2025.08.20

【あの工房へ行ってきた!!:第35回】ここがフランク ミュラーの製造拠点、ウォッチランドのすべて ~設計・開発編~

瀟洒なネオゴシック様式のシャトーとレマン湖の間に広がる幾何学的なフランス式庭園。その左右には本館にならった建造物が4棟。一見、時計工房とは思えない優雅な空気が漂う。ジュネーブ郊外、ジャントゥにあるウォッチランド。生産体制を万全としたその現場を取材しあわせてダイアルとケースの工房も訪ね、フランク ミュラーの時計製造の「今」を深堀りする。

カリスマの〝規格外〟を受け継ぐ頭脳集団とは

「綺麗な縦一列表示がとっても難しい」

R&Dは全ての部署が納得するようにはからう

「他がやっていないことに挑戦する。それがフランク ミュラーの哲学です」

R&D部門で開発・設計を担当するエンジニアに、トリプル・ジャンピング機構に挑戦した理由を尋ねると、そんな答えが返ってきた。

「R&Dは、デザイナーの発案を具体化し、パーツ製作の効率や、時計師の組み立てやすさも考慮し、一部の治具も設計します。全ての部門が納得できるよう工程を構築する仕事なのです」

分の1の位を動かす独創的なメカニズム

分表示の1の位のディスクを動かすタイミングを司るのが、ブルーで表示されているパーツ。正円をやや歪ませた形状で、対角線上にクランクを2箇所設置。4分間で1回転し、90度進むたびに、つまり1分進むたびに、爪石を配したパーツと接触し、ディスクを36度回転させる。

「マスター ジャンパー」の開発には約4年を要した。

「デザイナーのイメージ通りに直列にディスク表示を設置することが難しく、ジャンピングさせる5つのディスクに動力を適正に分配し、正確に作動させることに苦労しました」

ウォッチランドで大きな足跡を遺したピエール ミシェル ゴレイ氏が開発を指揮した、キャリバー1700の設計にも携わった。大型のテンワに18個ものチラネジを配し、穴石を18K製シャトンで留めるなど、クラシカルで品質が高く、愛好家の評価も高い。

「隣に座ったゴレイさんとモニターを一緒に見ながら、現場監督さながら指導を受けつつ進めました。できる限りエレガントに、それが教えでした」

ジャンピングを司る独自部品

ブルーで示された歯車が、時表示の裏側に潜む。12歯の肉抜きされた雪の結晶を思わせる形状。

分表示の10の位用の歯車も軽量性や正確な作動を考慮した形状に設計。

ブルーで示された歯車が、時表示の裏側に潜む。12歯の肉抜きされた雪の結晶を思わせる形状。
分表示の10の位用の歯車も軽量性や正確な作動を考慮した形状に設計。

 

AIが様々な分野に進出中だが…。

「個人的にはAIには消極的で、ここでも使いません。可能性のある技術でしょうが、人が関わることこそが重要」

そんな人間重視のスタンスもフランク ミュラーらしさかもしれない。

フランク ミュラー 公式サイト

[時計Begin 2025 SUMMERの記事を再構成]

※表示価格は税込み