2020.07.15

スイス時計英才教育を受けた時計界のフィクサー!? ~小沢コージの「情熱ですよ 腕時計は」

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スイス時計英才教育を受けた時計界のフィクサー!?
その審美眼が光るオリジナル時計とは

独立時計師や独自ブランドの立ち上げなど、日本人の活躍が続く時計業界。今回ご紹介する方は中でも変わり種、先日オリジナル時計「KM No.1」を発表した三島勤也さんだ。父は大阪のマニアックな時計店主で自身は18歳でスイス留学。オリジナル時計は「夢」であり「計画通り」かと思いきや、実は「ご縁」と「なりゆき」だとか。つくづく時計界は面白い!

PROFILE
三島 勤也
(みしま きんや)/大阪生まれの43歳。言わば時計プロデューサーであり、コーディネイター。実家は1990年代には独立時計師を日本に紹介していた「旭時計店」。高校卒業後18歳でスイス留学、1年後にジュネーブの時計学校に入るつもりが入れず、独立時計師アントワーヌ・プレジウソ氏の下で勉強。同時にロジャー・スミスなど、知られざる独立時計師を発掘し、旭時計店を介し日本に紹介。現在はレ・ザルティザンとしてウルバン・ヤーゲンセン、アクリビア、グローネフェルト、キース・エンゲルバーツなどの時計を扱い、ミナセと協力してオリジナル時計もプロデュース。

「日本のワザで作り込みのエグさを追求しました」

日本の作り込みはスイスの伝統にも負けない

小沢 先日ホームページを見て驚きました。見るからに出来のいいラグジュアリースポーツの「KMNo.1」。これ三島さんのオリジナルモデルですよね。なぜ立ち上げることになったんですか。昔からの夢とか?

三島 きっかけは独立系国産ブランドのミナセさんです。そこの鈴木社長が独自のユニークピースを作りたいからアドバイスが欲しいと。僕、今までキース・エンゲルバーツとかニコラ・ドゥラロイなど欧州の独立時計師にお願いして一点物を作ってきた経験があったのでノウハウを教えて欲しいと。

小沢 それもわかる気がします。

三島 で、だったら、僕こういう時計が作りたいからまずは作って貰えませんか?となりまして。

小沢 温めていた企画があった?

三島 というかフラストレーションです(笑)。僕が手伝ってるウルバン・ヤーゲンセンにしても、スポーツエレガント系を出す出すって言いつつ、本来2年前に出来てるはずが一向に出さないし、代わりに昨今急にスイスの色々なブランドが出してきちゃって。

小沢 ある意味今ブームですからね。

三島 本来、流れに乗るのは嫌なんですけど、やはりスポーツエレガント系の代表格である某P社とか某A社とかって作り込みがエグイじゃないですか。

小沢 間違いない選択ではあります。

三島 でも、日本のブレスやケースの作り込みも、それに負けないくらいエグイんですよ。一度ミナセの鈴木さんと一緒にスイスを回ったことがあって。彼らの作ったブレスをスイスの職人に見せたら「これは凄い」「こんなの今のスイスじゃ作れない」と言われまくって。日本の技術レベルとコストパフォーマンスだったら絶対通用する。このケースにスイスのヴォーシェのムーブを入れたら絶対に当たると確信したんです。

小沢 イチローの凄さが知られてない頃に、メジャーを視察した目利きの野球関係者みたいだ。

三島 それを某G社の下を行く値段で出したいと伝えました。コストパフォーマンスの良さはマストだし、さらに、面倒ですけどブレスのコマの継ぎは完全に外に見えないようなやり方でやりたいと。

小沢 ブレスの裏側にも磨きがかかっている。超面倒くさそう。

三島 組み付けメッチャ面倒くさいです(笑)。ブレスとケースのパーツだけで300個ありますから。そのほかベゼルもベルトのバーも全部面取りがしてあって。

小沢 キラキラ感が物凄いです。ステンレスの金属をダイヤモンドカットしたみたいにキレイ。

三島 実際、お客様には喜んで頂いてます。僕は一部の高級スポーツエレガント時計があんなにちやほやされてるのが疑問でした。自分だったらもっと凝ったのが作れると。

レ・ザルティザンオリジナルのラグジュアリースポーツウォッチ「KMNo.1」。ブルーダイヤル。110万円。3針の38㎜径にこだわり、キャリバーはスイス製(ヴォーシェ)だが、ケースとブレスはすべてミナセによる日本製。ケースとブレスのパーツ数はなんと300近く。面取りとザラツ研磨の技術が凄く、宝飾のダイヤモンドカットの如き輝きを誇る。職人による尋常ではない作り込みで月1本しか作れず、某大手国産メーカーが仕上げると倍以上のコストになるとか。スイスの高級ラグジュアリースポーツウォッチにひけを取らない仕上がり。

リューズには苗字の「三」の刻印が入っている。

デザイン担当は元セイコーの日本人デザイナーで、信じられないほど手を抜かないタイプだとか。

レ・ザルティザンオリジナルのラグジュアリースポーツウォッチ「KMNo.1」。ブルーダイヤル。110万円。3針の38㎜径にこだわり、キャリバーはスイス製(ヴォーシェ)だが、ケースとブレスはすべてミナセによる日本製。ケースとブレスのパーツ数はなんと300近く。面取りとザラツ研磨の技術が凄く、宝飾のダイヤモンドカットの如き輝きを誇る。職人による尋常ではない作り込みで月1本しか作れず、某大手国産メーカーが仕上げると倍以上のコストになるとか。スイスの高級ラグジュアリースポーツウォッチにひけを取らない仕上がり。
リューズには苗字の「三」の刻印が入っている。
デザイン担当は元セイコーの日本人デザイナーで、信じられないほど手を抜かないタイプだとか。

 

「こんな時計があったらいいなと一切の妥協ナシです」

人との出会いが僕の運命を育てた

小沢 しかしそのセンスというか選球眼、どう養ったんですか?

三島 僕は元々実家が時計屋さんで、職人になるというより、時計の知識を得て販売をしていきたいという気持ちがあったんです。

小沢 元々時計好きだった?

三島 それほど興味はなかったんですけど、高校卒業した春に、父にバーゼルに連れてって貰って、アントワーヌ・プレジウソさんとかヴィンセント・カラブレーゼさんに出会うんです。

小沢 独立時計師の大物ばかりじゃないですか。お父さん凄い!

三島 父のビジネスセンスは半端じゃなくて、当時既に独立時計師と仕事をしていました。実は僕、モノ好き以上に人好きなんですよ。みなさん魅力的で、こういう人達が作る時計の世界は面白いなと思ってスイスに留学するんです。

小沢 かなり特殊な展開ですねぇ。

三島 しかもここからが凄くて、最初はフランス語学校に行ってて、言葉ができるようになった頃にジュネーブの時計学校に入ろうとしたんですが、当時はまだスイスにクォーツショックというかセイコーやシチズンにやられた記憶が残ってて。

小沢 まさか入学できなかった?

三島 はい。で、1年目のある日フランス語学校に行った後、アントワーヌさんが「じゃあ勤也、暇なときにアトリエに遊びにおいで」と。

小沢 凄い。プレジウソ直伝の時計学だ。何を教わったんですか?

三島 時計の基本となる知識だったり、作り方だったり、後は友人のキース・エンゲルバーツさんや、宝飾のセッティングをしている方、’90年代に実家の時計店でお仕事をして貰っていた人達をご紹介いただいて。

小沢 なるほど。まさに門前の小僧習わぬ経を読むだ。時計ビジネスを見よう見まねで身体で覚えたんですね。しかもスイス、しかも先生はプレジウソさんという。

三島 ある意味恵まれていましたし、特殊なケースだと思います。

小沢 それも有名スイス時計ブランドではなく、いきなり独立時計師のジャンル。結局スイスには何年いました?

三島 大学代わりだったんで4年ぐらい、ジュネーブを中心に好き勝手やってました。後半はグリンデルワルトの時計屋さんで日本人相手に時計も売ってましたから。

小沢 それこそ、人気スイス時計ブランド中心の世界ですよね。

三島 時計を売ればコミッションが入るんですけど、僕はそれこそ某O社とかを買いに来た人に、もっと頑張って貰って某J社や某B社の時計を売ってました。

小沢 わかる。漠然と時計に憧れてスイスに来た人が、妙に時計に詳しい、フランス語と英語ペラペラの日本人に会い、これっきゃないと言われれば買っちゃうよね(笑)。しかも人懐っこいタイプですよね。

三島 確かに先輩からはメッチャ可愛がって貰っています。僕の場合、人生のポイントポイントで出会う人達が素晴らしくて、ハタチの頃から今も凄くお世話になっている方と、ある日チューリッヒの時計の蚤の市で出会うんです。その方は僕が扱った1本目の某R社のトゥールビヨンのお客様で。

小沢 出会いの運が半端じゃない。

三島 その方はコレクションが物凄くて、アントワーヌさんの一点物だったり、某B社の超絶複雑機構の時計とか。

小沢 どれも超弩級じゃないですか。

三島 2002年に放映されたNHKの『独立時計師たちの小宇宙』という番組のコーディネイトも担当させていただきました。

小沢 実はすべてお客様の要望であり、共に動くビジネスですね。

三島 基本、僕はお客様のお話聞き係なんです。御用聞きと言いますか。いろんな相談を受けながら解決法を見つける。時計を売ってるというより、なにかのお手伝いをして、たまたま結果的に時計が売れているという(笑)。

小沢 やっぱり、その人柄がなせるワザなんですね。

感性で仕事をする三島さんのオフィス。散らかっているようでちゃんと並びの法則が!レ・ザルティザン(www.lesartisans.jp)

懇意にする独立時計師プレジウソ氏(右)とカラブレーゼ氏(中央)

自分用のKM No.1のプロトタイプ。12時位置に入っているロゴのオレンジはラッキーカラーだとか。

感性で仕事をする三島さんのオフィス。散らかっているようでちゃんと並びの法則が!レ・ザルティザン(www.lesartisans.jp)
懇意にする独立時計師プレジウソ氏(右)とカラブレーゼ氏(中央)
自分用のKM No.1のプロトタイプ。12時位置に入っているロゴのオレンジはラッキーカラーだとか。

 

[時計Begin 2020 SPRINGの記事を再構成]
写真/谷口岳史

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