2019.10.19

【H.モーザーの工房へ行ってきた!!】世界中で「ひげゼンマイ」を自社製造できるメーカーは数社だけ

ひげゼンマイのマイスターシャフハウゼンにあり!

世界でもこのパーツを作れるのはわずかなメーカーだけ

美しいフュメダイヤルで知られるH.モーザーは、ムーブメントの内製率もスイス屈指を誇る。テンワや脱進機、さらにひげゼンマイも自社製造する技術と設備を持ち、高精度を約束する。

何度も何度もひたすら伸ばすシュトラウマン合金の安定性

鉄、ニッケルなど8種類を配合したPE4000合金!

専用オーブンで形状を固定
巻き上げ工程で螺旋状に形作られたひげゼンマイをサイズに応じて610~620℃で加熱し、形状を安定させる。誤差± 1 ℃で管理され、酸化させないため内部は真空。

 

行ってきたのはココ!ノイハウゼン本社工場

ムーブメントのほぼすべてを自社製造
シャフハウゼンの隣町に位置する本社は、ブランド再興時の2005年の竣工。地板やブリッジ、歯車はH.モーザーが、脱進機とテンワ、ひげゼンマイはプレシジョン・エンジニアリングが製作している。

かのゲーテも愛したスイス屈指の景勝地
本社のあるノイハウゼンは、ライン滝でその名が知られる。落差は約23m、幅は約150m。巨大な滝を生み出すライン川の豊かな水量を利用し、創業者ハインリッヒ・モーザーは水力発電所を建設した。

 

許される誤差は5ミクロン。超精密加工が高精度を生む

ムーブメントを自社で設計・開発し、パーツ製造や組み立ても行う──そうしたマニュファクチュールは、スイスでは決して少なくはない。しかしテンプや脱進機、ひげゼンマイは専門サプライヤー頼みであるケースがほとんどだ。H.モーザーは、これら時計精度を司るキーパーツまでも自社製造している。中でもひげゼンマイまで自社製というのは、スイスでも5社程度しかない。その製作は同じMELBホールディングス傘下にあり、H.モーザーの本社と同じ屋根の下にある兄弟会社プレシジョン・エンジニアリングが担う。

ひげゼンマイの原料は、鉄とニッケルを主成分とし、ほか6つの金属を合わせたシュトラウマン合金PE4000。さらに2017年からは、耐磁性に優れたチタンとニオブとの合金PE5000も一部のモデルで用いている。

PE4000は、金属メーカーから直径0・6㎜のワイヤーとして納品される。これをまず、専用の伸線機で必要な細さに引き伸ばす。スタンダードなひげゼンマイだと直径0・08㎜。

マシンに掛けられたワイヤーは、600℃前後に熱した後、小さな丸穴を持つダイスに通しながら、繰り返し引き伸ばされて真円を保ちながら、必要な直径を得る。0・08㎜にするには、6回の伸線工程が必要だという。

引き伸ばされたワイヤーは洗浄後、圧延機のある特別な部屋に運ばれる。この部屋には、1人の技術者しか入れない。丸いワイヤーは、圧延によってひげゼンマイ用の平たい状態となる。その最終段階での厚みと幅の許容誤差(公差)は、わずか5ミクロン。圧延時の熱膨張まで管理しなければ、この公差はかなえられない。だから体温で室温が大きく変化しないよう、1人しか入室できないのだ。圧延機の中にはいくつも測定器があり、常に厚さと幅が計測されている。ひげゼンマイ製造工程は、極めて繊細にして慎重だ。

 

「あらゆるオーダーに応え25社に供給しています」
プレシジョン・エンジニアリング 主任エンジニア
ステファン・クリス氏

プレシジョン・エンジニアリングはサプライヤーでもあるので、25社にひげゼンマイを供給しており、内数社には脱進機やテンワまで含め納品しています。ひげゼンマイは、納品先からのいかなるオーダーにも応えられるのが、我が社の強み。厚さ0.015㎜、幅0.08㎜という極めて薄いひげゼンマイも完璧に作れます。

超精密にワイヤーを平らに圧延
必要な直径に引き延ばされたゼンマイ材のワイヤーは、この圧延機で平らに加工される。特別室に格納され、室温を徹底的に管理。4つのレーザー測定器と2つの接触センサーとが備わり、随時幅と厚みとを測定しながら加工し、±5ミクロンの公差をかなえる。

オイルで冷却しながら最適な細さに
ゼンマイ材を、細く引き伸ばす工程。ワイヤーを導く滑車の右側に、真円の穴が空いたダイスが見えている。この穴に通し、引き抜くことで正確な丸い断面が得られる。赤い液体は、冷却オイル。ひげゼンマイのサイズに合わせ、直径0.04~0.08㎜にまで伸ばす。

 

深い青のグラデで華やぐ
エンデバー・センターセコンド・オートマティック

ベーシックな中3針も、ミッドナイトブルーのフュメで個性的に。ケースはリューズ周りのみサテンとし、仕上げに凝る。72時間駆動の自動巻きを搭載。メッシュストラップが、お洒落。自動巻き。径40㎜。18KRGケース。アリゲーターストラップ。240万円。

時の表示に独創性を発揮
エンデバー・フライングアワーズ

3つのディスクの数字の色が黒→白に変わることでアワーを示す仕掛け。中央のリングは分表示で、アワーの数字の内側の三角の指標で読み取る設計になっている。限定100本。自動巻き。径42㎜。18KWGケース。アリゲーターストラップ。425万円。

<strong>深い青のグラデで華やぐ<br />エンデバー・センターセコンド・オートマティック</strong><br />ベーシックな中3針も、ミッドナイトブルーのフュメで個性的に。ケースはリューズ周りのみサテンとし、仕上げに凝る。72時間駆動の自動巻きを搭載。メッシュストラップが、お洒落。自動巻き。径40㎜。18KRGケース。アリゲーターストラップ。240万円。
<strong>時の表示に独創性を発揮<br />エンデバー・フライングアワーズ</strong><br />3つのディスクの数字の色が黒→白に変わることでアワーを示す仕掛け。中央のリングは分表示で、アワーの数字の内側の三角の指標で読み取る設計になっている。限定100本。自動巻き。径42㎜。18KWGケース。アリゲーターストラップ。425万円。

 

[時計Begin 2019 AUTUMNの記事を再構成]
写真/岸田克法 文/髙木教雄 構成/市塚忠義