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2021.12.22
腕時計のシリコン革命はこのモデルから始まった!ユリス・ナルダン「フリーク」【ロングセラー変遷記】
早すぎたエクスリン博士の大発明
腕時計のシリコン革命はこのモデルから始まった!!
ユリス・ナルダンを代表する独創的コンプリケーションウォッチ「フリーク」。シリコン製ムーブメントの先駆けともなったこのモデルの変遷を追う。
シリコンムーブとともに進化を続ける先進スタイル
2001年のバーゼルで、衝撃的デビューを果たしたユリス・ナルダンの「フリーク」。ケースサイドにはリューズがない。文字盤を占める巨大な脱進機が回転して時間を表す姿は、まさに”フリーク(異形)”の名にふさわしく、見る者に絶大なインパクトを与えた。
このモデルの開発を手がけたのは、すでに「天文三部作」などで名声を得ていた同社の頭脳、ルートヴィヒ・エクスリン博士だ。博士は分針を兼ねた輪列のブリッジにテンプと2つのガンギ車を取り付け、脱進・調速を行う「デュアル・ユリス・エスケープメント」の完成に成功する。これはテンプを含む脱進機が常に回転することで重力の影響を抑えるトゥールビヨンの一種「カルーセル」の独自形態である。また、2つのガンギ車には世界に先駆けてシリコン素材を使い、7日間パワーリザーブを確保するなど、機構からデザインまですべてが画期的な1本だった。
その後フリークは、年を追うごとにスタイルを進化させる。’07年に脱進機にシリシウムとダイヤを融合した新素材を採用。’10年にはテンプをフライングトゥールビヨンに変更することで秒針表示も可能に。さらに’15年には、脱進機の小型・軽量化によってテンプの位置がセンターに移動し、日付表示も追加された。そして’18年の「フリークビジョン」では、長く手巻きだった機構が独自のグラインダー自動巻きとなり、テンプにもシリシウムを使ったユリス・アンカー脱進機へと進化を遂げた。シリコンモデルの先駆者だけではけっして語れない革新性がそこにはある。
2001年
脱進機の回転で時を示す元祖シリコン製ウォッチ
オリジナルモデルOriginal model
2001年に発表された「フリーク」の初代モデル。デュアル・ユリス・エスケープメントが文字盤上で回転し、分針の役割を兼ねる独創的な機構を擁した。また、脱進機には業界初のシリシウムが採用され、画期的な7日間パワーリザーブを備えた。
2007年
素材が進化した限定モデル
2007年に限定28本で発売された「フリークダイヤモンシル」。独自の脱進機、デュアル・ユリス・エスケープメントに新素材ダイヤモンシルを取り入れた。自社製Cal.UN-200搭載。7日間パワーリザーブ。手巻き。径44.5㎜。プラチナケース。
変更点
軽量・強靭なダイヤ×シリコン
機構内の2つのガンギ車に独自素材”ダイヤモンシル”を採用。これはシリシウムの表面にナノ単位で人工ダイヤを結晶させたもので、より強靭となってムーブメントの耐久性が向上した。また、文字盤に合わせ脱進機の色もブルーに。
2010年
初の秒針付きトゥールビヨン
2010年発表の「フリークディアボロ」。最大の特徴である回転式の脱進機にフライングトゥールビヨンを追加。60秒で1回転するこの機構により、シリーズ初の秒針表示付きモデルとなった。8日間パワーリザーブ。手巻き。径45㎜。18KWGケース。
変更点
ブラック&レッドの悪魔カラー
従来のカルーセル機構をフライングトゥールビヨンに変更。秒針の周囲には表示用のインジケーターを配した。また、イタリア語で”悪魔”を示すモデル名どおり、文字盤を精悍なブラックで統一し、随所に赤の差し色を施した。
2013年
海をイメージした進化モデル
デザインと機構をより進化させた2013年発表の「フリーククルーザー」。フライングトゥールビヨンを擁した新開発の自社製Cal.UN-205を搭載し、ブランドの歴史を想起させるモチーフを時計の随所に取り入れた。手巻き。径45㎜。18KRGケース。
変更点
繊細でエレガントなマリン仕様
特徴的な分針が18Kレッドゴールド製となり、ユリス・ナルダンの象徴となる錨をモチーフにした繊細なデザインに。さらに、時刻合わせに用いる回転式ベゼルは、波をイメージしたなめらかな曲線を描くデザインへと変更された。
2015年
センターテンプのデイト付き
2015年に限定99本でリリースされた「フリークラボ」。テンプの位置を文字盤中央に移動し、新たに日付表示を採用。また、独自の耐震装置”ユリショック”をムーブメント内に備えることで耐衝撃性を向上させた。手巻き。径45㎜。18KWGケース。
変更点
軽量かつコンパクトな分針の設計
文字盤センターへのテンプの移動にともない、分針の輪列機構はよりコンパクトにまとめられ、さらに極限まで軽量化を図ることで重心の偏りを解消。日付表示は4時位置にセットされ、時表示はディスク式に変更されている。
現行モデル
2018年
独自機構を擁す初の自動巻き
上のモデルはグラインダー自動巻き機構搭載の「フリークビジョン」。テンプもシリシウムとなったユリス・アンカー脱進機を備える。径45㎜。プラチナケース。1212万2000円。右はリューズ付きで小振りな「フリークX」。自動巻き。径43㎜。チタンケース。287万1000円。問い合わせ:ソーウインド ジャパン
[時計Begin 2021 autumnの記事を再構成]
文/岡崎隆奈 構成/市塚忠義