2025.11.18

七宝と琺瑯? グラン・フーとは? エナメルの違いわかりますか①

【学ぶぞ、本格時計】パーツで分けて、すべてを理解しよう!

なんとなくは分かっているけど、人には説明できない……。そんな時計の専門用語を一度しっかりマスターすれば、本格時計の真の価値が見えてくるはずだ!

レベルソ・トリビュート・ エナメル “シャー・ナーメ”

[ダイアル編]
ジャガー・ルクルトが教えてくれるエナメル技法の数々

紀元前から継承される 金属とガラス質の融合

主に鉱物を原料とする顔料を細かく砕いて水や溶液に混ぜ釉薬とし、それを金属盤の上に塗布して750度以上の高温で焼成することでガラス質とする。エナメルは、ツタンカーメンの遺物にも見られるほど古来より伝わる工芸技術である。日本には安土桃山時代に技術が伝来し、下地がゴールドなら七宝(焼)、銅なら琺瑯と呼び分けている。

エナメルのガラス質は美観に優れ、化学的に不活性で変化しないため、古くからダイアルに用いられ、さまざまな技巧が研鑽されてきた。また近年は前述したラッカーを用いるコールド・エナメルと区別するため、伝統的な高温焼成エナメルはグラン・フー・エナメルと呼ばれることが増えている。

社内に180以上もの工芸技術を有するジャガー・ルクルトでは、多くのエナメル技術も継承される。そのいずれもが、グラン・フー・エナメルである。焼成時、気泡が生じやすいため、均一な質感を得るには特別な技術が不可欠。また細密画やこの後に登場するクロワゾネ、シャンルヴェといった多色エナメルの場合、色ごとに繰り返し高温焼成するために非常に手間がかかる。今回取り上げた以外にも、ステンドガラス状に仕立てたプリカジュールやエナメルを厚く盛るカボションなどの技巧があり、ダイアルを一層華やかに彩る。 

JAEGER- LECOULTRE(ジャガー・ルクルト)
レベルソ・トリビュート・ エナメル “シャー・ナーメ”

レベルソ・トリビュート・ エナメル “シャー・ナーメ”

反転式両面エナメル
ダイアルはフランケ、反転すると表に現れる裏蓋には細密画とパイヨンの各技巧を駆使。裏蓋側の絵は、ペルシャの叙事詩シャー・ナーメをモチーフとする。限定10本。手巻き。ケース45.6×27.4mm。18KWGケース。アリゲーターストラップ。完売。

問い合わせ:ジャガー・ルクルト
ジャガー・ルクルト公式サイト

永遠に色褪せない美しさは炎から生まれる【エナメルダイアル】

《エナメル細密画》

エナメル細密画

まず単色のエナメルを焼成し、その上から釉薬を絵の具代わりとして絵画を描く技法で、仏語ではミニアチュール。懐中時計時代には、肖像画が主なモチーフだった。

《グラン・フー・エナメル》

グラン・フー・エナメル

伝統的な高温焼成エナメルの総称であり、グラン・フーとは仏語で"大きな炎"との意。高温で焼く際、気化した釉薬が炎となるのが名前の由来だ。

《フランケ》 (ギョーシェ彫り)

フランケ(ギョーシェ彫り)

まず下地のゴールド盤にギョーシェ彫りを施し、その上から半透明の釉薬を用いて高温焼成することで模様を透かし見せる技巧。二つの工芸技術が融合し、ダイアルはよりあでやかな美しさを湛える。

《パイヨン エナメル》

パイヨン エナメル

エナメルを2層重ねる際、その間にゴールドなどの金属箔(仏語でパイヨン)を挟み込む技巧。下層の色と箔を透かし見せることで、より複雑な色合いとなる。

コールド・エナメルって何?

釉薬ではなくラッカーを用い、塗装と80度程度の低温で焼き固めることを繰り返し、エナメルに似た質感を得る技術。低温で焼くからコールドの名が付いた。安定したガラス質を形成するグラン・フー・エナメルとは、まったくの別物。

[時計Begin 2025 AUTUMNの記事を再構成]

※表示価格は税込み