2025.06.30

目覚ましい進化の理由は、工房にあり。ルイ・ヴィトン ファクトリー探訪【第2回】

ルイ・ヴィトンのハイウォッチメイキングの進化が加速している。新しい「タンブール タイコ スピン・タイム」や「タンブール コンバージェンス」は、それを象徴するものだ。その製造拠点であるウォッチメイキングアトリエ「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン」を訪ね、その全貌を探った。

コンプリケーションを際立たせる手作業の数々
美しさにトコトンこだわるジュネーブ伝統の時計作り

メティエダールと呼ばれる、手彫金、エナメル、細密画などは、多くのブランドが外注に頼っている。しかしこの工房では、それらも内製化し、伝統的な美を妥協することなく紡ぎ出していく。

「タンブール オトマティック コンバージェンス プラチナ ダイヤモンド」のプラチナ製プレートを手作業でこの状態に仕上げ、ダイヤモンドをスノーセッティングする。

整った環境下、生き生きと働く人のパワーが漲る職場

いよいよ本丸と言うべき「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン」へ。明るくスタイリッシュなエントランスから工房内に入ると、まず目に飛び込んできたのが様々な検査マシン群。ちょうどリューズの耐久性テストが行われていたが、リューズを10万回以上回転させるという。作るだけでなく、品質にも万全が期されていた。

奥に進むと、伝統技法によるメティエダールのワークショップ。ハンドエングレーブ、エナメル、細密画などを担当する精鋭技術者数名ずつからなるチームが、ワンフロア内に集結。近いからこそ、連携の必要があればすぐに対応できるのも大きなメリットだろう。

ハンドギョーシェも内製化

ハンドギョーシェを担当する部署には、100年ほど前のギョーシェマシン3台があった。今後、修復中の2台が追加されるという。ハイエンドウォッチの仕上げで、ギョーシェのニーズは高まっており、人員増も課題。マシン操作だけでなく、古いマシンのレストアに習熟させる教育も重要。技術が継承されることに期待したい。

ハンドギョーシェを担当する部署には、100年ほど前のギョーシェマシン3台があった。今後、修復中の2台が追加されるという。ハイエンドウォッチの仕上げで、ギョーシェのニーズは高まっており、人員増も課題。マシン操作だけでなく、古いマシンのレストアに習熟させる教育も重要。技術が継承されることに期待したい。

 

特に興味を引いたのが、ギョーシェ部門。ローズエンジン、ストレートエンジンなど3台が設置され、修復中の2台が追加予定。作業に当たっていたのは、有力メゾン等でキャリアを積んだベテラン技術者。ギョーシェ仕上げには、今後注力していく構えで、古いエンジンの修復もできる若手技術者を育成していく方針だという。

R&Dでは、和テイストのオートマタ懐中時計の設計の最中。デザイン部門からのアイデアを元に、モニター上だけでなく、3Dプリンターで大型のプロトタイプを作成してシミュレーションが進められていた。

組み立て部門は、ムーブメントの複雑さごとに“島”に分かれて作業が進む。どの時計もワンモデルを一人の時計師が手がけ、後から追跡も可能。だからVIP顧客が訪れると、自分の時計を組み立てた時計師と記念撮影もできるという。

見えない部分の面取りが、高級機を輝かせる

「ヴォヤジャー フライング トゥールビヨン」のV 字型のブリッジの面取り仕上げを、モニター上に拡大して確認中。左にジュネーブシールの刻印が見える。

面取りには棒状の木製ツールを用い、先端を磨く面の角度に合わせて削り、粗さの異なる研磨材をつけ、数回にわたり磨き上げる。

「ヴォヤジャー フライング トゥールビヨン」のV 字型のブリッジの面取り仕上げを、モニター上に拡大して確認中。左にジュネーブシールの刻印が見える。
面取りには棒状の木製ツールを用い、先端を磨く面の角度に合わせて削り、粗さの異なる研磨材をつけ、数回にわたり磨き上げる。

 

全体的な印象として、明るく整った環境というだけでなく、全ての従事者が仕事を楽しみ、意気に感じている様子が伝わってきた。それが「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン」のウォッチメイキングを支え、進化させているに違いなかった。

メティエダールの充実がエレガンスを進化させる

「タンブール オトマティック コンバージェンス ピンクゴールド」。18KPG製プレートの12時位置の開口部から覗く時分ディスクによって時刻を読む。優雅な窓の形状は、ヴィトン家邸宅の内装に見られるアラベスク模様が着想源。18KPGローターを備えたキャリバーLFT MA01.01を搭載。自動巻き。径37㎜。18KPGケース。レザーストラップ。3気圧防水。542万3000円。

「タンブール オトマティック コンバージェンス ピンクゴールド」。18KPG製プレートの12時位置の開口部から覗く時分ディスクによって時刻を読む。優雅な窓の形状は、ヴィトン家邸宅の内装に見られるアラベスク模様が着想源。18KPGローターを備えたキャリバーLFT MA01.01を搭載。自動巻き。径37㎜。18KPGケース。レザーストラップ。3気圧防水。542万3000円。

 

「タンブール オトマティック コンバージェンス プラチナ ダイヤモンド」。プラチナ製プレートに795個のダイヤモンドをスノーセッティング。自動巻き。径37㎜。プラチナケース。カーフストラップ。3気圧防水。982万円。

ルイ・ヴィトン 公式サイト

[時計Begin 2025 SUMMERの記事を再構成]

※表示価格は税込み
写真/村松史郎 文/まつあみ靖 構成/市塚忠義