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2018.02.14
ブルガリが考える、時計における「エレガンス」とは?
ババンさん、どうして「薄型時計」にこだわるんですか?
インタビュー会場に姿を現したブルガリCEOジャン-クリストフ・ババン氏の左腕には、「オクト フィニッシモ オートマティック」があった。このモデルでブルガリは、ジュネーブ時計グランプリ(GPHG)メンズウォッチ部門最優秀賞を受賞。加えて手前みそながら、時計Begin 2017総合グランプリにも輝いている。
「オクト フィニッシモ オートマティックは、デイリーウォッチとして極めて洗練されていると自負しています。一方で個性的であり、万人受けではありません。好き嫌いが分かれるモデルでしょう。それがGPHG、そして時計Beginに高く評価されたことは、とても栄誉なことだと心より感謝いたします」
2013年にCEOに就任した際、ババン氏は「今まで以上に時計製作に注力していく」と語った。その中核を成す1つが、当時すでにブルガリ ウォッチのアイコンとなっていた「オクト」だ。ラテン語で「8」を意味するコレクション名の通り、八角形のケースは、110面ものファセットカットが織り成す豊かな立体感を大きな特徴とする。このオリジナリティあふれるフォルムにババン氏は「ブルガリらしいエレガンスを加味したい」と考えた。
「イタリアのブランドらしいモダンなエレガンスをどのように表現すべきか? 色々と模索した結果、薄型というドレスウォッチの基本に立ち返ったのです」
「立体感」を保ちつつ「薄く」するためには?
薄型化は、エレガンスを表現する定石である。しかしオクトを薄く仕立て直すことは、決して容易ではない。何故なら前述したようにファセットカットによる多面体構造こそが、オクトのアイデンティティだからだ。
「薄さと立体感、相反する価値をいかにして融合するかで、デザイナー、そしてケース製造担当者はずいぶんと苦労したようです」
その成果が最初に現れたのは、2014年。ケース厚わずか5.15mmという手巻きの「オクト フィニッシモ」と、さらに薄いケース厚5mmの「オクト フィニッシモ トゥールビヨン」である。特にトゥールビヨンは、世界最薄を達成。それをスケルトナイズした2017年の新作「オクト フィニッシモ トゥールビヨン スケルトン」は、GPHGのトゥールビヨン&エスケープメント部門で最優秀賞を射止めている。
「薄型コレクションのムーブメントは、どれも新開発です。デザイナー、外装、そしてムーブメント、それぞれスタッフの尽力によって、オクトらしいキャラクターを保持したまま薄く仕立て直されたフィニッシモが誕生したのです」
これを可能にしたのが、スイスでも屈指の設計・開発力と生産能力。ブルガリは2010年、5つの工房を垂直統合し、ムーブメントに用いる1mmにも満たない微細なピンから、ケース、ダイヤル、ブレスレットに至るまで自社製造可能な体制を整えたのだ。そして2016年には「オクト フィニッシモ ミニッツリピーター」で同機構の世界最薄記録を樹立。そのケースの厚みは、わずか6.85mm。そして2017年、オートマティックとトゥールビヨン スケルトン、2つのフィニッシモの新作がそれぞれGPHGの部門賞を獲得するに至った。
「オクト フィニッシモ オートマティックは、薄さに加え、ケースとブレスレット、さらにダイヤルまでチタン製とすることで、極めて軽快な装着感を実現してもいます。オールチタンの外装は、ミニッツリピーターの流用です。薄いケースでも豊かな音色を得るためには、軽量なチタンが有利。ケースのみならずダイヤルもチタンで造作し、インデックスをくり抜くことで、音がより広がるようにしたのです。そのプロトタイプを見た際、チタンならではのニュアンスがとても美しくエレガントだと感じ、フィニッシモのシグネチャーモデルになるものだと確信しました。そこでオートマティックもオールチタンにすると決めたんです」
かくしてケース、ブレスレット、ダイヤルのすべてに、サンドブラスト仕上げにより、チタン特有の深いグレーが際立つスタイリッシュなモノトーンの外観が与えられた。搭載するムーブメントは、むろん新開発。薄さを叶えるために採用したマイクロローターは回転効率を高める比重の高いプラチナ製とし、全体は巨大なプレートで覆い高い耐久性を持たせている。
「モノプレートは耐久性を高めるだけでなく、部品点数が減らせるため組み立て効率が向上し、また故障も少なくなります。そしてそれを丁寧に装飾仕上げすることで、高級時計に相応しい美観も持たせられます。ブルガリが時計製作にかける一番の情熱は、美しさ。それは、裏から見えるムーブメントについても決して妥協はしません。そのムーブメントもケースもブレスレットもダイヤルもすべて自社製造しているから、オクト フィニッシモ オートマティックは、完璧に調和が取れた美しい外観を実現できているのです」
ケース厚5.15mmの超薄型の自動巻きは、他のブランドでは高額モデルとなる。しかしブルガリでは、ババン氏が冒頭で語ったように「デイリーウォッチ」として位置づけ、コストパフォーマンスにも優れている。
「ブルガリは、ラグジュアリー=高額とは決して考えていません。価格ではなく、美しさや機能、希少性がラグジュアリーであることを決めるのです。ですから、その時計が持つ機能や素材、製造コストに対してフェアプライスであるべき。1950~’60年代、ブルガリがハイジュエリーをデイリーユースにしたように、高級時計をデイリーユースにしたい。そのためのチャレンジは、常に続けていきます」
写真/岸田克法 文/髙木教雄
お問い合わせ先:ブルガリ ジャパン Tel.03-6362-0100
オクト フィニッシモ オートマティック/ マイクロローター採用の薄型自動巻きムーブメントの厚みは2.23mm。裏蓋と一体化させた2ピース構造で薄型の多面体ケースを実現した。インデックスもスリムなフィニッシモ仕様。自動巻き。径40mm。チタンケース&ブレスレット。30m防水。155万円。
オクト フィニッシモ トゥールビヨン スケルトン/1.95mm厚の極薄トゥールビヨン・ムーブメントがダイヤル上に露わに。ルビーに代わり7つのボールベアリングを用い、片側から支持する構造で薄さをかなえた。香箱は丁寧に肉抜きされている。手巻き。径40mm。Ptケース。アリゲーターストラップ。30m防水。1434万円。
オクト フィニッシモ ミニッツリピーター/ケース厚6.15mmの世界最薄ミニッツリピーター。軽量なチタンをケースとダイヤルに用い、インデックスやスモールセコンドのチャプターリングをくり抜き、豊かな音量を得た。限定50本。手巻き。径40mm。チタンケース。アリゲーターストラップ。50m防水。1762万円。