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2025.08.15
【あの時、歴史が動いた⁉:第5回】~風雲児よ、何処へ~ オリバー・アイク編
高級時計の聖地、スイス。永世中立国でもある同国は、外からの圧力には屈しない。それは同時に、閉鎖的でもあるということ。フランス、ドイツ、イタリアに隣接していながらも、EUには加盟しておらず、通貨は未だスイスフラン。長い歴史を持つ時計ブランドの多くが今もなお現役なのは、急激な変化を好まず、伝統を重んじて歴史を守って来たからだ。退屈なルールに風穴を開けようとした時代の風雲児たちは、時に激しく攻防を繰り広げ、戦ってきた。そんな彼らは得てして、同じ場所にとどまらない。
時代の風雲児 #03
オリバー・アイク ~アイクポッドを生んだ仕掛人~
Profile:1965年、スイス生まれ。インダストリアルデザイナーであるマーク・ニューソンと1994年にブランドを立ち上げ、1996年にアイクポッド社を設立。ケース製造を実現するため、スイス・デレモン近郊のケース工場を購入。意欲的に内製化を進めた。

秋の新着スクープ15連発の1本として、アイクポッドから新登場のトゥールビヨンを紹介。真っ青なブルーダイアルには一切のインデックスが存在せず、トゥールビヨンが際立っていた。組み合わされたホワイトのラバーストラップも斬新だが、360万円という価格も衝撃だった。

高級なデザイナーズ時計を成功させた異端児
アイクポッドと言えば、デザイナーのマーク・ニューソンに散々スポットライトが当てられてきた。しかし、ブランド名をよく見て欲しい。「ポッド」はマーク・ニューソンの代表作。では「アイク」は? それはオリバー・アイクのことである。
1996年、この2人によってアイクポッド社は設立された。きっかけはアイクがフランクフルトの展示会でマークの時計に一目惚れしたこと。デザイナーズ家電しかり、デザイナーズ家具しかり、まず「デザイナーありき」のプロダクトは多い。しかし高級時計業界は、デザイナーが先頭に立つような仕事を好まない。それは時計の知識がない人、愛のない人がデザインした時計のちぐはぐさを、一部の時計マニアが途端に見破ってしまうからだ。

親日家としても知られるマーク・ニューソンを過密スケジュールの中で取材。シースラッグ・アラームなどの実用時計が、ただのデザインだけの時計ではないことを証明した。

スイス人であるアイクは、そんな牽制をも越えられる可能性をニューソンに見出したのだ。実際、トゥールビヨンを組み合わせたモデルまで実現しており、大成功を収めている。しかし高級路線を進めすぎた反動で、アイクは退陣することに。
現在のアイクポッドを指揮するのは、初期モデルのコレクターでもあるクリスチャン・ルイ=コル。彼もまた25歳の時に初めてアイクポッドの時計を見て一目惚れしたファンのひとりだった。
[時計Begin 2025 SUMMERの記事を再構成]