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2020.11.26
小津安二郎が生涯愛した再高品質、王室御用達の英国時計【おたくの細道】
毎度マニアな時計の情報を届けるこのコーナー。今回は、かの有名な映画監督も愛用した英国製懐中時計について。英国王室お墨付きとなる最高峰のその逸品とは!?
小津安二郎が生涯愛した最高品質
王室御用達の英国時計
名だたる時計師の意志を継ぐ
世界最高峰の高品質メーカー
今年は映画会社の松竹が設立されて100年目にあたる。松竹映画には名作が多数あるが、とくに『東京物語』など傑作を多く手がけた小津安二郎監督には、今も世界中から称賛の声がやまない。小津監督について書かれた本を開いてみると、たいそう物道楽な洒落者だったことがわかる。三つ揃いのスーツ、鼈甲の眼鏡、洋モク入りのシガーケース、パイプ……。要するに英国紳士なのだ。そして、その中には英国製の懐中時計もあった。
小津監督が愛用した懐中時計は2つあり、どちらも英国の時計メーカー、J.W.ベンソンが製作したもの。ひとつは金無垢、ひとつは銀無垢の紛れもない高級品である。スイス製ではなく英国製というのがいかにも小津監督らしいではないか。余談になるが、筆者も英国時計が大好物で、ベンソンの時計をいくつか集めている。だからこれを知った時は非常にうれしくなってしまったのだ。
余談はさておき、もう少しこのメーカーについて紹介していこう。同社は1800年代中頃、ジェームズ・ウィリアム・ベンソンによってロンドンで創業。高級時計を中心に手がけ、やがて最高峰の英国王室御用達メーカーに認定される。これは〝ロイヤルワラント〞ともいわれ、英国王(女王)の厳正な審査を通ったメーカーはロイヤルアームス(紋章)を掲げることができる。ベンソン製ムーブのブリッジにも、〝WARRANT TO QUEEN VICTORIA〞(ヴィクトリア女王の認可)の文字が誇らしげに刻まれている。時計の歴史を革新したジョン・ハリソンやジョン・アーノルドらが英国人であることからも、当時の英国時計が世界最高水準だったことがわかる。その中でも最高峰がベンソンだった。
その後ベンソンは、第一次世界大戦の工場被災により自社製ムーブの生産を断念。スイス製の高級ムーブを搭載した時計製造や高級宝飾店として活動を続けるも、20世紀半ばに歴史に幕を下ろす。時を同じくして、それまで世界を牽引してきた同国の時計産業全体が衰退し、今では英国メーカーはほぼ消滅してしまった。
機会があればかつての英国時計を手にとってみてほしい。スイス製とはまた違う堂々とした気品ある佇まいに、小津監督ならずとも魅了されるはずだから。
英国時計「J.W.ベンソン」
小津安二郎監督が愛用していた懐中時計。2 品とも英国の王室御用達メーカー、J.W.ベンソンの製品。上はゴールド製のハンターケース、下はデミハンターという上蓋の中央がシースルーになったシルバー製ケースを採用。
小津安二郎
1903年、東京・深川生まれ。’23年に松竹蒲田撮影所に入社し、’27年に監督デビュー。『晩春』(’ 49年)、『東京物語』(’53年)など、女優・原 節子と組んだ一連の作品で評価を確立し、没後は欧米を中心に世界中で称賛されている。
[時計Begin 2020 autumnの記事を再構成]
文/岡崎隆奈