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2021.03.15
新しく生まれ変わったGSの時計工房「グランドセイコー スタジオ 雫石」へ行ってきた!
腕時計の真の価値が分かる「現地」訪問ツアー あの工房へ行ってきた!!
行ってきたのはココ!
雫石の自然に調和する
製造とその情報発信基地
北に霊峰・岩手山がそびえ、東には鳥帽子岳と駒ケ岳の稜線が連なる──奥羽山脈の豊かな自然に恵まれた岩手県雫石町で、グランドセイコーのメカニカルモデルは作られている。製作を担うのは、1970年創業の「盛岡セイコー工業」。
微細なビスまで自社製造し、その熱処理やメッキを積層する超精密成型技術・MEMSの施設を持ち、ムーブメントの組み立てからケーシング、検査まで一貫して行えるここは、真のマニュファクチュールである。
敷地面積は、約10万1000平米と広大。その北東の一角に7月20日、新たな製造拠点「グランドセイコースタジオ 雫石」がグランドオープンした。
県道から車で敷地内に入り、緩やかな坂を上ると、大きく傾斜をつけた屋根の真新しいスタジオが出迎えてくれる。東側の軒先を高く持ち上げ、西に向かって傾斜した屋根は、水平を保って奥へと延びて、その先にある森の木々と同化する。
周囲の環境と調和する建物の設計者は、隈研吾氏。彼は、THE NATURE OF TIMEというブランドフィロソフィーを表現するため、木造で新たなスタジオを築いた。
入口のある東面と岩手山を望む北面は、全面ガラス張り。エントランスを入ると、天井が高く開放的な空間が広がる。ここは、グランドセイコーの歴史と現在、さらに盛岡セイコー工業が製作するグランドセイコーの機械式ムーブメントを紹介する展示スペース。
主力キャリバーは、全パーツと一緒に展示され、脱進機やテンプの拡大模型でその仕組みが分かるようにもなっている。ガンギ車やアンクルの実物をルーペで見られ、焼き入れと焼き戻しの熱処理で鋼材がどう変化するのか曲げて試せるなど、体験型の展示も多い。
そう、グランドセイコースタジオ雫石は、完全予約制の一般公開を前提 に建設されている。そして製造拠点と前述したとおり、エントランスから北側廊下を進むと左側には、ムーブメントの組み立て・調整の専門工房があり、ガラス越しに見学できるようになっている。
さらにその先では、防水検査やバンド付けの様子も見られる。コロナ禍の影響で、残念ながら一般公開のスタート時期は、未定。しかし新たなスタジオからは、様々な形でものづくりの精神が、世界に向けて発信される。
新しく生まれ変わったGSの時計工房!
自然の温もりを感じるモダンな設計
今年60周年を迎えたグランドセイコーのメカニカルモデルを担う、新たな製造拠点が誕生。 一般公開も予定され、素晴らしい日本のものづくりの精神を世界に向けて発信する。
グランドセイコーの匠の技を分かりやすく解説し展示
展示スペースにあるショーケースも、隈氏のデザイン。それぞれにグランドセイコーの歴史やムーブメント、その製造工程などが展示されている。右上はパーツに使われる材料やMEMSに、右下は各仕上げ装飾に関する展示。左は現行グランドセイコーに搭載されるムーブメントを展示している。
時計の工房としては珍しい
木造設計の機能的な組み立てクリーンルーム
製造拠点であり、情報発信基地でもあるスタジオの主役は、組み立て・調整工房。広々として明るい新たなクリーンルームで、機械式ムーブメントに命が吹き込まれる。
レイアウトも一新され作業効率も大幅にアップ!
1階の見学用廊下の窓から工房での作業の様子を見終え、その先にある階段を上るとドラマティックな光景が広がる。踊り場の壁がガラス張りになっていて、工房全体を俯瞰することができるのだ。北側と南側の多くの柱により建物を支えることで、のびのびとしたエントランスが実現されたのと同じ手法だ。隈氏は、スタジオの主役となる組み立て・調整工房にも、天井の高いゆったりとした空間を与えた。
盛岡セイコー工業は、2004年に組み立て棟に雫石高級時計工房を開設した。それを今回、ここに移設。旧工房もそうだったが、新工房は両サイドの壁の上下に通気口が備わるクリーンルームになっている。その天井にはエントランス同様に梁がなく、外から持ち込まれたホコリやチリが溜まりづらい。結果、旧工房と比べて空気中のチリとホコリの割合は、およそ10分の1にまで減少したという。
移転に伴い、レイアウトも一新された。旧工房では個別に配置していた作業台を、ざら組み(前段階の大まかな組み立て)、ひげゼンマイ調整、組み立て、調整といった工程ごとに横並びの島状に配置したのだ。これにより作業効率は向上し、より高い品質が得られるようにもなった。また雫石高級時計工房設立の際に作られた岩手の伝統の岩谷堂箪笥の技術を用いた作業台も、レイアウトに合わせてリフォームされた。
盛岡セイコー工業は、高い技術を持つ技術者をマイスターとして認定し、 技能の習熟度に応じてゴールド、シルバー、ブロンズに分けている。そしてマイスターは、後進の育成も担う。こうしてグランドセイコーの機械式ムーブメントを生み出す匠の技は、未来へとつながれてゆく。
[時計Begin 2021 WINTERの記事を再構成]
写真/岸田克法 文/髙木教雄 構成/市塚忠義