2025.08.19

【あの工房へ行ってきた!!:第35回】ここがフランク ミュラーの製造拠点、ウォッチランドのすべて ~マスター ジャンパー編~

瀟洒なネオゴシック様式のシャトーとレマン湖の間に広がる幾何学的なフランス式庭園。その左右には本館にならった建造物が4棟。一見、時計工房とは思えない優雅な空気が漂う。ジュネーブ郊外、ジャントゥにあるウォッチランド。生産体制を万全としたその現場を取材しあわせてダイアルとケースの工房も訪ね、フランク ミュラーの時計製造の「今」を深堀りする。

これぞマスター オブ コンプリケーション、マスター ジャンパーに「魂」を吹き込む。

自社製の一体型インテグレーションキャリバーFM3100C1。時は1枚、分とデイトは各2枚の計5枚のディスクを用いて表示し、全てが瞬転式だ。

トリプル・ジャンピングに込めた技とメッセージ

2019年に全関連施設が竣工、生産体制を整え、品質向上や新機構の開発などを進めているフランク ミュラーの本拠地、ウォッチランド。その「今」を象徴するモデルが「グランド カーベックス マスター ジャンパー」だ。

【フランク ミュラー/グランド カーベックス マスター ジャンパー】12時位置に時、センターに分、6時位置に日付をデジタル表示する機能を備え、ゆとりあるダイアルにはクル・ド・パリ ギョーシェが全面にあしらわれた。手巻き。ケース縦55.7×横38㎜。18KPGケース。クロコダイルストラップ。日常生活防水。1507万円。

’23年にパリで先行発表され、’24年に正式にローンチしたこのモデルは世界初のトリプル・ジャンピング機構を搭載。3D感に富む大胆なグランド カーベックスケースに収めた自社製キャリバーFM3100C1は、デジタル式時刻&日付表示の簡潔さとは裏腹に、部品総数は一般的なパーペチュアルカレンダーよりも多い371を数える。コンプリケーション部門でその組み立てに当たる時計師が、こう説明する。

「フランク ミュラーといえばコンプリケーション!」

「このFM3100C1は、時分用と日付用の2つのムーブメントが連携しているような機構で、香箱も上下2箇所に設置されている。異なる動力伝達系統があり、調整も通常の2倍かかる」

パーペチュアルを凌ぐ371パーツからなる複雑機構

371ピースのコンポーネンツが整理された状態で時計師に届いてから、組み立てに約1週間、その後のジャンピング機構や歩度の検査にさらに約1週間の計約2週間を要する。調整には、通常のムーブメントの約2倍の時間と労力を費やすという。

プロトタイプ部門で「エテルニタス」も手掛けたベテラン時計師も証言する。「ジャンピング機構は、設計上は理に適っていても、力の制御が難しく、バネの適正サイズも組み立ててシミュレーションしないと正解を見出せない。正直リピーターを作動させる以上に、ジャンパーの調整は骨が折れる」

いったん組み立てが完了したキャリバーFM3100C1は、ジャンピング機構の作動や歩度などを記録しながら、約1週間検査が実施され、次のプロセスに送られる。

“時計製造を極めるとは、技巧を誇示することなく、その技術を有効に生かすこと”――フランク ミュラーのメッセージが、この時計に凝縮している。

右を見ると、表側の上層に分表示の10の位と1の位の2枚のディスクが確認できる。そこからプレートを外したのが左。下層に時ディスクと日付ディスクが配置されている。

フランク ミュラー 公式サイト

[時計Begin 2025 SUMMERの記事を再構成]

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