2018.08.24

【英国発はこんなにスゴイ!】レバー脱進機

レバー脱進機

トーマス・マッジにより機械式脱進システムが完成

現在製造されている機械式時計のほぼすべてが採用する「レバー脱進機」。精度と耐久性を飛躍的に向上させたこの機構は、3世代にわたる英国人時計師の連携により生まれた。

ガンギ車、アンクル、レバーで構成されるレバー脱進機。この英国発祥の「分離式レバー脱進機」をベースに、現在のスイスレバー脱進機へと進化した。

 

画期的な高精度&長持ちの脱進機

ガンギ車とアンクルから成り、テンプに往復運動する力を与えるとともに、テンプからの規則正しい振動で輪列を制御する脱進機。それ自体は17世紀にロバート・フックにより発明されているが、師弟関係にあるトンピオン、グラハム、マッジの3人の英国人時計師によって進化を遂げた。

トンピオンのシリンダー脱進機の発明から半世紀以上を経た1756年頃、マッジは現代の脱進機につながる分離式(ラチェットトゥース)レバー脱進機」を開発する。これは師匠であるグラハムの直進式脱進機を応用したもので、摩擦を減らすためにテンプとガンギ車を分離して、その間にレバーを組み込んで連動させるもの。さらに、摩耗の激しい爪の先端部分にルビーなどの貴石を用いて、精度の向上を図った。

一方、現在の「クラブトゥース(スイスレバー)脱進機」は、パーツを改良したことで、より磨耗が少なく精度が安定する。いずれにせよマッジの脱進機が先駆けとなったことは間違いない。

 

発案した英国人はこの人

時計の精度を飛躍的に向上させた英国王室の宮廷時計師

トーマス・マッジ(Thimas Mudge)

若くしてジョージ・グラハムに師事し、さまざまな発明を手がけた英国人時計師のマッジ。なかでも重要なのは、やはりレバー脱進機の開発である。1750年頃には分離式レバー脱進機の原型を作り上げ、’50年代半ばに発表。’50年代後半にはそれを組み込んだ時計も製作している。’76年、ジョージ3世により宮廷時計師に任命。他にミニッツリピーター機構やパワーリザーブ表示機構なども発明した。

 

[時計Begin 2018 SUMMERの記事を再構成]
文/岡崎隆奈 イラスト/WADE LTD