2025.10.03

オーデマ ピゲから異次元のクロノグラフ「RD♯5」!

スマホのサイドボタンを彷彿させる軽いタッチの「キャリバー8100」完成

「ロイヤル オーク “ジャンボ” エクストラ シン フライングトゥールビヨン クロノグラフ(RD#5) “150周年アニバーサリー”」。26545XT.OO.1240XT.01。自動巻き。径39㎜。チタン+BMGケース。チタン+BMGブレスレット。2気圧防水。価格は問い合わせ。

オーデマ ピゲのRDシリーズと言えば、R&D(リサーチ&ディベロップメント)部門によって生み出される、いわばオーデマ ピゲの時計技術の最先端。非常に長い開発期間を経て完成するものがほとんどで、2015年の第一弾から、2023年の第四弾まで、これまで4本の時計が発表されてきた。

音響盤を採用したスーパーソヌリ機構の「RD♯1」、永久カレンダーで厚さ6.3㎜という自動巻きムーブメントを実現した「RD♯2」、ロイヤル オーク エクストラ シンにフライング トゥールビヨン機構を収納した「RD♯3」、23の複雑機能を含む40の機能を搭載した「RD♯4」。そのどれもが革新的な内容で、時計ファンをただただ驚かせてきた。

そしてついに、RDシリーズ待望の第五弾「RD♯5」が発表された。今回の腕時計も、かなりぶっ飛んでいる。「ロイヤル オーク “ジャンボ” エクストラ シン フライング トゥールビヨン クロノグラフ( RD♯5)」は、モデル名からもわかるように、1972年の初代ロイヤル オーク “ジャンボ”をオマージュしている。

初代ロイヤル オークが採用したケース径「39㎜」は、当時としては前例のないほど大きいケースだった。“ジャンボ”というニックネームが付けられたため勘違いされやすいところだが、ケースは確かに大型、しかしケース厚は7㎜程度と、非常に薄い時計だった。

新作「RD♯5」は、初代譲りの直径39㎜ケースに、自動巻きのフライバックロノグラフとフライングトゥールビヨンを搭載しつつも、ケースの厚さをわずか8.1㎜におさえている。しかし、この時計最大の革新は、このプロポーションではない。

それはズバリ、クロノグラフのプッシュボタンの感触。まるでスマートフォンのサイドボタンを押すような滑らかな感覚だという。これまでもクロノグラフのプッシュボタンに関して「滑らかな押し心地」を追求したブランドは数多いが、この「RD♯5」はちょっと次元が違う。

開発を担当したウォッチ コンセプション ディレクターのジュリオ・パピ氏は「ボタンを押し込む幅は多くの場合1㎜以上あり、約1.5kgの力を必要とします。私たちの目標は、これらの数値を抑え、顧客体験を向上させることでした。そのため、通常キーストロークが0.3㎜、押す力が約300gのスマートフォンのボタンから着想を得たのです」と語る。

確かにリューズ上下のプッシュボタンの突起はわずかで、ダイアルに積算計がなければクロノグラフと気づかないほどだ。かつてないプッシュボタンの感覚を実現させるため、オーデマ ピゲのR&D部門は、クロノグラフの基本構造を再設計。150年以上、クロノグラフのリセット機構の定番であったハンマー&ハートカムにメスを入れ、新たな一体型フライバック クロノグラフ・ムーブメント「キャリバー8100」を完成させた。

ハンマー&ハートカムに代わって用いられたのは、回転運動を直線運動に変える「ラック&ピニオン機構」だ。ラックに動力を蓄えることで歯車がテンションをキープできるため、クロノグラフ針の“揺れ”が軽減。クロノグラフのスタート/リセット時にブレーキの役割を果たす摩擦スプリングも存在しないため、エネルギーは分散せずに蓄積することが可能となり、この蓄えたエネルギーを解放することでクロノグラフ針をフライバックさせる。

この構造の例え話としてジュリオ・パピ氏は「伝統的なクロノグラフを、サイドブレーキをかけたまま走る車に例えると、キャリバー8100ではサイドブレーキがなくなり、車はガレージを出るときにゴム製のバンドで繋がれているような状態です。このゴム製のバンドは、車を再びガレージに引き戻す役割を果たします。以前はサイドブレーキの摩擦によって失われていたエネルギーが、今ではこのゴム製のバンドに蓄えられているのです」と語り、さらに

「クロノグラフをリセットすると、蓄えられたエネルギーが放出され、針は秒以内に元の位置に戻ります。針の動作を徹底的に分析し、リセット時の針の動きを視認できないほど最 適化しつつインスタントジャンプミニッツ(秒針が一周した後に素早く移動する分針)という、愛好家から高い評価を受ける機能も兼ね備えています」と説明する。

斬新なプッシュボタンは、クロノグラフ機構だけにとどまらない。クロノグラフのプッシュボタンの中間にあるリューズにも特徴がある。このリューズには先端にプッシュボタンが内蔵されており、そのボタンを押すことで「巻き上げ」と「時刻合わせ」という2つのファンクションを切り替えることができるのだ。

さらに「RD♯5」は、ロイヤル オークとしては初となるフライバック クロノグラフとフライング トゥールビヨンを同時に搭載。フライバック クロノグラフに関しては、クロノグラフ針だけではなく、30分積算計も瞬時にジャンプするという優れものだ。

こうした複雑機構を搭載していなからも、デイリーユース可能な装着感を高めるため、薄型を追求。自動巻きの回転ローターにペリフェラル式(ムーブメントの外周で回転するローター)を採用し、表と裏のサファイアクリスタルをボックス型(内側を窪ませた形状)にしてケース内に空間を確保することで、ケース厚8.1㎜という薄型を実現した。

またケースのベース素材はチタンだが、2021年のオンリーウォッチの時に初採用された新素材「BMG(バルクメタリックガラス)」も組み合わされている。BMGとは急速に冷却されることで、非晶質構造や高強度といったガラスのような性質を示す金属合金のこと。

ちなみにオーデマ ピゲのBMGはパラジウムを50%以上含んでおり、非常に優れた耐食性をもっている。RD♯5ではベゼル、プッシュボタン、リューズのファンクションセレクター、ブレスレット スタッズにBMGを採用。美しい独自の輝きを放ちながら、実用的な軽さと耐久性を手に入れている。

ダイアルのカラーは、ファンにはもうお馴染みとなった“ナイトブルー、クラウド 50”。また過去のモデルに着想を得た筆記体の「Audemars Piguet」ロゴが、このモデルの特別感をさらに加速させている。

オーデマ ピゲの創業150周年を締め括る「RD♯5」。しかし、このモデルが10年続いたRDシリーズの最終章となる。しかし、ご安心を。RDシリーズの革新スピリットは今後、「AP ファブリケーション ラボラトリーズ(AP Fabrication Laboratories)」という新たな形で受け継がれ、さらに拡大していく予定だ。

問い合わせ/オーデマ ピゲ公式サイト

文/市塚忠義