2020.03.16

【受け継ぐ時計】オメガ社長兼CEOが語る「人生初のゴールドウォッチが招き寄せた奇跡」

 

人生初のゴールドウォッチが招き寄せた奇跡
友情を象徴する時計を腕に

オメガ社長兼CEOのアッシェリマン氏の登場。氏が考える、最もオメガの価値を象徴する時計とは?そしてその時計には「時計とはエモーショナルな存在」という持論をより確信することになる感動的なストーリーが秘められていた。

Raynald Aeschlimann(レイナルド・アッシェリマン)
スイス・オメガ社社長兼CEO。1970年生まれ。サンクト・ガレン大学で経済学修士号、MBAを取得。'94年スイスの投資・財務コンサルティング会社を経て、'96年スイス・オメガ社にセールス&マーケティング プロジェクトマネージャーとして入社。2001年スイス・オメガ社セールス、リテール&ディストリビューション担当副社長兼インターナショナルディレクター、'13年スウォッチグループ役員兼任などを歴任、'16年6月より現職。

 

「病床の友人が着けた時計は友情の証」

代々続く時計師の家系に生まれて

実は私の家は、代々時計師だったんです。時計産業がスイスで始まった時代、フランスからスイスに移ってきた祖先が時計製造に携わり、父から息子へと10世代にもわたって受け継がれていったようなんです。ラシーンという苗字のファミリーで、私の父の従弟まで、その歴史は続いてきました。

ファミリー内で、200年ほど前に作られた壁掛け時計が、ずっと大切に受け継がれてきたのですが、2年ほど前、その時計を私がもらうことになりました。時計師の仕事には、代々男子が当たってきたのですが、父の従弟には息子がなく、時計を私に託そうということになったらしいのです。その時計は今でもちゃんと動いていますし、本当に素晴らしいものです。非常にエモーションに訴えかけるものを感じさせる時計です。

こうしたバックグラウンドがあったので、私はなるべくして時計の仕事に携わることになったようにも思います。オメガで初めての仕事を経験したのは、もう20年以上前、まだ大学院で博士論文を書いている頃でした。当初は1年間だけの契約でしたが、結局現在もオメガに籍を置いています(笑)。ハイエック氏の一番いい「大学」に入学でき、ビジネスとビジネスをつなぐだけでなく、ビジネスとエモーションを結び付け、どうバランスをとっていくのかを学びました。

オメガで仕事をスタートした頃、皆さんと同じく私も「スピードマスター」をアイコン的な存在の時計として意識していました。

ある金曜日のことです。その日は、祝日の木曜と週末に挟まれ、大半の人は休暇を取っており、オフィスにはほとんど人影がありませんでした。そこで私はふっと「こんな日なんだから、ミュージアムに行っても誰も責めやしないだろう」とて「スピードマスター」という存在の歴史的意義を深く知ることになりました。デザインにしても半世紀以上前に誕生したものなのに、古いものから抽出したようなヴィンテージなニュアンスとは違う、モダンさがある。タキメーターベゼルも、今なお多くのモデルに多大な影響を与え続けています。そして何よりも、月へ行って地球に帰ってきたという特別な存在でありながら、現在も店頭で誰でも手にすることができる。本当に素晴らしいことじゃないでしょうか。「スピードマスター」を愛用されている方は、その人なりのストーリーを持ってこの時計に接し、その価値を時計を介して表現されていると思います。私も“ムーンウォッチ”と呼ばれる手巻きの「スピードマスター プロフェッショナル」を長らく愛用していました。

OMEGA(オメガ)
シーマスター プラネットオーシャン
クロノグラフ
マスター クロノメーター
オメガの価値を象徴するモデル

超高耐磁性を持つマスター クロノメータームーブメント搭載。クロノグラフ機能を備え、3時位置に同軸上に統合された時分積算計を配置。逆回転防止ベゼルにはセラミックにゴールドを組み合わせた独自のセラゴールド技術を採用。自動巻き。径45.5㎜。セドナゴールドケース。600m防水。300万円。問い合わせ:オメガお客様センター

 

「愛用の時計を贈り、子どもたちと価値をシェアしたい」

友情の証となったゴールドウォッチ

オメガで仕事を続け、様々なオメガウォッチを身に着ける機会が増えましたが、そんな中で数年前、新作として登場した時計に私はもう恋をしてしまったんです。それが「シーマスター プラネットオーシャン クロノグラフ マスター クロノメーター」でした。

オメガは常により高い価値をお客様に提供したいと考えています。精度の高さ、耐磁性の高さ、防水性の高さ、クオリティの高さ、信頼性の高さ。この時計は、あらゆる面でオメガの価値を象徴しており、自信を持って着けられるものだと感じました。

私はセドナゴールドケースのモデルを自分用に選んだのですが、これは私にとって初めてのゴールドウォッチでした。それまでゴールドウォッチに対しては、いささか傲慢に見えるのではないかという思いがあったのですが、身に着けてみて決してそんなことはなく、本質的なエレガンスを感じています。

この時計には、あるプライベートなストーリーが付け加えられることになりました。私のごく親しい友人が、深刻な病に冒されてしまい、初めてそのことを知らされたとき、非常にショックを受け、彼のためにできることはなんでもしたいと考えました。しかし常時彼に付き添っていることはできません。そこで、いつも身に着け、私の一部ともなっていたこの時計を、私の身代わりとしてもらって欲しいと彼に申し出たのです。それが、目立たない形で、彼のそばにいてあげられる一番いい方法だと思ったのです。彼はそれを受け入れ、入院期間中、ずっと身に着けていてくれました。

私にとってパーフェクトな存在が、彼にとってもパーフェクトないい影響を生んで欲しい。ずっとそう願い続けていました。8ヵ月の闘病生活の末、彼の病は奇跡的に癒え、遂に退院の日を迎えたのです!

彼が私のもとを訪れ、感謝の言葉と共に、この時計を返してくれた日のことは生涯忘れることができません。この時計は、我々の友情を象徴するものになったのです。

時計というものは、服やカバンとは違って、シンボリックでエモーショナルな存在だと思うんです。外見的な価値にとどまらない、内面に語りかけるような価値を持っている。この経験によって、私はその思いをより強くしました。

私には18歳と17歳の息子と、8歳の娘がいます。まだその時期ではないでしょうが、時計を手渡すときがきたなら、それは私が愛用していたものでなければなりません。新しい高価な時計を買い与えても、お金を渡すのと同じことになってしまいます。親子で価値をシェアできるものにしたいのです。人生の最後に、遺品のような形で渡すのではなく、早い段階でそうしたいですね。私自身がまだエネルギーにあふれているうちに、子どもたちとエモーショナルなコミュニケーションを取り、意味ある時間を過ごしたいと願っています。

「オメガというブランドは、なにかを達成した人のためのブランドだと考えています。だから外見的な価値以上に内面的な価値を重視しています。開発担当者にも、そのことを常に念頭に置くように言っています」

スピードマスター ムーンウォッチ
321 プラチナ
伝説のCal.321を復刻しスピマスのレガシーを継承

アポロ11号をはじめ宇宙に赴いた「スピードマスター」に搭載の伝説のキャリバー321を復刻&搭載したモデル。手巻き。径42㎜。プラチナゴールドケース。638万円。今冬発売予定。問い合わせ:オメガお客様センター

スピードマスター アポロ11号
50周年記念 リミテッド エディション
ムーンシャインゴールド
ゴールドのスピマスを50周年記念に再現

1969年にアポロ11号の宇宙飛行士らに贈られた1014本限定製作のYG製「スピードマスター」を復刻。マスター クロノメーターキャリバー搭載。手巻き。径42㎜。ムーンシャインゴールドケース。371万円。限定1014本。問い合わせ:オメガお客様センター

 

[時計Begin 2020 WINTERの記事を再構成]
写真/小澤達也(Studio Mug) 文/まつあみ 靖