2021.05.07

初任給で比較してわかった’60年代名作時計を現在の価格に換算すると?【おたくの細道】

 

毎度マニアな時計の情報を届けるこのコーナー。今回は、1960年代の国産名作時計の発売価格を調査してみた。昔の時計は今とくらべて高かったの? 安かったの?

初任給で比較してわかった、’60年代名作時計
現在の価格に換算すると?

買えないから欲しくなる”高嶺の花”の高級モデル

近年は高級時計が値上がりし、庶民が簡単に手を出せる代物ではなくなったと嘆く声を耳にする。たしかに頷くところはあるが、そもそもかつての高級時計は、今の感覚ならどれくらいの価格で販売されていたのか?昔と現在の物価統計をもとに、これを検証してみたいと思う。

各時代の物価を比較する際によく用いられるのが「大卒初任給」である。たとえば1960年(昭和35年)の平均初任給は約1万3000円で、2020年は約21万円。およそ16倍の違いがある。むろん、これですべて測れるわけではないが、今回はこれを基準にしてみる。1960年発売の高級時計と言ってまず思い付くのは「グランドセイコー(GS)」だ。スイス製高級時計に劣らぬ機能とデザインを目指し、当時のセイコーが渾身の力を込めて開発したこの腕時計は、発売価格が2万5000円とある。

これは現在に換算すると40万円となり、やはり当初から特別な1本だったことがわかる。一方、その翌年に発売されたGSと並ぶ名作「キングセイコー」の販売価格は1万2000円で、現在の価格だと20万円。これなら初任給でなんとか買える価格といえよう。

他社にも目を移してみよう。シチズンが’61年に同社初の本格男性用自動巻き腕時計として発売した「ジェット」。その価格は7500〜1万3800円であり、現在なら12〜22万円に。また、’62年発売の〝スイスクロノメーター級〞高精度腕時計「クロノメーター」は2万5000〜2万8000円で、平均初任給の上昇を考慮しても33〜37万円となり、こちらも高級品である。

そして極めつきは、セイコーが’69年に発表した「クオーツアストロン」だ。今こそ”クォーツ=安価”のイメージがあるが、この世界初のクォーツ腕時計は金無垢ケースに納められ、45万円という価格で発売された。これを当時の平均初任給(約3万5000円)で換算すると、なんと270万円。中型車1台の価格に匹敵する超高級時計だったのである。

こうして検証してみると、意外にも、’60年代と現在の高級時計に、それほど感覚的な価格の差はない。いつの世も高級時計は高嶺の花。それでも手に入れたくなるのが時計好きの性というもの。

 

1960
グランドセイコー

セイコー腕時計の頂点に君臨するモデルとして1960年に誕生。部品製造、組み立てから調整、外装、検査にいたるまで、当時の最高技術を投入して開発された。発売価格は2万5000円で、当時の大卒初任給のおよそ2倍に相当。

1962
シチズン クロノメーター

シチズン初の「スイスクロノメーター優秀級」合格の高精度男性用腕時計。当時国内最大のテンプを採用した。微動緩急調整装置付きで、日差‒1秒~+10秒の超高精度を実現した。発売価格は2万5000~2万8000円。

1969
セイコー クオーツアストロン

世界初のクォーツ式腕時計として1969年に発売。従来の機械式や音叉式とも異なる、水晶振動子による駆動方式を採用し、腕時計の世界に革命を起こす。ケースは金無垢製で、当時の中型車並みの価格45万円で発売。

 

[時計Begin 2021 SPRINGの記事を再構成]