2020.07.14

五輪大会における時計メーカーの役割「最新のスポーツ計時事情」【おたくの細道】

毎度マニアな時計の情報を届けるこのコーナー。今回は、さまざまな競技会で行われる「スポーツ計時」について。オフィシャルタイマーっていったいどんなことしているの?

五輪大会における時計メーカーの役割
最新のスポーツ計時事情

公式計時に情熱を傾け続けた
オリンピックの陰の立役者

東京オリンピックを間近に控えた今、時計の観点で押さえておきたいのはスポーツ計時である。公式計時(オフィシャルタイマー)に選ばれた時計会社は大会にどう貢献してきたのか。その歴史とともに紐解いてみよう。

スポーツ競技における計時の最重要事項は競技者の記録を測定し、順位を確定すること1896年開催の第1回オリンピック・アテネ大会で、すでに機械式ストップウォッチ使われていたが、当時の関心は記録より誰が勝つかであって、その計測も1秒単位とい加減だった。だが、オメガが初めて公式計時を担当した1932年ロサンゼルス大会は、高性能ストップウォッチの導入によって1/10秒計測まで向上。さらに’52年のヘルシンキ大会では、初のクォーツ式「オメガ・タイムレコーダー」が採用され、1/100秒までの計測が可能になる。

しかし、人の目視による手動計時ではどうしても人為的なミスがつきまとう。そこで登場したのがセンサーなど電子機器で自動判定する電子計時だ。それまでは手動と電動が併用されていたが、’68年メキシコシティ大会にて、ついに全種目で電子計測の記録が公式タイムとなる。その後も電子計時は進化を続け、’91年にセイコーが開発した「フォトフィニッシュシステム」は、1秒に2000枚の画像を連続撮影することで1/1000秒単位での判定を実現。2012年ロンドン大会でオメガが採用した「クアンタム・タイマー」は、なんと1000万分の1秒という超精密計測にまで至っている。

このように電子計時の発達で計測装置や表示用機材が格段に大がかりとなった昨今、オリンピックの公式計時を実質的に担える企業は世界で2社に限られる。それがスイスタイミング社と日本のセイコーだ。前者は’72年にオメガとロンジンが共同設立した現オメガの子会社。同社は北京大会に450人のスタッフと420トンの機材を送り込み、資金面の負担も相当なものに。それでも公式計時を続ける情熱たるやすごい。一方、セイコーも今年の大会こそ担えなかったが、それは以前からの決定事項であり、2032年以降の巻き返しを狙っているはず。

次回は、’64年東京大会の公式計時を勝ち取ったセイコーの物語をお送りする。

フォトフィニッシュシステム(現在はスリットビデオシステム)
セイコーが開発した写真判定システム。ゴールの瞬間、1秒間に2000枚の連続撮影を行いコンピュータ上で合成することで、1/1000秒単位のフィニッシュタイム計測が可能に。

デジタルタイマー
競技会場に設置されるデジタル大型タイマー。陸上競技の時間表示のほか、カウントダウン表示や屋内競技の得点カウンターなども。

ビデオ距離計測システム
走り幅跳び・三段跳び用距離測定装置。ソフトウェアとの連携で、モニター画面の着地点にカーソルを合わせるだけで自動計測する。

その他さまざまな新世代のデバイス
陸上競技用のスターティングブロックなど、オメガが開発した先進機器。他に1マイクロ秒(100万分の1秒)の高精度を誇る計測器「クアンタム・タイマー」も。

<b>フォトフィニッシュシステム(現在はスリットビデオシステム)</b><br>セイコーが開発した写真判定システム。ゴールの瞬間、1秒間に2000枚の連続撮影を行いコンピュータ上で合成することで、1/1000秒単位のフィニッシュタイム計測が可能に。
<b>デジタルタイマー</b><br>競技会場に設置されるデジタル大型タイマー。陸上競技の時間表示のほか、カウントダウン表示や屋内競技の得点カウンターなども。
<b>ビデオ距離計測システム</b><br>走り幅跳び・三段跳び用距離測定装置。ソフトウェアとの連携で、モニター画面の着地点にカーソルを合わせるだけで自動計測する。
<b>その他さまざまな新世代のデバイス</b><br>陸上競技用のスターティングブロックなど、オメガが開発した先進機器。他に1マイクロ秒(100万分の1秒)の高精度を誇る計測器「クアンタム・タイマー」も。

 

[時計Begin 2020 SPRINGの記事を再構成]
文/岡崎隆奈