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2022.08.10
ライバル時計対決 A.ランゲ&ゾーネ「1815」 vs ヴァシュロン・コンスタンタン「トラディショナル・マニュアルワインディング」時計好きの終着駅
3針、スモールセコンド、丸型小径、ゴールドケース、手巻き、日付表示なし……。時計を選ぶとき、このようなキーワードが並ぶようになってきたら、大好きな時計人生は、“後半戦”に突入したのかもしれない。オヤジ好み、と言う意味ではない。これまで何本も時計を所有してきた時計好きが、最終的に行き着く聖域なのである。年間数百本を見る時計関係者やジャーナリストが、このような時計が大の好物であるパターンも多い。実際、時計業界を代表する老舗ブランドは、シンプルな3針モデルこそ手を抜かない。クオリティの高さで勝負しなければならないことを、充分理解しているからだ。今回比較した2本の時計は、A.ランゲ&ゾーネの「1815」と、ヴァシュロン・コンスタンタンの「トラディショナル・マニュアルワインディング」である。
ではまず、A.ランゲ&ゾーネのブランド解説から。スイスに次ぐ時計大国であるドイツ。同ブランドが、ドイツ時計の最高峰であることに、異論のある人はいないだろう。創業者は、後に宮廷時計師となるグートケスの工房に15歳で弟子入りしたアドルフ・ランゲ。更なる技術を修得するため、フランスやイギリス、スイスに渡ると、1841年に帰国。ドイツ・エルツ山地が鉱山の廃坑で困窮しているのを知った彼は、1845年、この地に時計工房を開く。現在のグラスヒュッテに根付く、ドイツ高級時計作りの始まりである。「1815」とは、アドルフ・ランゲの誕生年。同ブランドのコレクションの中で、創業者のこだわりを最も色濃く反映している。
ヴァシュロン・コンスタンタンの創業は、1755年。一度も歴史が途切れることなく現在に至る、世界最古の時計メゾンである。創業者ジャン=マルク・ヴァシュロンが手がけた懐中時計のムーブメントには、アラベスク装飾の彫金で彩られている。この優れた美観こそが、スイス・ジュネーブ時計の伝統。その美しい時計は、息子アブラアン、孫のジャック・バルテルミーに受け継がれ、優れたビジネスセンスの持ち主であったフランソワ・コンスタンタンとの運命的な出会いによって、国際的なネットワークで世界中に広まっていった。「トラディショナル」コレクションは、こうした18世紀から続くジュネーブのクラフトマンシップに敬意を表している。
実際の時計を見ていこう。「1815」のケース直径は38.5㎜、厚さは8.8㎜、重さ78.09g。対して「トラディショナル・マニュアルワインディング」は直径38㎜、厚さは7.7㎜、重さ63gと、気持ち小さい。防水性能はともにドレスウォッチの標準、3気圧防水だ。ダイヤルの特徴として、どちらのモデルにも共通するのが、ダイヤル外周のレイルウェイ式のミニッツトラック。「トラディショナル・マニュアルワインディング」が全て等間隔なのに対し、「1815」は、5分おきにドットマークが入る。また「1815」は、コレクション共通でアラビアインデックスを採用。「トラディショナル・マニュアルワインディング」はバトン・ド・ジュネーブ型のアプライド・インデックスだ。時分針には互いに個性が発揮され、「1815」は焼き入れて色をつけたブルースティール針、「トラディショナル・マニュアルワインディング」は、ピンクゴールド(5N)をポリッシュ仕上げしたドーフィン型だ。
最後に時計を裏返してムーブメントをチェック。「1815」が搭載するキャリバーL051.1は、直径30.6㎜、厚さ4.6㎜、構成パーツ数は188個、パワーリザーブは約55時間。「トラディショナル・マニュアルワインディング」のキャリバー4400ASは、直径28.6㎜、厚さ2.8㎜、構成パーツ数は127個、パワーリザーブは約65時間となっている。振動数は、「1815」が毎時2万1600振動なのに対し、「トラディショナル・マニュアルワインディング」は毎時2万8800振動、巻き上げ方式は、ともに手巻きとなる。ムーブメントには、ブランドの“らしさ”が現れている。「1815」のキャリバーL051.1は、A.ランゲ&ゾーネの代名詞でもある洋銀製の4分の3プレート、受けにエングレービングを施したスワンネック型バネ&チラネジが、いかにも古典的。「トラディショナル・マニュアルワインディング」のキャリバー4400ASは、シングルバレルにもかかわらず、ロングパワーリザーブを実現。21個の受け石がふんだんに使われ、ジュネーブ・ストライブや面取りも見事。ジュネーブ・シールが誇らしく刻まれている。
スイス・ジュネーブ、そしてドイツ・グラスヒュッテで受け継がれてきた一切の妥協がない時計作り。ここに紹介した2本は、そのブランドのこだわりが、最も凝縮されたモデルといえよう。時計を知れば知るほど、この別格のオーラに気がつくことだろう。幸運にも手に入れることができたなら、間違いなく一生をともにする腕時計となるはずだ。
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(構成・文/市塚忠義)