2022.03.09

本業船長の人気時計ユーチューバーはなぜ生まれたのか?~小沢コージの「情熱ですよ 腕時計は」

自身のYouTubeが開始後1年半で登録者数4万人以上! その魅力はロジカルかつ説得力ある独特の世界観。若き希有な時計タレントはどのようにして誕生したのか?

PROFILE

RY/(あーる わい)

本業は船長。時計YouTuber。東京海洋大学に入り、厳しい帆船航海訓練を終え、卒業後に船舶会社に入社。外国船に乗ってわずか3ヵ月で英語をマスター、数年で外国船の船長に。学生時代から一流の物選びに憧れ、社会人になってからクルマ、服、靴、カバンと選び抜いた後、時計にハマる。時計談議がしたくて2019年ブログ開始、’20年YouTube『腕時計のある人生Channel』を開始。

謎のユーチューバー RYとは?

「本業が私の時計選びにも大きく関係しています」

小沢 聞きたいことは山ほどありますが、RYさん、船長をされているとか。

RY カーデザインの学科がある大学を目指したんですが、なかなか学力が届かなくて。そうしたら、東京海洋大学という国立大学があるのを知ったんです。そこは航海士を育成する大学で、海や船とは無縁の生活を送っていたのですが、スケールが大きくてこれは面白そうだと。

小沢 普通の大学とは全然違うと。

RY 心身共に鍛えられたと言いますか、凄くいい経験をさせて頂いて。船でトータル1年間全国津々浦々行くんですが、中には海外もあって横浜ーハワイ往復とか。しかもエンジンは一使わないんです。

小沢 時計趣味にも影響あった?

RY メチャクチャ影響ありました。スマホはもちろんパソコンなどモダンな通信機器はすべて遮断するんです。海上で星と太陽を視認してサイン、コサイン、タンジェントと数学で位置から時間まで割り出していく。天気予報も気圧配置見て、明日はこういう風が吹くから帆の角度はこうとか。それが30日間続くんです。

小沢 人生観変わりますか?

RY 変わりますね。クルマの運転にも通じますが操船は凄く楽しかったですし、メカニカルな物も好きになりました。

小沢 そこから時計好きに?

RY それは少し後で、その後就職してすぐ外国船で働き始めるんです。

小沢 英語は?

RY 全然できませんでしたが3ヵ月で喋れるようになりました。で、社会人になって23歳で最初に買ったのがメルセデス・ベンツのCLA。輸入車に憧れてたので。

小沢 次の買い物は?

RY スーツ、靴、カバン。麻布テーラーのセミオーダーとかスペインのコスパのいい革靴などを買いました。

小沢 その辺キモですね。イマドキの世代なのに嗜好が妙にバブルっぽい(笑)。

RY 少し高くても長く使えるタイムレスな物が好きで。長く使える分、愛着が湧くし背筋が伸びます。

小沢 その上イマドキな堅実さもあって、それがユーチューブに出てますね。凄く戦略的なんですよ、物の選び方が。

RY とはいえクルマ、服、靴、カバン、ペンと来て唯一理解できなかったのが時計でした。直径わずか40mmの機械でわかるのは時間だけ。それでいて値段は高い。そこで社会人4年目に入る時に当時尊敬していた上司に聞いたんです。なにを買えばいいかと。彼はエンジンセクションのチーフエンジニアでオーストラリア人。60歳ですがメチャクチャカッコいい。仕事ぶりは超一流で、ツールをキレイにパーンと並べて、ささっと仕事して、凄くいいレポートを仕上げてくる。身のこなし、持ち物、私生活も超一流で憧れ。

小沢 リチャード・ギアみたいな感じ?

RY ジェームズ・ボンドです僕的には(笑)。で、彼が薦めてくれたのがロレックスのサブマリーナーのノンデイト。正直それまでロレックスはバブルなイメージでしたが彼曰く、世界はそう見てないよと。男が憧れるステータスアイテムで堅実な時計。同時に物を買う時はワールドスタンダードで見ろと。なおかつ定番品を買いなさいと教えてくれました。

小沢 いい先生に出会いましたね。

RY まさにその通りで、探してサブマリーナーを正規店で買ったら時計の面白さにハマってしまって。メカニカル的な視点はあるし、ファッション的な視点もあるし、しかも長く愛用できる。将来子もに引き継げるのも嬉しかったですね。

本業は船長の時計YouTuberのRYさん。30代前半で時にアップルウォッチも。

学生時代から「長く使えるタイムレスな物が欲しい」と常に考えていた。愛用のウォーターマンのボールペンとロットリングのシャープペンシル。

大学時代の訓練中の写真。社会人5年目で早くも代理船長業務を、7年目から船長。クルーのシフトから法的対応などすべて取り仕切る。

本業は船長の時計YouTuberのRYさん。30代前半で時にアップルウォッチも。
学生時代から「長く使えるタイムレスな物が欲しい」と常に考えていた。愛用のウォーターマンのボールペンとロットリングのシャープペンシル。
大学時代の訓練中の写真。社会人5年目で早くも代理船長業務を、7年目から船長。クルーのシフトから法的対応などすべて取り仕切る。

「時計ブランドのマトリクス表は、反響大でした」

小沢 それがなぜユーチューバーに。

RY サブマリーナーは凄くいいけど、絶対ぶつけるし、過酷な海の上に持っていくことはできない。それで海の上で使えるタフでリーズナブルな機械式腕時計として見つけたのがセイコーのSKX007。当時1万7000円ぐらいでスペックは最少限だけどカッコいい。実はここから時計語りたい!って思い始めるんです。海の上ではSKX、プライベートではサブマリーナーという時計二刀流が始まって、面白さを友達に話したくなったんだけど相手がいない。そこから暗く長いインプットの時代が始まるんです(笑)。

小沢 ちなみに時計情報は?

RY もっぱら海外サイト。仕事柄英語を使いますし、ワールドスタンダードで見ろと教わったので。情報量は圧倒的だし、海外ではライフスタイル中心、ファッションとどう合わせるか、人生にどう寄り添っていくかという視点が多い。バックストーリーも重要で、そもそも僕が時計にひかれたのもそこでしたから。

小沢 だから『腕時計のある人生 Channel』なんですね。身近にユーチューバーはいましたか? お手本とか。

RY そんな人いませんし、最初は勇気がありませんでした。ただユーチューブの前に『腕時計のある人生』というブログを始めるきっかけがあったんです。それは仕事の後輩で、彼は凄くオタク気質で、家に帰るとひたすらゲームとライトノベルに没頭するタイプ。だけどある時「こんなゲームがあったらいいのに」というアイデアが浮かび、とあるサイトでウェブ小説を書き始めたらあれよあれよと大人気。ものの数ヵ月で小説家デビューしちゃったんですよ。そこで気付いたのが好きのエネルギーは凄いってこと。自信なんてなくていい、ゼロから始めればいいんだと後輩から教えられて、2019年に腕時計のある人生ってブログを始めるんです。そしたら翌年、世界がコロナ禍に入り、これは皆ユーチューブを見るだろうと。そこで20年3月に最初の動画をアップしまして。

小沢 最初のヒット動画は?

RY マトリクス表ですね。ある種のブランドヒエラルキーというか、半ばタブーだったと思うんです。時計ブランドを格付けするなんて。

小沢 絶対やっちゃいけないマトリクス表ですね。ロレックスの上になにが来るとか、もうちょいオシャレなのはコレとか。

RY 時計って凄く歴史が深くて面白い。ゆえに難しくてとっつきにくい。全体を俯瞰して見られる表があったら助けになると思ったんです。

小沢 今は結局時計を何本お持ち?

RY 16年から毎年買っていて今は6本。いくつかマイルールがあって、1年に1本まで、所有は最大10本と決めてます。

小沢 好きに買えばいいような? ユーチューブで稼げばいいじゃないですか。

RY いやいやとことん悩んで選ぶからこそ喋ることにも深みが出てくるし、説得力も出てくる。今は登録者数が10万人行ったら最高のドレスウォッチを1本買いたいと思ってます。そこに想い出も乗っかるし、自信にもなるし、子どもに引き継ぐストーリーもできると思うので。

小沢 まさに腕時計のある人生。単なる時計情報ユーチューバーじゃないんだと。

 

自分に似合うちょっとハードル高めの時計をロジカルに選びに選んで買うのがRY流。厳格なマイルールがあり①買うのは1年1本のみ、②コレクションは最大10本、③10本以上になると売るか殿堂入りと定め、2016年尊敬する上司の薦めでロレックスのサブマリーナー初購入以来、セイコー、フォルティス、ブライトリング、ヴァシュロン・コンスタンタン、1968年製グランドセイコーを購入。チャンネル登録者数10万人で雲上級購入が目下最大の夢。

 

[時計Begin 2022 WINTERの記事を再構成]