2018.11.02

編集部員の「欲しい!」時計インプレッション(グランドセイコー SBGJ203)第5回【最終回】「印象」の巻

『時計Begin』編集長・中里 靖

リポーター : 『時計Begin』編集長・中里 靖

第5回「印象」の巻

グランドセイコー「SBGJ203」のインプレッション、いよいよ最終回。またもや前回からだい~ぶ間が空いてしまいました。心の底から申し訳ありません。てへ。

〆ということで、本来ならばGSの真骨頂とも言える精度について言及すべきなのでしょう。それは十二分に解っています。が、ぶっちゃけ精度って文字にすると数字や記号の羅列になってしまってリアリティに欠けちゃうし、そもそも精度そのものを秒レベルで気にする機会ってプロユース以外ではあまりないんじゃ?とかなんとか思ったりもするわけです。

他方、こと機械式時計に於いて精度というのは、それを手掛けたブランドの総合力を推し測る確かにして辛辣なモノサシでもあります。なのでもちろん「どーでもいい」なんてこれっぽっちも思っていませんが、GSのそれに関しては多くの皆さんが絶対的な信頼を置いていると思いますし、私も普段使いさせていただいた経験則からそれに相違はないと実感(進みや遅れを気にする必要がなかった=それだけ精度が高い)していますので、この連載ではあえてスルーさせていただきます。ご了承ください。

ならば〆として何をお題にするか?ってな話になりますが、今回は私が長年感じている、時計が人にもたらす“印象”について「SBGJ203」を通じて書こうと思います。正解のない完全な私見ですがあながち間違ってはいないと自負していますので、1人の時計好きの1意見として、お暇なときにでもご一読願えると幸いです。

前フリが長くて申し訳ありません。

んじゃダラダラと書きます。

これは別に「よしあし」ということではないんですが、多くの日本人は時計を「モノ」として、自分とも装いとも切り離した、独立した存在として見ているような気がします。日本は元々職人さんが多く存在する国ですから、手間隙かけて作られた「いいモノ」は尊敬する、掛け値なしの評価を与える、という考えが根づいているのでしょう。

もちろんそれ自体は素晴らしいメンタリティですが、「モノ」単品で評価するクセが染み込んでいて、ゆえにどうしても自身のライフスタイルや全身のトータルバランスという側面から見ることに慣れていないように思います。

時計に関しても然り、です。

例えば、同じく職人大国であるイタリアも「モノ」への絶対的評価は存在します。そこは日本同様で、職人さんは自らの技術やそれを駆使して生み出した「モノ」に絶対的な自信を持っていますし、それを享受する顧客や消費者は作り手である職人さんに対して頗るの敬意を持って接しつつ、生み出された「モノ」に対して掛け値なしの評価を与えています。

ここまでは日本もイタリアもほぼ同じですが、イタリアの顧客や消費者は「モノ」を自分に溶け込ませ、自分のキャラクターを表現するためのツールとして活用するのが本当に巧い。そこが私を含む一般的な日本人と大きく違うところだと感じています。

そしてこれまた、時計に関しても然り、です。

以下は私が過去、実際に見聞したからこそ言えることなんですが、イタリアのファッション関係者なんかは派手に見られがちで、実際派手な人もそっこら中にいますが、こと時計選びに関しては非常に保守的で、私が接した限り、彼らが高評価を与えている時計ブランドというのは日本以上にかな~り限られています。片手ほどのほんの数ブランド、と言い切っても過言じゃありません。

そして彼らは往々にして新しモノ好き・機械好き・時計好きなものの、流行を気にせず浮気もせず、結果的にそのような評価の高いブランドのスポーツウォッチをしている率がすごく高い。

なぜか? 実はかなり以前、それを実践していた某高級ニットブランドのCEOに訊いたことがあるんですが、着けている時計のブランド力および牽引力によって「落ち着いていて、知的で、かつ活動的な男性に見える」「いい時計にはそういう演出力がある」と言っていました。「だからいつもコレを着けているんだ」と。

そのCEOはインタビュー時にピンクのニットを着て赤いパンツを穿いていたんですが、確かに安心感のある落ち着きと、頼り甲斐のある知的さと、エネルギッシュな行動力をビンッビンに感じました。同時に、ものすごく大きな包容力というか、色っぽさというか、そういう余裕もガンッガンに感じました。繰り返しになりますが、上半身がピンクで下半身が赤なのに、です。それがあまりに“印象”深かったので、確かもう20年くらい前の取材でしたが、今でもハッキリ憶えています。

つまりこのCEOに代表されるように、彼らはそういう時計の効果を相当に理解し、存分に活用しているわけです。逆に言えば時計というのは、コーディネイト全体の見え方を大きく左右し、結果的にその人の“印象”を大きく決定づける、小さなクセして極めて大きな影響力を秘めているのです。

半年以上に亘った今回のインプレッションを通じて、「SBGJ203」もまさにそんな影響力を秘めた「いいモノ」だと思いました。スイスブランドに真っ向勝負を挑める実力に基づく「グランドセイコー」のブランド力、そしてそこが手掛けた超人気定番モデルという牽引力。「SBGJ203」にはそれらの力が含有されていますから、私みたいなちんちくりんがピンクのニットを着て赤いパンツを穿いていたとしても「落ち着いていて、知的で、かつ活動的な男性」として周囲に“印象”づけてくれることでしょう。これをお読みくださった方が以降に私と会って、私に対してそう感じてくださったとしたら、言葉は悪いですがそれはきっと袖口の「SBGJ203」による“印象”操作に他なりません。

これら時計の“印象”云々は、上述したように私がずっとお伝えしたかったことなんですが、あくまでも私見なので、公共性が必要とされる誌面でそれを語るのは避けていました。しかしながら今回「SBGJ203」をお借りし、数ヵ月に亘って使わせていただいている間、何人もの友人から「なんか真面目に見えるんだけど?」とか「そんなキャラだったっけ?」とか「狙いは何?」とか、私の“印象”に関する言及が多々ありました。それを受け、この機会に「時計の影響力をもっともっと活用していただくためにもやっぱ語ろう」と思った次第です。

さて、全5回に亘って書き連ねてきた【編集部員の「欲しい!」時計インプレッション/グランドセイコー「SBGJ203」編】はこれにて終了します。以降も私を含め、編集部員フル動員で「欲しい時計が見つかったら連載開始」というスタンスで不定期連載を続けますので、引き続きのご愛顧を何卒宜しくお願いいたします。

ありがとうございました。

なぜか自宅にあったピンクのニットとともに。安っぽい表現力しかないので多くは語りませんが、「SBGJ203」から本文中で述べた「力」を大いに感じます。

「欲しい!」時計 : GRAND SEIKO(グランドセイコー)「SBGJ203」

GRAND SEIKO グランドセイコー 「SBGJ203」

GRAND SEIKO グランドセイコー「SBGJ203」
グランドセイコーの超人気定番GMTモデル。通常の時分秒針に加えて、24時間で文字盤を一周する赤いGMT針を搭載。ダイヤル外周にある24時間目盛と照らし合わせることで、時間帯の異なる2ヵ所の現在時刻がひと目で判る。キャリバーは「9S86」。自動巻き。径40mm。SSケース&ブレスレット。10気圧防水。67万円。
お問い合わせ先:グランドセイコー専用ダイヤル Tel.0120-302-617

バックナンバー:
→ 第1回「選定理由」の巻はこちら
→ 第2回「見やすさ」の巻はこちら
→ 第3回「ファッション性」の巻はこちら
→第4回「使い勝手」の巻はこちら