2022.02.22

あの名作にこんな秘話があった! 時計ファン必見の一冊【おたくの細道】

毎度マニアな時計の情報を届けるこのコーナー。今回は、時計を題材にした本で、これは、と思われるものを紹介。時計おたくなら必ず読んでおきたい不朽の名著とは!?

『ポケット・ウオッチ物語(グリーンアロー・グラフィティ)

最近、若者をふくめ新しい時代の流行として復権を果たすポケット・ウオッチ。その魅力を300点以上の写真と図版で解き明かす。小島健司(著)。グリーンアロー出版社。1998年。

『おじいさんの古時計』

マリー・アントワネットが依頼した精巧な時計、米国で発達した鉄道時計、日本の恩賜の銀時計、芥川賞の時計、戦争の中の時計たちなど、時計にまつわるストーリーを綴る。小島健司(著)。三省堂。1994年。

『経度への挑戦 一秒にかけた四百年』

18世紀イギリス。経度を測定するため、新たな方法を探り、海上時計を作りあげた男、ジョン・ハリスン。彼の情熱を描いたノンフィクション。デーヴァ・ソベル(著)。翔泳社。1997年。

歴史に残る名作時計の感動ストーリーが満載

 本誌をはじめ、時計雑誌やムック本はわりと多く出ているが、時計をテーマに深掘りした歴史書・ノンフィクションとなるとさほど多くはない。とはいえ、なかには非常に優れたものもある。

そこで今回は、筆者の個人的趣向や見解から読者におすすめしたい書籍を紹介する。

まず1冊目は『経度への挑戦 一秒にかけた四百年』。主人公は〝ハリソン・クロノメーター〟と呼ばれる高精度時計を生んだ英国の時計職人ジョン・ハリソンである。舞台は18世紀ヨーロッパ。海上交易が盛んだった当時、不正確な経度測定による海難事故が相次いだため、英国は1714年に経度法を制定し、経度誤差が30分以内の測定法考案者に莫大な賞金を約束した。

ニュートンやエドモンド・ハレーら著名な天文学者が天体観測に解決を求めるなか、無名時計師のハリソンがこれに名乗りをあげた。ハリソンは1728年から7年かけてハリソン初号機「H1」を開発。続く’39年に「H2」、’57年に「H3」、そして’59年、30年以上の試行錯誤のすえ「H4」を完成させた。この直径13㎝の携帯型マリンクロノメーターは、その後の航海実験で81日間の誤差が5・1秒という超高精度が証明され、ついに長年の経度問題に決着をつけた。

だが、ハリソンが庶民出身だったことから経度委員会は賞金の支払いを渋り、結局ハリソンが賞金を手にするのは80歳の時。また、たびたび天文学者の横槍に遭うなど、苦境の中でも執念で開発に挑む物語に惹き込まれる。著者は元ニューヨーク・タイムズの記者で科学ジャーナリストのデーヴァ・ソベル。内容も難解ではなく、読みやすいのでおすすめだ。

 2冊目は『おじいさんの古時計』。著者の小島健司氏は半世紀以上の収集歴をもつ懐中時計コレクターであり、別書の『ポケット・ウオッチ物語』では、小島氏の収集したコレクションとともに、懐中時計の歴史から、構造、ジャンル、扱い方、コレクター学入門までを手ほどきする。この本を通じて懐中時計の世界に足を踏み入れたという人も多いのではないか。

 同書は解説書とはまた違い、歴史上ユニークな存在感をもつ時計たちを取り上げ、その時代と時計にまつわるストーリーを紹介するもの。第1章はブレゲがマリー・アントワネットのために作った時計など世界の時計、第2章は日米の鉄道時計、第3章は明治期に浸透した舶来・国産のボンボン時計、第4章は天皇から贈られた恩賜時計、第5章は芥川賞を筆頭とする文学賞の時計、第6章は戦争にまつわる時計、終章は唱歌『大きな古時計』の題材になった米国製の置時計(掛時計ではない!)と、どれも興味深い。

なかでも心に残るのは第6章の戦争にまつわる時計の話で、太平洋戦争中、米軍と戦うために出征して戻らなかった兵士が残した米国製ウォルサムの話などは、涙なしに読むことはできない。

 字数に限界がきたので今回はここまで。次回はもう少し最近の本も紹介してみたい。これらは現在絶版ゆえ入手しにくいものもあるが、古書店や通販サイトで見つけたらぜひ購入を検討されたい。

 

[時計Begin 2022 WINTERの記事を再構成]