからの流れでチタニウムを使うというアイデアを継承し、ケースもブレスレットもマットなワンカラー、ワンフィニッシュで統一しました。成功するアイデアは、一瞬のひらめきで出てくるものなんですが、これもそうでした。世界最薄の精緻を極めたムーブメントも、新たな審美性の表現に寄与したと思います。多くの国際的な賞を頂きましたし、ブルガリにとって大きなマイルストーンになったと自負しています。

BVLGARI(ブルガリ)
オクト フィニッシモ オートマティック
2017年に自動巻き世界最薄記録を塗り替えた画期的モデル

厚さ2.23㎜の自社製キャリバーBVL138を搭載。ケース厚も5.15㎜の超薄型。チタンカラーを生かしたマットなワントーンで統一したケース&ブレスレットもモード感とエレガンスを兼備。自動巻き。径40㎜。チタンケース&ブレスレット。3気圧防水。152万2000円。問い合わせ:ブルガリ ジャパン

「制約の中で創造性を発揮することに美学がある」

イタリア人デザイナーとはいかなる存在か?

イタリア人デザイナーは、ある制約の下で自分の創造性を発揮することに、やりがいや美学を感じるんです。機能性を追求することで形ができるというバウハウスの流れを汲むデザイナーとは、異なるルーツを持っている。たとえば、ドイツの家電メーカーのブラウンで活躍したデザイナー、ディーター・ラムス氏は、私も尊敬する一人ですが、イタリア人からすると、ちょっと冷たさを感じてしまう。イタリア人は、魂とかパッションを、素材や色や機能に組み込むことに注力します。カスティリオーニ、マリオ・ベリーニ、マルコ・ザヌーゾ、エンツォ・マーリ、フランコ・スカリオーネ、ジョルジェット・ジウジアーロ、マルチェロ・ガンディーニ……、たくさんのイタリア人デザイナーに影響を受けています。カロッツェリアでいえば、新しいエアロダイナミックコンセプトを打ち出したピニンファリーナ、カロッツェリア・トゥーリング、ベルトーネ。軽量化をもたらし、テール部をカットしたデザインの「コーダトロンカ」を初めて採用したザガート……。何らかのイノベーションや新たなスタイルをもたらし、機能性を美にまで昇華させたデザインにリスペクトを覚えます。

時計で言えば、’70年代に登場したスポーツ・シック・ウォッチは、非常に印象に残っているものです。ジェラルド・ジェンタ氏も尊敬する一人ですが、まさにその時代に適合したデザインを提供した人物と言えるでしょう。八角形の印象が強いかもしれませんが、ジェンタ氏の功績はむしろ、ケースとブレスレットとを一体化したデザインだったと考えます。

時計の場合、シンプルな形状で新しい美を創ることが必要です。これからもブルガリのDNAを継承する時計を作り続けるでしょうし、新たなアイコンも生み出したい。それがブルガリのアイコンたりえたかどうかは、10年後、20年後の皆さんの評価に委ねたいと思います。

10歳の娘と6歳の息子を持つ。「まだ時計を渡す年齢ではありませんが、2人とも時計が大好きですね。息子はスポーツウォッチ、娘はセルペンティを見ると大喜びです。スケッチも大好きですから、自分の子どもの頃を見ているようです」

オクト フィニッシモ
オートマティック セラミック
オクト フィニッシモの発展形となるセラミックモデル

取材の際、ファブリツィオ氏が着けていたのが、このブラックセラミックモデル。裏蓋、ピンに至るまでオールセラミック。軽量かつ耐傷性にも優れ、外観もクール。自動巻き。径40㎜。セラミックケース&ブレスレット。3気圧防水。167万9000円。問い合わせ:ブルガリ ジャパン

オクト フィニッシモ
クロノグラフ GMT
2019年に発表の世界最薄自動巻きクロノグラフ

クロノグラフに加えGMTを装備しながら、厚さわずか3.3㎜のキャリバーBVL318を搭載。ケース厚も6.9㎜。サンドブラストによるワントーン仕上げも自動巻きモデルからのDNAを継承。自動巻き。径42㎜。チタンケース&ブレスレット。3 気圧防水。188万5100円。問い合わせ:ブルガリ ジャパン

[時計Begin 2020 SPRINGの記事を再構成]
写真/山下亮一 文/まつあみ

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