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2020.03.25
バウハウスが時計デザインに与えた大きな影響とは?【おたくの細道】
毎度マニアな時計情報を読者に届けるこのコーナー。今回は、時計Beginの誌面にも度々登場する"バウハウス"について。その影響は、現在のドレスウォッチすべてに及んでいた!?
創立100周年のドイツ芸術学校
バウハウスと時計デザイン
ドレス時計の元祖も志向した洗練されたシンプルデザイン
2019年、創立100周年を迎えたバウハウス。本誌の読者なら一度は目にしたことがあるに違いないこのキーワードについて、改めて読み解いていきたい。
バウハウスは1919年、ワイマール共和国期のドイツに設立された芸術学校である。初代校長は近代建築の4大巨匠のひとりとされるヴァルター・グロピウス。教授陣は他に、同じく建築界の巨匠ミース・ファン・デル・ローエ、画家のクレーやカンディンスキーなどがいた。ドイツ語で“建築の家”を意味する同校では、美術、建築、工芸、写真といった造形における総合教育が行われ、近代デザインの成立に多大な貢献を果たしたが、33年ナチスにより閉鎖されてしまう。
わずか14年間で活動を終えたバウハウスだが、その後の芸術界に与えた影響は枚挙に暇がない。今も世界中に残る数々の建築、工芸品、絵画以外にも、例えば文字のデザイン技法、タイポグラフィーでは、ルイ・ヴィトンのロゴにも使われる書体「フトゥーラ」を生み出した。また、グリッドによって視覚領域を合理的に管理し、現代グラフィックデザインの基礎を築いたのもバウハウスの影響となる。これらの特徴は合理主義・機能主義を追求したデザイン。いわば“余計な装飾を排したシンプルな機能美”である。
もちろん、バウハウスが与えた影響は腕時計にも及んでいる。よく語られるのが、お膝元のノモス、ユンハンス、ストーヴァなどのドイツブランドだろう。
しかし、他の工芸と同様、時計でもバウハウスの影響は国境を越える。その最たる例が1932年発表のパテック フィリップ「Ref· 96」だ。カラトラバ(同社の丸型時計の総称)の源流となる通称“クンロク”はバウハウスの哲学に則り設計されたことで知られるが、そのシンプルで機能美溢れるデザインは、あらゆるドレスモデルのお手本と称される。つまりバウハウスは、世界中の腕時計に影響をもたらしたともいえるのだ。“装飾を排した”“シンプル”といった表現から、ついつい安価な時計を想像してしまいがちなバウハウスモデル。だが、それはあくまで緻密な計算に基づきデザインされたものであり、近代の叡智が生み出した究極のシンプルスタイルであることがお分かりいただけただろうか。
[時計Begin 2020 WINTERの記事を再構成]
文/岡崎隆奈