- 時計Begin TOP
- 特集
- 200年以上前にブレゲが考えた脱進機が、21世紀の技術で実現
2025.12.25
200年以上前にブレゲが考えた脱進機が、21世紀の技術で実現
【学ぶぞ、本格時計】パーツで分けて、すべてを理解しよう!
なんとなくは分かっているけど、人には説明できない……。そんな時計の専門用語を一度しっかりマスターすれば、本格時計の真の価値が見えてくるはずだ!
[調速脱進機編]
時計師が追い求める「ガンギ車2つ」のメカニズム
採用ブランド続出! 次世代のスタンダートとなるのか!?【デュアル・エスケープメント】
初代ブレゲの発明を基に現代の技術・素材で実用化
今ある機械式時計の大半に使われているスイスレバー脱進機は、1700年代半ばに英国人時計師トーマス・マッジが発明したレバー脱進機をルーツとする。耐衝撃性に優れ、製造しやすい一方、ガンギ車の歯に対し、アンクルの爪を滑らすようにして動力伝達するため、潤滑油は不可欠となる。
アブラアン-ルイ・ブレゲは、脱進機から潤滑油を不要にしようと、並列した2つのガンギ車が交互にほぼ直接テンプに動力を伝達するナチュラル脱進機を考案。1802年に懐中時計に用いたが、当時の加工精度では量産できず完全実用化にはいたらなかった。
時を経て1960年代、英国人時計師ジョージ・ダニエルズは、ナチュラル脱進機の改良に挑んだ。その研究から1974年、大きさと形が異なる2つのガンギ車を同軸に重ねたコーアクシャル脱進機を発明。1999年にオメガが、同脱進機の量産化に成功した。
ナチュラル脱進機と同じく2つのガンギ車が並列する最初の量産モデルは、2001年に登場したユリス・ナルダンの「フリーク」であった。
以降、ナチュラル脱進機をたたき台とした高効率かつオイルフリーの脱進機が、さまざまに試みられてきた。
2011年には独立時計師ヴティ・ライネンが、2つのガンギ車の歯先がテンプの振り石を交互に打つダイレクトインパルス脱進機を発明。同じ年、ローラン・フェリエは、LIGAプロセスとシリコンパーツで初代ブレゲの仕組みに限りなく近いナチュラル脱進機の開発に成功した。そして今年、ロレックスからオールシリコン製のダイナパルスエスケープメントが登場。ほかにもF.P.ジュルヌとジラール・ペルゴなども、独自の並列ガンギ車脱進機を実現している。
すべては「フリーク」から始まった《デュアル ダイレクト脱進機》
ULYSSE NARDIN(ユリス・ナルダン)
フリーク

元祖シリコン製脱進機
ムーブメント自体が分針となり、60分で1周する。2001年に誕生した初代「フリーク」は、世界初のセンターカルーセルだった。さらに噛み合う2つのガンギ車の歯先がロッキングストッパーと呼ばれるパーツを介して交互にテンプを叩く「デュアル ダイレクト脱進機」を開発し、初搭載。シリコン製ガンギ車も先駆けた。
問い合わせ:ユリス・ナルダン
ユリス・ナルダン公式サイト
《ダイレクトインパルス脱進機》

四番車に輪列する2つの歯車に載ったガンギ車の歯先が、交互にテンプの爪石を打つ仕組み。その間に設置したパレット・フォークがテンプの振れ過ぎを制御し、備わるロッキング・ストーンでガンギ車の停止・ロックを繰り返す。
VOUTILAINEN(ヴティライネン)
ヴァントゥイット 28CG

工芸美に装う
2011年完成の完全自社製Cal.28を搭載。直径13.5mmの大型テンプを低摩擦のダイレクトインパルス脱進機が動力効率よく振動。ダイアルとケースサイド、リューズに施すギョーシェ彫りも自社の工房で行う。手巻き。径37mm。18KRGケース。カーフストラップ。2530万円(参考価格)

問い合わせ:ザキャラット
ヴティライネン公式サイト
《ダイナパルスエスケープメント》

噛合する2つのガンギ車は互いに逆回転し、各歯先が左下のインパルスロッカーを交互に作動させ、その先の二股部がテンプの振り座を動かす。右上の駆動車も含め、すべてシリコン製だ。

ROLEX(ロレックス)
オイスター パーペチュアル ランドドゥエラー 40

最新技術が集結
新脱進機を初搭載し、生まれた新モデル。シリコンで一体成形したプレートでブリッジに固定するシロキシ・ヒゲゼンマイも採用する。ブレス一体型にみえるスタイルは、1960年代製モデルの再解釈。自動巻き。径40mm。SSケース&ブレスレット、WGベゼル。225万5000円。
問い合わせ:日本ロレックス
ロレックス公式サイト
《ナチュラル脱進機》

噛み合う2つの歯車状のガンギ車に設えた垂直の歯が、その間のパレットを順に叩き、テンプを振動させる仕組み。ガンギ車の形状は初代ブレゲとほぼ同じ。ガンギ車はLIGA、パレットはシリコンで精密成型した。
LAURENT FERRIER(ローラン・フェリエ)
クラシック・マイクロローター エバーグリーン

美と革新性の融合
グリーンの色味を、縦方向に入れた細かな筋目が深くする。ナチュラル脱進機とマイクロローターが備わるメゾンを代表するCal.FBN 229.01は、ジュネーブ伝統の様式美と入念な手仕上げも魅力。自動巻き。径40mm。18KRGケース。カーフストラップ。1309万円。
問い合わせ:スイスプライムブランズ
ローラン・フェリエ公式サイト
ECAPEMENT Column 「LIGA(リーガ)」って何?
\ セイコーは「MEMS」って呼んでます /

シリコン基板上に、フォトリソグラフィの技術で部品形状の型を成形し、そこに金属のめっきを積層させる技術。高精度かつ、複雑な形状が作成可能。セイコーは、この技術をMEMSの名でいち早く導入。脱進機をフレーム状とし、軽量化した。
[時計Begin 2025 AUTUMNの記事を再構成]
※表示価格は税込み
