- 時計Begin TOP
- 特集
- 小沢コージの情熱ですよ腕時計は「衝撃の独立時計師候補・山下一樹さん」[前編]
2018.07.13
小沢コージの情熱ですよ腕時計は「衝撃の独立時計師候補・山下一樹さん」[前編]
超工業的アプローチ!たった5年、全くの独学でひげゼンマイからトゥールビヨンを作った男
衝撃の独立時計師候補が登場した。愛媛県松山市の山下一樹さんだ。いわゆる時計学校卒業生や敏腕職人系じゃない。それどころか時計ブランドにはほぼ無関心な20代の地方の機械設計エンジニア。しかし一度機械式時計に興味を持ったら凄い。わずか5年で置き時計3つに腕時計3つ、最終的にはトゥールビヨンまで作ってしまったのだ。日本の物作りパワーは健在だった!
PROFILE
山下 一樹 (やました かずき)/愛媛生まれの28歳。DIY好きの父の影響で物作りが大好きで幼少期から紙や木工工作に親しむ。高校時代に人から貰ったソーラー駆動のクォーツ時計が好きになり、テニス部で活動中も着けっぱなし。愛媛大学機械工学科入学時は、スケルトン機械式時計にも興味を持つが、シチズンのエコドライブを購入。卒業後に地元松山市の機械製作会社に就職。同時に時計作りにハマり、2年前に26歳で独立。フリーの設計エンジニアとなり、機械設計をしながら趣味で時計作りに勤しむ。趣味は他に自転車。
全然時計マニアじゃありません
小沢 人づてにウワサを聞いて愛媛まで来ましたけど、会って驚きました。随分とお若いんですね。
山下 いま28歳です(笑)。
小沢 ところで山下さんは時計作りのプロなんですか? ネット情報じゃ既にかなり作っているようで。
山下 今のところは違います。本業は一応機械設計エンジニアで。
小沢 要するにスーパーアマチュアだ。でもネットで機械式腕時計の設計図とか売ってますよね。
山下 あれじゃ稼げません(笑)。
小沢 なぜ時計作りに興味を持ったんです? イマドキの人ってスマホで時間見るじゃないですか。
山下 腕時計は高校時代から好きでずっと着けてます。と言っても高いスイス時計じゃなく貰い物のソーラー時計。大学に入った頃、一度スケルトンの機械式がいいなと思いましたが、これに数十万円は出せんなと。代わりにシチズンのエコドライブを買いました(笑)。
小沢 特別ロレックスとかIWCに憧れがあったわけじゃない?
山下 ブランドには一切興味ありません。ただ物作りは好きで、小さな頃からずっと工作してました。小学生の時は木の模型飛行機とか。
小沢 実家が鉄工所で小さい頃から旋盤を使ってたとかじゃない?
山下 全く。父はDIY好きでしたが家に工作機械はなかったし、旋盤に初めて触ったのは愛媛大学の機械工学科に入ってからです。
小沢 普通の物作りが好きな松山の青年だったと。自動車メーカーとか時計メーカーに興味は?
山下 それもありません。とにかくなんでも作ってみたいだけ。
小沢 今までの若き時計師って実家が時計店だとか、祖父が刀鍛冶という方もいましたが……。
山下 あえて言うとNHKの『プロジェクトX』の影響はデカイかも?
小沢 ああいうロマンのある物作りは好きだったんですね。具体的に時計作りはいつから?
山下 22歳で大学を卒業して地元の機械製作会社に入るんですが、最初の盆休みに「あ、時計なんとなく面白そうや」と木を削って掛け時計を作ってみたんです。現物や設計図は捨てちゃいましたが。
小沢 いきなり機械式の振り子時計を! 仕組みは知ってた?
「独立時計師の存在自体、人に聞くまで知りませんでした(笑)」
山下 構造はネットで調べればなんとなくわかるし。もちろんできるならクルマとか作ってみたいですよ。ただし金と時間と場所が必要じゃないですか。
小沢 確かに時計作りは小さくて入りやすいのかもしれませんね。で、2作目がこのスケルトンの機械式置き時計?
山下 そうです。このシルバーのが3作目で、次の4作目で初めて機械式腕時計を作るんです。
小沢 ってことは何年目?
山下 今だいたい年1本のペースで腕時計を作っていて、6作目のトゥールビヨンが去年12月の27歳の時だから4作目は25歳ですね。
小沢 たった5年で自作トゥールビヨンまで作っちゃったと。最初からちゃんと動きましたか。
山下 最初の木製掛け時計はかろうじて動いた程度で、初めての腕時計はゼンマイを巻き上げると24時間動きました。トゥールビヨンは普段腕につけて使用しています。
小沢 凄いじゃないですか。
山下 ただし初めての腕時計は平置きじゃないとダメで立てると止まります。温度変化にも弱いし。
小沢 なぜでしょう?
山下 1つはひげゼンマイの性能です。僕が作るのは温度変化に弱くて、バラついちゃうんです。
小沢 そうだ! 山下さんはひげゼンマイまで自作するレアな時計師なんだ。
※この記事は [後編] に続きます。
[時計Begin 2018 SUMMERの記事を再構成]
文・写真/小沢コージ