- 時計Begin TOP
- 特集
- 年間約5000件を修理できる最大級の新サービスセンター!!【パテック フィリップの工房に行ってきた!!】
2020.07.24
年間約5000件を修理できる最大級の新サービスセンター!!【パテック フィリップの工房に行ってきた!!】
腕時計の真の価値が分かる「現地」訪問ツアー
あの工房へ行ってきた!
時計界の最高峰と称賛されるパテック フィリップは、日本でのアフターサースの手厚さでも群を抜く。本社で研修を受けた技術者たちが、万全の態勢で修理やオーバーホールに真摯に向き合う。
本社と同じ技術を修得した14名の先鋭スタッフ
父から息子へ、そして孫へ──世代を超えて受け継がれる価値を持つパテック フィリップの腕時計は、他社を圧倒する高品質を誇る。それを日本で維持する責務を担うのが、ここ「パテック フィリップ ジャパン・サービスセンター」である。20名あまりのスタッフの中で、ムーブメントを取り扱うテクニカル部門で働くのは14名。スイスのパテック フィリップ研修センターで研修・資格認定を受けなければ、ここで働くことはできない。この本社が行う研修と資格認定には、3つのレベルがあり、レベル2で扱えるのは、クォーツや3針の手巻きと自動巻き。その上のレベル3を取得すると、ワールドタイムや年次カレンダーといったコンプリケーションが担当できる。最上位のアドバンスレベルは、A~Eの5クラスに分けられ、Aは自動巻きクロノグラフ、Bは永久カレンダーといった具合に各クラスごとに1つの(グランド)コンプリケーションに特化する。レベル2とレベル3を取得するのに必要な本社での研修期間は、それぞれ4週間。アドバンスレベルは、クラスに応じて2~4週間の研修が課せられる。
こうしたレベル分けとたっぷりと時間をかけた研修により、完璧な技術を修得したスタッフの手で、永久カレンダー搭載クロノグラフやレトログラード式永久カレンダーのような超複雑モデルも、国内修理を可能とする。本社送りとなるのは、スプリットセコンドクロノグラフ以上の複雑機構と、“修復”扱いとなる1970年以前のモデルだけ。一部のムーブメントで使われはじめたシリコン製パーツや、昨年発表の「Cal.26―330 5212A」の3番車で初採用された歯先に弾性を持つ特殊なLIGA製歯車に関しても、すでにスタッフが研修を受け、取り扱えるという。
本社と同じ技術を持つスタッフになら、大切な時計を安心して任せられる。
行ってきたのはココ!
パテック フィリップ ジャパン・サービスセンター
日本での全修理を担うアフターサービスの要
2019年10月に同じビル内でフロアを移して、リニューアル。従来のおよそ3倍も広い、482.27㎡ものスぺースが与えられた。ここで年間約5000件もの修理とオーバーホールに対応する。時計は外装とムーブメントに分けられ、それぞれ専門スタッフが作業を担当。
レトログラード日付表示付永久カレンダーも国内修理を可能に
センターローターの自動巻きに永久カレンダーのモジュールを積んだCal.324 S QRのオーバーホール。多様なパーツが、複雑に入り組んでいると分かる。ドライバーで外しているのは、昼夜表示ディスク。
永久カレンダーのクロノグラフも国内で対応できます!
国内トップの技術を有する
アドバンスレベルの先鋭
分解で実感する仕上げの美しさ
永久カレンダーのモジュールを、すべて分解して外した状態。パーツで隠れた地板には、全面ペルラージュ仕上げが施されている。見えないところも、手抜かりなし。分類・整理された、永久カレンダーを司る各パーツの仕上げも見事だ。
快適な作業環境で、至極の機械に新たな命を吹き込む
テクニカル部門の作業スペース。移転リニューアルによって、広く明るい、より快適な作業環境が与えられた。各作業台の仕様は、本社と同じ。14名の技術者は、全員がパテック フィリップ一筋で技術を研鑽してきた生え抜き揃いだ。今後もスタッフは、順次増員される予定とか。
工具の選定は技術者に一任
分解・組み立てに必要なドライバーやピンセットは、各技術者が使いやすい工具を自由に選べる。入念に手仕上げされたパーツを傷付けないよう、真鍮やベリリウム製の比較的柔らかいヘッドのドライバーが選ばれている。
資格認定の証が壁に
スイスで研修を受け、試験にパスした各技術者の資格認定証が壁に飾られている。現在14名の内、レベル2が5名、レベル3が4名、アドバンスレベルが5名。アドバンス取得者には、複数のクラスの資格を持つ者もいる。
渾身のグランドコンプリ
永久カレンダー搭載
クロノグラフ Ref.5270P
自社製クロノに薄型永久カレンダー・モジュールを搭載した超複雑モデル初のプラチナ仕様。クロノ機構では、6つの特許を取得する。ゴールド・オパーリンのダイヤルが、実に華やか。手巻き。径41㎜。Ptケース。アリゲーターストラップ。2038万円。
スポーティに装う複雑機構
年次カレンダー搭載
フライバッククロノグラフ Ref.5960/01
自社製自動巻きクロノは垂直クラッチ方式で、時分同軸積算計を持つ。ブルーのダイヤル上部に年次カレンダーの3つの表示窓を扇状に並べて配置し、12時位置にパワーリザーブ計も装備。自動巻き。径40.5㎜。18KWGケース。カーフストラップ。717万円。
長年愛用したケース&ブレスが蘇る
素材の特性を見極めた独自の外装仕上げ技術
一切の歪みがなく、完璧に手仕上げされた美しい外装も、パテック フィリップの大きな魅力。使い込んで傷付いたケースやブレスレットも、最上級の技術で買った当時の輝きを取り戻す。
本社と同じ技術とマシンで完璧な再仕上げを施す
修理やオーバーホールをするために、ムーブメントが抜かれたケースは、ストラップやブレスレットを取り外し、すべてが洗浄機に掛けられる。分解したムーブメントのパーツも、また同様である。そして洗浄を終えたケースは、オーナーが望めば、仕上げ直しも東京のサービスセンターで対応可能だ。
外装仕上げ専従のスタッフは、2名。むろんムーブメントと同じく、スイスで研修と資格認定を受けている。日本法人設立以前から、パテック フィリップの仕上げ直しに携わってきたベテランのポリッシャー曰く、「リテーラー時代、他社のケースも扱っていましたが、パテック フィリップのケースは、硬さにむらがない」
ファンなら承知であろう、パテックフィリップのケースは、すべて鍛造製。金型内で繰り返し高圧プレスを経る中で、他社のケースでは時に部分部分で組成のつまり具合に差が生じ、硬さにむらが生じることがある。しかしパテック フィリップのケースの硬さは均一なのだという。結果、磨き直しもしやすく、サテンでもポリッシュでも歪みのない仕上げが可能となる。
とはいえ、作業は実に慎重に進められる。例えば、全体をポリッシュ仕上げをする際には、リューズを取り付けるクラウンチューブに予め専用の樹脂製保護カバーを取り付けるのが、パテック フィリップ流。チューブトップが削られ、リューズとのすき間が広がることを防ぐためだ。何世代にもわたって繰り返し再仕上げをされることまで考慮した、独自のひと手間である。
バフ仕上げ用のポリッシャーやヘアラインを施すベルトサンダー、回転する金属盤に押し当てて平面を整え直すラッピングマシンなど、外装の再仕上げに必要な特殊な機械の多くは、本社と同じ。バフや研磨材も本社指定のものしか使うことが許されず、買った当時と変わらぬ仕上げが再現される。極一部のモデルでしか使われない、サンドブラスト用のマシンもスイスから送られ、整備され、国内対応している。
仕上げ直しの前に取り外したサファイアクリスタルを付け直すのも、ポリッシャーの仕事。そしてムーブメントを組み込む前に、ケース単体で防水検査も行っている。これは新品のケースを製作する際の工程と同じだ。美しさだけではなく、防水性能まで東京のサービスセンターで、元通りになる。
クラウンチューブのトップは専用キャップで保護!
大切な部分を削らない配慮
アンティーク時計のケースとリューズのすき間が、しばしば大きく広がっているのは、再仕上げの際にクラウンチューブが削り取られているから。パテック フィリップは専用キャップで保護することで、これを防いでいる。
すべての素材が再仕上げ可
規定のバフと研磨材で、ポリッシュ仕上げを施す。WGケースの再仕上げは、表面のロジウムメッキを剥がさなければならず、本社送りとなるメーカーが多いが、パテック フィリップは国内で再メッキまで対応。
仕上げに応じた専用マシン
右がヘアライン仕上げを施すためのベルトサンダー。マシンの右側にヘアラインを付ける、ベルト状のサンドペーパーが設置されている。左は、平面を整え直すラッピングマシン。傾斜面用に角度が変えられるガイドも装備する。
サンドブラストも国内対応
2台のサンドブラスト用マシンも整備。研磨材はもちろん砂ではなく、ゴールドのケースの場合は銅製の、SSとプラチナにはアルミナ製の粒子が使われる。いずれの粒子も、大きさや形状、組成などは本社から指定される。
特殊洗浄液で汚れを除去
ケースやブレスレットを洗うための、超音波洗浄機。お湯に特殊な洗浄液を溶かした液体を用い、徹底的に汚れを落とす。また一部のモデルでは、サファイアクリスタルを固定する強力な接着剤を落とすのにもこれを使用。
2種類の接着剤を使い分け
再仕上げを終えたケースに、サファイアクリスタルを取り付ける。多くのモデルでは紫外線硬化接着剤が使われるが、Twenty~4®の角型モデルには2液式の接着剤が用いられる。取り付け後、裏蓋をはめ込み、防水検査する。
憧れの2つの機構が1つに
ワールドタイム・クロノグラフ Ref.5930
1940年に1本だけ製作されたワールドタイム・クロノグラフを、最新のムーブメントモジュールで再現。クロノ表示は秒・分積算計だけに留め、ダイヤルを見やすく整理した。自動巻き。径39.5㎜。18KWGケース。アリゲーターストラップ。821万円。
クラシカルにシックに装う
ワールドタイム Ref.5230
オープンワークを施した時針が、クラシカルな印象を高める。ダイヤル中央に施した籠目ギョーシェは、歴史的タイムピースに範を取る。元祖ワールドタイムが、古典的な装いに。自動巻き。径38.5㎜。18KRGケース。アリゲーターストラップ。529万円。
徹底したパーツ管理と完全に独立したQC
サービスセンターには、国内修理可能なムーブメントの交換パーツがすべて揃う。修理後は防水や歩度などがテストされ、完璧な状態でオーナーのもとへ届けられる。
世代を超えて受け継ぐため
品質管理の厳格さを極める
サービスセンターの一角に置かれた、細い引き出しが積み重なったキャビネットを開けると、分類・整理されたムーブメントの交換パーツが、ズラリと並んでいた。各パーツを1つずつ収めたケースには、バーコードが付属。キャビネットの上には、バーコードの読み取り機が接続されたパソコンが置かれ、パーツの在庫状況が管理されている。管理しているのは、新しい部品だけではない。取り外された古い部品は、すべて本社に返却するのだという。つまり入れ替えた新旧の部品の数が合うよう、管理されているのだ。
これも、修理・オーバーホール時の品質を向上させるための手段の1つ。さらに完全に独立したクオリティコントロール部門を置くことで、万全な品質管理が遂行される。品質管理に携わるスタッフは、2名。やはり本社での研修・資格認定を受けている。研修期間は1週間。クオリティコントロールルームの扉は常にロックされていて、これを開けられる鍵を持つのは専従スタッフのみ。他の部門からの介入を、一切シャットアウトして試験・検査を行うことで、厳格さが保たれる。
検査・試験は、極めて厳しい。例えば精度テストは、クロノメーター規格でさえ5姿勢なのに、パテック フィリップでは6姿勢を課している。求められる平均日差は、マイナス3~プラス2秒。これもクロノメーター規格より、はるかに高精度だ。独自のパテック フィリップ・シールで、自社で最高品質を保証しているからこそ、修理・オーバーホール後の品質検査に重きを置き、一切の妥協を許さない。世代を超えて時計を受け継ぐには、完璧に品質管理されたアフターサービスが必要だと、パテック フィリップは心得る。
すべての交換パーツは
バーコードで出入庫を管理
交換パーツ専用キャビネット
幾段も積み重なる各引き出しは細身だが、細かなパーツを収めるにはこれで十分。キャビネットの上にはバーコードの読み取り機も装備する。
再仕上げ用特殊工具
外装仕上げ部門のキャビネット。上は永久カレンダーや年次カレンダーのコレクター(調整器)を抜くための治具。下はケースにサファイアクリスタルを取り付ける際に用いる押しコマ。
鍵を持つのは1人だけ
クオリティコントロールルーム。他のすべての部門から隔離されていて、中に入れるのは、品質管理担当者だけ。精度や防水など、すべての検査に必要な機械が整備されている。
端正顔に潜む複雑機構
永久カレンダー
Ref.5327
アイヴォリーのラッカー塗装ダイヤルに、植字のブレゲ数字が浮き立つ。その外側に置く小さなドットの植字も、完璧な鏡面に。すべてをインダイヤル表示とした永久カレンダーの顔を、実に端正に仕立て上げた。自動巻き。径39㎜。18KRGケース。アリゲーターストラップ。951万円。
鮮烈なブルーに装う
Twenty~4®
Ref.7300/1200A
2018年、Twenty~4Ⓡにラウンド型が仲間入り。自動巻きの名機Cal.324 S Cを潜めるダイヤルは、ソレイユ仕上げでブルーが一際鮮やかに。その周囲では、160個のダイヤモンドが煌きを放つ。ケースと調和したブレスの造作も見事。自動巻き。径36㎜。SSケース&ブレスレット。285万円。
買った後の安心感が違います!
飛び込みにも対応する超一流ブランドの良心
リニューアルで、窓口となるレセプションルームもより広く生まれ変わった。高級ホテルのロビーのような豪華なインテリアの中、落ち着いて修理の相談ができる。
高級ブランドにふさわしく
修理窓口も豪華に広く
前述のようにサービスセンターでは、年間5000件の時計を取り扱う。内2800本ほどがオーバーホールで、残りが修理。その多くは販売店経由で依頼されるが、オーナー自身が直接持ち込むケースも少なくない。事前予約が望ましいが、飛び込み依頼にも対応。自国にサービスセンターがない韓国のオーナーが、わざわざ来日して時計を持ち込むこともあるという。
サービスセンターの移転リニューアルに際し、パテック フィリップ ジャパンは、修理・オーバーホールを受け付ける窓口となるレセプションルームも拡充した。そして一流ブランドにふさわしいインテリアを設え、重厚でクラシックな椅子やソファ、テーブルなどを配置。高級ホテルのロビーと見紛うような豪華で落ち着きのある窓口は、他のブランドのサービスセンターとは一線を画す。落ち着いて時計修理の相談ができるようにとの、パテックフィリップ ジャパンの心配りだ。
ストラップ交換やブレスのコマ詰などのクイックサービスは、即日対応。修理・オーバーホールには2年の保証が付き、安心感と満足感は極めて高い。
まずは時計のカルテを作成
修理やオーバーホールを窓口で依頼する際は、個別のカルテを作成する。氏名や住所などのオーナーの基本情報や、時計の素材や機構、状態などを記載。
パーティションで区切られた応接スペース。重厚なソファセットが置かれる様子は、高級時計店さながら。
レセプションルームでは、メゾンの歴史を紐解いた公式バイオグラフィ『パテック フィリップ正史』を買うこともできる。著者はパテック フィリップ インターナショナルマガジンの特別顧問ニコラス・フォークス氏。初公開の写真や資料も掲載。2万4200円。
各テーブルセットは十分にスペースをあけ配置。複数の相談者が来店しても、互いに気にならない。
パテック フィリップ ジャパン・サービスセンター
広く豪華なレセプションルームから、テクニカル部門が作業する様子も見られる。これほどの規模のサービスセンターは、世界的にも稀。日本のサービスは、手厚い。修理・オーバーホールを直接依頼する際は、事前予約が望ましい。
住所:東京都千代田区内神田3-6-2 アーバンネット神田ビル7F
電話番号:03-5209-8016
営業時間:10:30 ~ 17:00
定休日:土・日・祝日
[時計Begin 2020 SPRINGの記事を再構成]
写真/岸田克法 文/髙木教雄 構成/市塚忠義