2022.12.09

受け継ぐ時計:膳場貴子さん(『報道特集』キャスター、フリーアナウンサー)

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仕事の姿勢を伝えるウォッチと、くつろぐ時間のクロックと端正なスタンスに寄り添う時計

毎週土曜日の夕方、凛とした姿でニュースを伝える『報道特集』キャスターの膳場貴子さんが愛用する時計に隠されたエピソード、そして、いつかお子さんに受け継ぎたい時計とは?

ぜんば・たかこ/『報道特集』キャスター、フリーアナウンサー。東京都生まれ。東京大学卒業後、1997年アナウンサーとしてNHK入局。『おはよう日本』『プロジェクトX』などに携わった後、2006年退職。同年9月より、ジャーナリスト筑紫哲也氏がメインキャスターを務めたTBSテレビ『NEWS23』のキャスターに。9年半にわたり同番組を担当。2016年より現在まで『報道特集』のキャスターを務めている。

 

時計に無頓着だった自分に響いたプロのアドバイス

2010年の春だったと記憶しているのですが、番組改編で『ニュース23』が『ニュース23X(クロス)』という番組にリニューアルされ、メインキャスターの松原耕二さんと番組を進めていくことになりました。その際、松原さんから「友人のスタイリストが、膳場さんにアドバイスしたいと言っている」というお話を頂いたんです。それで、尊敬するスタイリストの押田比呂美さんにお目にかかる機会を得ました。それまで、私は身に着けるものに割と無頓着でした。腕時計は、家電量販店の1階あたりで売っているものを使うのが当たり前。秒針があって、日付が分かれば仕事にはそれで十分。もしなくしてもダメージを受けない。ほとんど文房具と同じような感覚でした。

押田さんからは、まず腕時計のダメ出しをされました。「手元って意外と目が行くもの。社会的な立場や年齢にふさわしいものを着けるべきです」って。TPOに合った着こなしをするのが、大人としての嗜みであり、マナーだというお話をしてくださいました。腕時計が社会的な立場だとか、大人としての立ち居振る舞いだとか、自分の発言の重さだとか、そういうものにつながるなど全く考えていなかったので、もう「へえ!」と目から鱗でした。彼女の指摘は全て、本当に納得できることばかりでした。

その場で紹介してくださったのが、ブシュロンの「リフレ」という時計。ちょうど押田さんが雑誌で取り上げておられたページを見せて頂き、華美過ぎず、品があって、確かにこれは大人が身に着けるものだなと、ひと目で惚れてしまいました。

翌日、すぐにこの時計を探して購入しました。日本橋三越でした。最初は黒とシルバーのレザーストラップ2本から使い始めました。ケース上下のバーにスライドさせてストラップを付け外しできるのも気に入っています。その後、少しずつ買い足していって、メタルブレスレットにしてからは、仕事のときはほとんどこれです。強度があって機能的ですし。

実は私が押田さんにお会いしたのは、アドバイスをして頂いた、その一度だけなんです。颯爽と現れて、プロフェッショナルとして的確にピンポイントで助言してくださり、立ち去っていく。そんな彼女の立ち居振る舞いも、とても印象的でした。「大人のできる女性は、こうでありたい!自分も、そういうプロフェッショナルになりたい!」と憧れましたね。

2010年に購入以来愛用するブシュロンのアイコン的なレクタンギュラーモデル「リフレ」。現行タイプとは異なるホリゾンタルタイプ。インデックスにダイヤモンドをセット。SSケース。クォーツ。

TPOによってストラップの付け替えも楽しんでいる。「白は軽やかな感じがあるので夏場に、冬はパイソン、クリスマスシーズンには赤とか」

2010年に購入以来愛用するブシュロンのアイコン的なレクタンギュラーモデル「リフレ」。現行タイプとは異なるホリゾンタルタイプ。インデックスにダイヤモンドをセット。SSケース。クォーツ。
TPOによってストラップの付け替えも楽しんでいる。「白は軽やかな感じがあるので夏場に、冬はパイソン、クリスマスシーズンには赤とか」

 

お気に入りのニキシー管時計を子どもに贈るタイミング

この「リフレ」は、ずっと使い続けると思いますから、娘に渡すことは考えていません。まだ小学校低学年ですし。それに彼女には、自分の腕時計は自分で買えるような人になって欲しい。ただ、いつか彼女に渡そうかなと思っている時計があります。オレンジ色の光で数字を表示する真空管風の外観のニキシー管を使ったクロックなんです。

ニキシー管は1990年代までに生産が全て終わっていたのですが、モノ作りに携わっている友人たちが、チェコまで再生産交渉に出向き、現地生産したニキシー管を、日本で組み立てて時計にしています。暖かみのある色や、少し揺らぎがある感じもすごく好きですね。製作に関わったデザイナーは、焚火のイメージだとおっしゃっていて、確かに暖炉の火を眺めるような感覚もあります。これをリビングに置いています。家族が寝静まった後、部屋の照明を少し落として、この時計のかたわらで仕事の作業や読書をするのが、とても心地よいんです。

このニキシー管時計は、そんなアナログな魅力の一方で、アプリを使って点滅速度や文字の明るさの調整ができたりします。ある時点から現在までの経過時間を反映させることもできるので、子どもが生まれたときからの時間を、いつかメッセージとして贈れたらいいかなと思っています。その節目がいつなのか、成人では早すぎるし、結婚を前提にするのもなんだか嫌だし、彼女がこの時計にふさわしい空間を構えることができるようになったとき、ということでしょうか。

2020年に誕生したYATAGALLASブランドのニキシー管クロック「YTWD」。 2011年にチェコでダリボル・ファルニー氏が復活させたニキシー管を採用。 失われた技術を掘り起こし、最新のテクノロジーと掛け合わせ、人生を並走する パートナーのような時計を作りたいという製作者の思いに共感し、この時計を迎え入れたという。

『報道特集』のスタジオ内の、キャスターのテーブル正面には、 大型の時計とモニターとが一体化した、ジープと呼ばれるユニットが2台置かれている。 生放送は時間との闘い。この時計が、信頼性の高い報道を支えている。

2020年に誕生したYATAGALLASブランドのニキシー管クロック「YTWD」。 2011年にチェコでダリボル・ファルニー氏が復活させたニキシー管を採用。 失われた技術を掘り起こし、最新のテクノロジーと掛け合わせ、人生を並走する パートナーのような時計を作りたいという製作者の思いに共感し、この時計を迎え入れたという。
『報道特集』のスタジオ内の、キャスターのテーブル正面には、 大型の時計とモニターとが一体化した、ジープと呼ばれるユニットが2台置かれている。 生放送は時間との闘い。この時計が、信頼性の高い報道を支えている。

 

報道キャスターとして受け継いでいきたいスタンス

『ニュース23』のときは、筑紫哲也さんが築き上げてきたものや、志が番組に反映されていて、私もそれを受け継いでいきたいと思っていました。今、携わっている『報道特集』は、40年以上の歴史があり、この大事な番組の歴史の一部を自分も担っていくんだという覚悟を持っています。立ち上げ当初から、現場からものを考える、当事者の目線や声を大事にする、評論家になるな、などの理念があり、その流れを絶やしたくないですね。

 キャスターの金平茂紀さんは、権力と対峙し恐れずに批判をしていく、抗うスタイルですが、私はできるだけ間口を広く視聴者に伝え、問いかけていく役割だと思っています。もちろん、取材をする中で絶対に言わなければならないことがあれば、強い口調にもなるし、誰かの言動に異を唱えることだってあります。結果、炎上して凹んだことも。でも、弱い立場や声なき声の側に立っているかどうかが自分にとっては大切なことなんです。これまでの人生や仕事のバックグラウンドの中で、ある程度の品位を保ちつつ、自分の考える端正な人でありたい。そういう意味では、今愛用している時計は、フィットするものだと思っています。

 

取材・文/まつあみ靖 写真/山下亮一 構成/TAYA

[時計Begin 2022 SUMMERの記事を再構成]

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