パテック フィリップ、ブルガリ、グランドセイコーetc.　「驚愕の新機構」が登場した2022年新作

『時計ライター髙木教雄が解説！ 2022年新作時計レポート』Vol.1

髙木教雄（たかぎ・のりお）
1962年生まれ。1990年代半ばから時計を取材対象の1つとし、『時計Begin』をはじめとする時計専門誌やライフスタイル誌で執筆。

コンピュータと工作機械の性能が進化し、新たな精密成型技術や新素材が導入されたことなどにより、これまでになかった時計機構が実現できるようになってきた。今年も驚くべきメカニズムを持つ、新作が登場している。

パテック フィリップ
世界初の機構を持つ「1/10秒計測可能なクロノグラフ」

Watches & Wonders 2022が終わった翌日、パテック フィリップは今までにないクロノグラフの誕生を発表した。「1/10秒シングルプッシュボタン・クロノグラフ 5470P」である。その名の通り、1/10秒計測を目視できるクロノグラフだ。写真ではラトラパンテのように見える中央にある２つのクロノグラフ針は、シルバーが通常の秒積算計針、赤が12秒で１周する1/10秒積算計針。1/10秒計測が可能なクロノグラフは他社にも存在するが、１秒と1/10秒の各積算計針をセンター同軸としたのは、世界初となる。1/10秒積算計針は、軽く、かつリセット時の急速な動きにもしならない硬さを持つシリコン製で、特殊なPVDを施した後、赤くラッカー仕上げしている。

ムーブメントは、まず既存の水平クラッチ＋コラムホイール式手巻きクロノグラフCal.CH 29-535 PSをベースとし、ゴールド製のウエイトを持つ特殊形状のシリコン製テンワに、同じくシリコン製のひげゼンマイと脱進機を組み合わせたOscillomax調速機構を採用し、毎秒10振動にハイビート化。そのクロノグラフ機構の上に1/10秒クロノグラフ機構を重ねることで、１秒と1/10秒の各積算計針を同軸とした。1/10秒クロノグラフ機構の駆動歯車は、精密成型技術LIGAプロセスで内側に弾性を持ち、ビーム一体成型された２つの歯車の二層構造とし、上部の歯車に１歯分の可動域を持たせることでスタート時のバックラッシュを解消。また1/10秒積算計針に取り付けられた筒カナは、同じくLIGAプロセスで直径わずか1.469mmの外周に30ミクロンの歯を136個造作し、クロノグラフ中間車の回転を１周12秒へと増速している。高速で動き、極めて歯が小さい1/10秒筒カナと中間車の接合は極めて繊細。衝撃で噛み合いが外れないよう、クラッチレバーには２種類のショックアブソーバー・システムが導入された。最先端技術を駆使し、また特殊な耐衝撃機構を開発し生まれた1/10秒クロノグラフは、ブルーのダイヤルにレッドが映える実に若々しい外観が与えられた。しかも限定ではなく、レギュラーモデル。望めばいつの日か、手に入れられる。

ブルガリ
すでに完売！の「世界最薄モデル」

2014年以降、世界最薄記録を次々と樹立してきたブルガリは今年、究極の薄さを実現し、８度目のワールドレコードを達成した。「オクト フィニッシモ ウルトラ」のケース厚は、たった1.8mmしかない。ケースバックの内側を地板とすることで厚みを削る手法は他社も採るが、さらに水平方向に輪列を構築しやすいレギュレーターとしたことでより厚みが抑えられた。

その設計は実に巧妙で、６時方向に調速輪列を構築し、秒針を司るディスク自体も歯車とし、ガンギ車と噛み合わせている。時・分の運針は、香箱から３時方向に設置した歯車が司る。それと噛み合う時・分の各ダイヤルの間のディファレンシャルギアが、１周60分と１周12時間の回転速度に振り分ける仕組みだ。ディファレンシャルギアは、３時位置にあるリューズの針合わせ輪列とつながり、ケース左サイド下側にある第２のリューズで香箱を巻き上げる設計。香箱にレーザー加工されたQRコードで、その時計の真正性を保証するという新たな試みもユニークだ。またブレスレットの厚みが、わずか1.5mmであることも、快挙である。

グランドセイコー
ムーブメントの”音”にもこだわった「世界初の複雑機構」

グランドセイコーも、世界初の複雑機構を製品化した。2020年にムーブメントのみが公開されたコンスタンフォース・トゥールビヨンである。２つの機構の組み合わせは、他にもある。しかしコンスタントフォースとトゥールビヨンの各機構を同軸としたのは、他に例がない。9ST1で使われるコンスタントフォースの、ゼンマイのトルクを定力ばねに伝えるタイミングを制御するセラミックス製のストップ車は製品化に伴い、内側に６つのリムを持つ形状に改められている。これは、ストップ車の動きを視認しやすくするためだとか。

さらに８時位置のパワーリザーブ計の針は、2020年時には内から外に向いていたのを外から内に反転させるなど、パーツ全体の90%以上を再設計した。そうすることでムーブメントの径と厚みを縮小、実用的なサイズのケースへの搭載が実現した。グランドセイコーにはこれまでなかったスケルトン構造は、実に威風堂々とした印象を醸し出す。そして時計に耳を近づければ、脱進機の毎秒８振動の作動音と、コンスタントフォースのセラミック製ストップ車の１秒毎の作動音とが奏でる16ビートが聞こえる。世界初の複雑機構は、音まで美しい。

＜各社公式サイト＞
パテック フィリップ ジャパン公式サイト
ブルガリ ジャパン公式サイト
グランドセイコー公式サイト

（文／髙木教雄　構成／TAYA)