2021.11.27

チューダーがマスタークロノメーターを取得した理由は?

“アニキ”とは別の独自路線をひた走る

漆黒のセラミックケースに、1万5000ガウスの超高耐磁ムーブメントを搭載。時計界2社目となるマスタークロノメーター認定モデルが、満を持して登場した!

自社ムーブを大幅改良し最も過酷な試験をクリア

突然の、そして全く予想外の新作の登場である。ウォッチズ&ワンダーズジュネーブ終了後の5月25日に発表された「ブラックベイセラミック」は、時計界を少なからずザワつかせた。チューダーがマスタークロノメーター取得を画策していたとは、誰の想像の範疇にもなかったからだ。しかし2019年から、準備は進めていたという。

時計ファンならご存じのように、マスタークロノメーターは、METAS(スイス連邦計量・認定局)による腕時計の公的規格である。制定を主導したのは、オメガ。2015年にその認定1号モデルを発表した際、「マスタークロノメーターは、スイスの時計メーカーであれば、どこでも試験・認定が受けられる」とアナウンスされた。だが、これまで他社が同規格取得にトライした例はなかった。課せられる8つの試験が、あまりに過酷だからだ。とりわけクリアするのが難しく、この規格を象徴するのが、1万5000ガウスの強磁場下における精度の安定。

チューダー本社に問い合わせたところ、このモデルが搭載するキャリバーMT5602‐1Uは「既存ムーブメントから大幅な変更が加えられている」とのこと。そもそもチューダーのマニュファクチュールムーブメントは、超高耐磁実現に欠かせないシリコン製ひげゼンマイが採用されていた。そしてシースルーバックの実機を観察してみると、脱進機はシリコン製ではないようだが、これまでとは明らかに質感が異なっている。またテンワとインカブロックの色も既存とは違う。これらの変更点が、非磁性体の採用によるかは定かでないが、チューダーは極めて難しい1万5000ガウスの超高耐磁仕様を実現してみせたのである。

困難に敢えて挑んだ理由は「時計業界において最高レベルの計時精度および耐磁性基準に則って時計製造を行うことのできる技術力を示すため」。ジュネーブの本社内には、METASが試験を行う専用のラボも開設された。ゆえにマスタークロノメーター取得は、ブラックベイセラミックだけに留まらないと予想できる。これに関しても本社に問い合わせたが、「未来の方略についてコミュニケートすることはしない」と前置きした上で、「マニュファクチュールキャリバー搭載のモデルであれば、すべてマスタークロノメーター取得のための基準を満たすことができるようになった」との回答が返ってきた。チューダーは、耐磁技術でも、スイス時計界をリードする。


ブラックに染められた超高耐磁ムーブメント
マスタークロノメーター取得の新作は、チューダーでは珍しいシースルーバック仕様。1万5000ガウスの超高耐磁を実現したCal.MT5602-1Uは、ブリッジと非磁性体であるタングステン製ローターとをケースと同じブラックに仕立てた。またブリッジの造りも装飾的な凹凸が設けられ、特別感がより高い。


日本展開モデルでは初のセラミックに身を包む
ブラックベイセラミック

チャリティーオークション、オンリーウォッチへの2019年出品モデル以来となるセラミックケースは、日本展開モデルでは初。漆黒の外観が、超高耐磁にふさわしい。逆回転防止ベゼルのインレイもセラミックとし、ケースも含め丁寧なサテン仕上げによるマットな質感が美しい。自動巻き。径41㎜。セラミックケース。カーフ+ラバーストラップ。53万9000円。


METASの試験の様子。永久磁石を積み上げて作った1万5000ガウスの強磁場内に時計を入れ、動作と取り出した後の精度を検証。


実際にすべての時計を水中に沈めて加圧する国際標準化規格ISO22810:2010に準拠した防水テスト。これで200m防水が保証される。


巻き上げ残量100%の状態と33%の状態とで、6姿勢の各精度を測定。異なるパワーリザーブ量での精度テストは、クリアがかなり困難。

 

[時計Begin 2021 autumnの記事を再構成]