2025.11.30

セイコー「からくりの森 2025」に、機械式時計の新たなる可能性を見た!

セイコーが育むクリエーター達の柔軟な発想力

日本が誇る国産時計ブランドのセイコーは、正確な時計を追い求める一方で、「時間」の感じ方や表現方法、あるいは針や数字にとらわれない時間の楽しみ方も模索している。そんな「アーティスト」としてのセイコーを象徴する展覧会が、「からくりの森」だ。

腕時計のあらゆる楽しさを体験できる活動「Seiko Seed(セイコー シード)」の一環として2022年から始まった人気企画の第4弾が、ついに開催された。「からくりの森」が面白いのは、セイコーウオッチのウオッチデザイナーと外部のアーティストたちが一緒になって、この展覧会を盛り上げていることだ。では、その作品の数々を紹介していこう。

月のモビール  Moon

小松宏誠

月に見立てた巨大なゴールドのプレートが、1分間で1回転。ゆっくりと回転する円盤に、その外周リングの内側から無数の光(ライト)が反射すると、まるで月のような満ち欠けを繰り返すという作品。時計のムーンフェイズ表示さながら、見ているだけで心が癒される。

小松宏誠(こまつ・こうせい)

1981 年生まれ。2004年に武蔵野美術大学建築学科を卒業。2006年に東京藝術大学大学院を修了後、アーティストグループ「アトリエオモヤ」のメンバーとして活動を開始。2014 年に独立。「浮遊」や「鳥」への興味からはじまり、現在では「軽さ」「動き」「光」に着目した作品を展開中。美術館での作品展示をはじめ、商業施設など大空間の空間演出も担当。 2022年、武蔵野美術大学建築学科特任准教授に着任

https://www.instagram.com/kosei_komatsu/

 

 

プランツ PUWANTS

小松宏誠 / 三好賢聖

水なかの気泡の動きで、時間の経過を楽しむアート作品。地上を求めて浮き上がっていこうとする気泡は、まるで水中に生息している生き物のよう。現れては消えるその姿(シェイプ)は、全てが同じようであり、完全に同じではないところに、儚さを感じる。

三好賢聖(みよし・けんしょう)

1990年生まれ。2013年に東京大学航空宇宙工学科を卒業。同専攻修士課程を修了後、英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アートにPh.D.(博士号)を取得し、最優秀博士論文賞を受賞(独アンハルト大学)。動き、身体性、詩にまつわる制作と研究に従事。昭和医科大学兼任講師。ブテイコ国際クリニック認定呼吸法インストラクター。著書に『動きそのもののデザイン』(ビー・エヌ・エヌ)など。ポエティック・キュリオシティ共同主宰。2023年に株式会社シンコキュウを創業。

https://miyoshikensho.com/

 

螺旋の律動 Cadence of the Spiral

Spline Design Hub

人の背丈はあろうかという巨大なステンレス板の作品は、時計好きには馴染みにある形状。こちらは、機械式時計の心臓部である「動力ゼンマイ」と、そのエネルギーを規則正しい動きに変える「ひげゼンマイ」から着想を得ている。各アームの内側には、無数のモーターが取り付けられており、それらが独立して動くことで、ゼンマイの緊張と緩和を表現している。支える台座がテンワを思わせるのも面白い。

Spline Design Hub

2015年設立。「感性とテクノロジーをなめらかにつなぐ」をテーマに掲げ、インスタレーション制作、プロダクトデザイン、研究機関と連携したR&Dや製品開発など、表現手法や分野の枠を超えたプロジェクトに携わっている。技術と美、ハードとソフト、論理と直感。これらを往復するデザインエンジニアリングの視座を中核に、多様な専門性を持つメンバーが集い、日々まだ見ぬ価値の具現化に挑んでいる。

https://spline-d.com/

 

時のムーブメント Movements of Time

三好賢聖

普段の生活の中では、あまり聞こえることはないが、腕時計が耳に近づいたふとした瞬間に聞こえる機械式ムーブメントの「チクタク音」。そのビート音は、打楽器が奏でる音楽のようであり、リズムのよう。その心地よい機械音で音楽を作ったのが、こちらの作品だ。セイコーウオッチに備わる6振動、8振動、10振動という速さの異なるチクタク音と、回転ローターの回転音が、オーケストラのように音を重ねる。

 

時の軌跡 Traces of Time

セイコーウオッチ

時計とはすなわち、「時」をいう目に見えない概念を可視化したもの。現代人は、ダイアル上の針の動きに合わせて、生活のリズムを管理する。その規則正しい「針」の回転運動を、もっと大胆に表現したのが、この作品。針の代わりに取り付けられたアームの先端形によって、砂の上に美しい模様が描かれ続ける。その日本庭園のような規律性は、日本人の感性そのもの。

 

時の交わり Intersection of Time

セイコーウオッチ

時計の時針(短針)と分針(長針)は、1時間に1回、顔を合わせる。重なり合う時、もし針に意思があったとしたら、「また1時間後に会おう!」なんて、声を掛け合っているのかもしれない。ひたむきに働き続ける針の先端に、小さな人をセットしてみると、孤独と戦う健気さが際立って見える。2つのムーブメントに取り付けられた、2つの針は、1時間に1回再開。わずか数ミリ間隔ですれ違い、互いの存在を確認する。

 

文・市塚忠義