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2025.12.22
歩度の調整はフリースプラングか、緩急針か
【学ぶぞ、本格時計】パーツで分けて、すべてを理解しよう!
なんとなくは分かっているけど、人には説明できない……。そんな時計の専門用語を一度しっかりマスターすれば、本格時計の真の価値が見えてくるはずだ!

[調速脱進機編]
ムーブメント組み立ての、ここが腕の見せ所【歩度調整】
PP(パテック フィリップ)独自のジャイロマックス
テンプに設置した偏心錘で慣性モーメントを変える
機械式時計の歩度調整は、長く前述のひげゼンマイの有効長さを変える緩急針式だった。パテック フィリップは1951年、テンプのリム上に設置した複数の偏心錘(マスロット)を回し、慣性モーメントを変えることで歩度調整する「ジャイロマックス・テンプ」を発明し、特許を取得した。
慣性モーメントとは、物体の回転しにくさ(しやすさ)を表す物理量。テンプの場合、直径が大きいほど、あるいは最外周が重たいほどその数値は大きくなり、回転しにくくなる。フィギアスケートのスピン中、選手が手を広げると回転が遅くなり、閉じると速くなるのも同じ原理。一度組み込んだテンプの直径は変えられないので、最外周の重さをマスロットで変えることで振動速度を調整しているのだ。
緩急針式より歩度の微調整ができ、精度もより長く安定させられる「ジャイロマックス・テンプ」は、特許が切れた後、多くのブランドが採用した。また近年は、調整ネジでテンプの慣性モーメントを変える設計も増えている。
《フリースプラング式》

テンプの外周部に取り付けた偏心錘やネジを回し、慣性モーメントを変えることで歩度調整する仕組み。ひげゼンマイの終端を挟む緩急針式より耐衝撃性が高まるが、調整幅が狭くテンプや偏心錘・ネジは高い加工精度が求められる。

マスロットには、図のようにスリットが設けられている。マスロットを回しスリットが上に向くほど外周部は軽くなって歩度は速くなり(+調整)、逆に下に向くほど遅くなる(-調整)。
PATEK PHILIPPE(パテック フィリップ)
カラトラバ 瞬時送り式曜日・日付表示 8日巻 5328

8デイズの新キャリバー
12時位置のパワリザ計は、レッドゾーンの余力1日分を加えた9日間をカウントダウンする。ダイアルの質感はヴィンテージカメラがモチーフ。ケースサイドはクル・ド・パリが取り巻く。手巻き。径41mm。18KWGケース。カーフストラップ。1119万円。
問い合わせ:パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター
パテック フィリップ公式サイト
ミネルバの古典的なスワンネック緩急針
見た目が美しく高機能な白鳥に似た緩急針機構
こちらで述べた振り子の等時性は、紐の長さを調整すれば、求める振動数が得られることも意味する。これにより人類は、短い周期の時間を正確にカウントする術を手に入れたのだ。テンプとひげゼンマイの組み合わせも、これと同じ原理であることは前に述べた通り。そしてひげゼンマイの長さを変えれば、歩度調整ができることになる。
フリースプラング式ではない場合、ひげゼンマイの外側終端はブリッジに据えたひげ持ちで固定されている。そしてその内よりでひげゼンマイを挟むひげ棒を、緩急針で動かすことで有効長さを変えられる仕組みになっている。緩急針は、より細かく調整でき、また耐衝撃性が高まるよう、さまざまな構造が考案されてきた。その中で懐中時計の時代から高級機に用いられてきたのが、スワンネック緩急針である。
モンブラン傘下のマニュファクチュールであるミネルバは、古典的なスワンネック緩急針を多くのモデルに採用する。白鳥の首に似た造形が美しく、また微調整がかなうスクリューと板バネとで緩急針が挟まれているため衝撃にも強いことが、採用理由だ。
長い歴史を重ねてきたスワンネックには、受け継がれてきた訳がある。
《緩急針》

針状のパーツを動かしてひげゼンマイの有効長さを変え、テンプの振動の緩急を調整するから緩急針。フリースプラングのような専用の工具や技術が不要で、また調整範囲がはるかに広い。一方、シリコン製ひげゼンマイには使えない。

スクリューを緩めると白鳥の首状の板バネが押し、締めれば広がり緩急針が動く。ピッチ(ネジ山間の距離)が細かいスクリューが、厳密な微調整を可能にする。
MONTBLANC(モンブラン)
モンブラン 1858 アンヴェールド ミネルバクロノグラフ リミテッドエディション

反転式クロノ
スケルトンのようだが、実はリューズ同軸のワンプッシュクロノのムーブメントを反転して搭載し、全機構を表側に露わにした。ケースサイドにも5つの窓を設け、中を透かし見せる。限定100本。手巻き。径43mm。SSケース。カーフストラップ。828万9050円。
問い合わせ:モンブランお客様サポート
モンブラン公式サイト
ECAPEMENT Column「人工ルビー」って何のため?

人工ルビーの大半は、軸受けと脱進機のアンクルの爪に用いられる。軸受けのルビーは受石と呼ばれ、椀状の内側で潤滑油を保持する。左はテンプの軸受け。軸先を通す穴石と受石がセットになり、さらに耐震装置が載る。
[時計Begin 2025 AUTUMNの記事を再構成]
※表示価格は税込み