2017.11.24

腕時計の真の価値が分かる「現地」訪問ツアー あの工房へ行ってきた!! vol.17/Parmigiani Fleurier(パルミジャーニ・フルリエ)【後編】

腕時計の真の価値が分かる「現地」訪問ツアー あの工房へ行ってきた!! vol.17/Parmigiani Fleurier(パルミジャーニ・フルリエ)

修復からひげゼンマイまで、
なんでもできる時計ブランド
「神の手」を支える6つの拠点を完全制覇 !!

神の手と称賛される修復師が、自らのメゾンを1996年に設立。以降パルミジャーニ・フルリエは、内製化を推進してきた。
今も修復を請け負う本社に加え、5つの工房を傘下に。時計製作のほぼすべてを統合し、真の独立性を堅持する。
写真/岸田克法 文/髙木教雄 構成/市塚忠義

パルミジャーニ・フルリエの拠点1 カドランス&アビヤージュ

パルミジャーニ・フルリエの拠点1 カドランス&アビヤージュのイメージ

隕石からMOPまで手掛けるトップクラスのダイヤル工房

ダイヤルを専業とし、外観の美しさを決定付けるキーファクトリー。
様々な仕上げ・素材に柔軟に対応し、多彩な表現を可能にする。

  • 最上級のMOP で美を極める

    最上級のMOP で美を極める

    ブラックとホワイトのMOPダイヤル。黒く色付けしたMOPも少なくない中、ここではタヒチ産のブラックMOPを用いる。自然素材ならではの豊かな質感が美しい。

  • 深い艶感を生む手仕事

    深い艶感を生む手仕事

    ブラック・オパーリンのダイヤルは、回転する砥石に繰り返し押し付け、つややかで深い黒を得ている。仕上げの途中、周囲が映り込む鏡のような質感がすでに出ている。

硬くて脆い隕石も丁寧に精密加工

硬くて脆い隕石も丁寧に精密加工

隕石は、硬く脆く加工が困難。さらにダイヤル用は薄いため、インダイヤルやロゴ、針穴などの精密な切削加工時に反りが生じやすいが、独自のノウハウで完璧な平滑面を得ている。

ダイヤルに深い美を生む腕利き揃いの少数精鋭

2004年に財団の傘下に入ったダイヤル専業の「カドランス&アビヤージュ」は、前頁で紹介したLABと社屋が同じ。つまり、パルミジャーニ・フルリエの美観を決定付ける外装部門は、1つの建物に集約されているのだ。結果、ケースとダイヤルの各部門が密に連携でき、外観の美しさをトータルに高めることを容易にしている。
ここで働くスタッフは、18名。一人ひとりが、いくつもの工程を担当できる腕利きが揃う。他の傘下ファクトリーと同じくパルミジャーニ・フルリエ以外のクライアントを持ち、そのいずれもがスイスのル・ブラッシュやドイツの有名ブランドばかりだ。それだけ技術力が高く、高級時計にふさわしい美観を作り出せることの証。例えばギョーシェは他社が多用するスタンピングではなく、機械“彫り”でエッジが鋭い模様を描き出している。
メゾンが多用するメテオライトやMOPのダイヤルの最終仕上げを行うのもここが担当。どちらもベースとなる金属プレートに貼り付けられるが、自然素材で完璧な平滑を保つのには、特別な技術が必要だという。こうした特殊素材に限らず、ここで作られるすべてのダイヤルにはそれぞれ専用のファイルが用意され、作業方法や注意点などが共有されるシステムになっている。メッキ加工にも長け、多様な色を自在に作り出してもいた。全工程の内、約90%が手作業。至高の職人技が、他社を圧倒する美をダイヤルに与える。

  • 淑女をシックに彩る

    淑女をシックに彩る

    トンダ 1950

    ダイヤモンド付

    ブラックMOPに浮かぶクッキリとした虹彩は、上質の証。その周囲をダイヤモンドが取り巻いて、一層艶やかな装いに。ブラウンのストラップと組み合わせ、シックにまとめた。自動巻き。径39㎜。18KRGケース。アリゲーターストラップ。245万円。

  • 宇宙の神秘をその腕に

    宇宙の神秘をその腕に

    トンダ 1950

    メテオライト

    モダンな薄型ドレスウォッチが、隕石ダイヤルでニュアンスを深め、表情豊かに。鈍色がかったチタンケースとブルーのコントラストが鮮やか。ブルーのストラップもお洒落だ。自動巻き。径39㎜。チタンケース。アリゲーターストラップ。208万5000円。

パルミジャーニ・フルリエの拠点1 アトカルパ

パルミジャーニ・フルリエの拠点1 アトカルパのイメージ

ひげゼンマイ&高級パーツ
装飾までしてから納品

香箱と歯車、テンプに脱進機など主要なムーブメント部品の製造拠点。
ひげゼンマイの自社製造にも成功し、メゾンの独立性を保つ。

  • 1つずつ丁寧に表面装飾を施す

    1つずつ丁寧に表面装飾を施す

    香箱の表面に施す、サンバースト仕上げのテストピース。回転する専用工具を押し当て、丁寧に模様を重ね、ミシェル・パルミジャーニ氏や高級メゾンの厳しい審美眼に応える。

  • 高性能な自社製ひげゼンマイ

    高性能な自社製ひげゼンマイ

    上がドイツの専用メーカーから納品された直径0.7㎜の原材料。これを繰り返し引き伸ばし、下にある直径0.07㎜とする。さらに専用の機械で角断面へと圧延される。

美と性能とを兼ね備えた超高級路線のパーツを製造

前身は、1976年創業の歯車メーカー。2000年に財団の傘下となってから脱進機、さらにはひげゼンマイの自社製造にも着手し、今ではムーブメントの主要なインナーパーツの大半を「アトカルパ」が、製造している。
2007年に開発に成功したひげゼンマイは、まず直径0.7㎜の独自配合の合金線をドイツから仕入れ、それを自社で直径0.07㎜まで引き伸ばした後、角断面へと圧延。それを必要な長さにカットし、3~5本まとめて専用工具で巻き上げ、スパイラル状に形成する。目指しているのは、「手作業での調整をしなくて済む、高品質なひげゼンマイ」。この目標は脱進機も同じで、ガンギ車は一般的なホブカッティングに独自の磨き工程を加え、オイルの保持力を高め、アンクルの爪石は独自のマシンを開発し、最適な長さ・角度になるよう、高度に自動化されている。極めて高品質な同社のひげゼンマイを含む調速脱進機は、パルミジャーニ・フルリエ向けに加え、スイスの名だたる高級時計ブランドが渇望し、年間生産数は25万個に及ぶという。
創業事業である歯車も、超高級路線だ。すべてに歯の面取り、歯と歯の間の磨き、さらに表面にサーキュラーなどの装飾を施し、仕上げにうるさい超名門ブランドの要望に応えている。微細な筒カナの歯間磨きのための専用マシンも開発。さらに天真や歯車の軸も、先端に強い圧力をかけて硬度を上げ、突端を丸く研磨することで摩擦を軽減。最良の仕上げを施すアトカルパの部品は美しいだけでなく、それを組み込むムーブメントを高性能にする。

  • モダン仕立ての工芸文字盤

    モダン仕立ての工芸文字盤

    トンダ 1950

    スケルトン

    薄型自動巻きを127のラインを残し、手作業でスケルトナイズ。工芸技術とモダンな意匠とが融合を果たした。マイクロローターのダイヤル側に施す模様は、特徴的なラグの形の図案化。自動巻き。径39㎜18KWGケース。アリゲーターストラップ。416万5000円。

  • メゾン最初期の3  針モデルが復活

    メゾン最初期の3 針モデルが復活

    トリック

    クロノメーター

    ローレット加工を施したゴドロン装飾ベゼルや槍型針など、メゾン誕生時からのディテールを継承。大型ケースと3 日表示デイトで巧みにモダナイズもされている。ムーブメントはCOSCを取得。自動巻き。径40.8㎜。18KWGケース。アリゲーターストラップ。184万円。

生産性と高い美観を両立するノウハウ

生産性と高い美観を両立するノウハウ

香箱の各穴車の表面仕上げの準備。60個ほどが載せられる治具にセットし、特殊なマシンで表面にサンバーストの1 次仕上げを施し、手作業による最終仕上げを行う。優れた美観と量産性を両立する特別な設備とノウハウを持つのが、アトカルパの強みだ。

パルミジャーニ・フルリエの拠点1 エルウィン

パルミジャーニ・フルリエの拠点1 エルウィンのイメージ

最小径はなんと0.08㎜!
旋盤一筋のネジメーカー

微細なネジまで自社製造するマニュファクチュールは、スイスでも稀。
高度な旋盤加工技術を駆使し、唯一無二の高品質ネジを生み出す。

  • 微細ネジも拡大し、検査

    微細ネジも拡大し、検査

    超微細な部品を数百倍に拡大投影できる検査機。手前の盤面に拡大された部品が映り、それに図面を重ね、設計通りの山形状やピッチになっているか、抜き取り検査する。

  • 新旧の旋盤がズラリ!

    新旧の旋盤がズラリ!

    1970年代のカム式から最新の自動マシンまで、新旧の旋盤を製品に応じて使い分けている。1製品につき1 人の職人が専従。毎日マシンを微調整し、±2ミクロン以内の公差で切削。

超微細ネジも切削加工する旋盤加工のスペシャリスト

1980年、古い旋盤をCNC化するメーカーとして創業し、2001年に財団傘下になったのを契機に旋盤加工を専業とするファクトリーへと転身。製造業としての歴史は浅い「エルウィン」だが、その技術は超一流で、クライアントには、スイスとドイツの錚々たる時計ブランドが名を連ねている。
旋盤で加工される時計パーツの内、直径7㎜以上はアトカルパが担当し、それ未満の微細なパーツの製造をエルウィンが担う。中でも得意とするのが、微細ネジの製造だ。一般的に直径1㎜以下の微細なネジは、細い棒状の部材に二分割した型を押し当てながら旋盤で回し、ネジ山を形成する転造と呼ばれる技法で作られている。加工精度も高く量産に向くが、一方で型を押し当て加工する際の圧力と摩擦熱とで、部材の組成が変わるのが難点。型を押し当てていないヘッド部分とは硬さが異なり、強く締めつけると硬度差で折れてしまう可能性がある。対してエルウィンは、どんな微細なネジでも旋盤切削でネジ山とヘッドを一体成型している。結果、組成が均一なネジとなり、締めつけの際、折れることはほぼない。1個2スイスフランと、ネジとしては極めて高額にもかかわらず、高級ブランドがこぞって採用する理由がこれだ。
リューズの巻き芯やクロノグラフのコラムホイールを旋盤加工する技術も持ち、その加工精度は後の仕上げをしなくても十分機能するほど高い。旋盤一筋の頑さが超一流の技術の源泉だ。

肉眼では見えないネジ山も旋盤で切削加工

肉眼では見えないネジ山も

旋盤で切削加工

ボールペンの先と比べれば、いかに小さいか分かるだろう。こんなに小さくても、旋盤の刃 微細ネジも拡大し、検査先でネジ山を切っているとは、驚き。ヘッドの溝も一体成型で、組成が均一で極めて高品質。

カリテ フルリエにも潜入しました!!

  • 最も厳しい品質検査機関

    最も厳しい品質検査機関

    COSC取得ムーブの時計の耐衝撃性などを検査するカリテ フルリエは、2004年に制定。その検査機関はフルリエ市役所内。

  • 人の腕の動きを完全再現

    人の腕の動きを完全再現

    歯磨きや食事など、日常の腕の動きを再現するマシンで時計の耐久性を検査。かなり強烈な加速・減速が繰り返される。

厳格な公的検査をクリア

厳格な公的検査をクリア

トンダ 39

カリテ フルリエ

その名の通りカリテ フルリエを取得。COSC取得に加え、全部品の装飾仕上げも前提条件で、高精度と美観、耐久性とが保証される。ラッカー仕上げのダイヤルの質感も、極めて美しい。自動巻き。径39㎜。18KRGケース。アリゲーターストラップ。208万円。