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2022.12.12
おたくの細道「リコーの隠れた名作”大阪万博記念モデル”」
毎度マニアな時計の情報を届けるこのコーナー。今回は、1970年大阪万博開催にあわせて製作された時計について。その印象的な5角形デザインはどうして生まれたのか?
大阪万博開催にあわせ、リコーが発売した「日本万博記念リコー時計(通称・EXPO’70)」。同万博のシンボルマークである桜をモチーフにした5角形ケース採用。革ベルト仕様のほか、ペンダント仕様も。裏蓋に万博のシンボルマーク入り。当時の価格5000円〜5500円。
’70年代の活気を体現したダイナミックな5角形時計
東京、北京と、夏冬連続のオリンピックが怒涛のように過ぎていった。さて、オリンピックが終われば次は万博。いよいよ2025年は大阪・関西万博である。日本開催でもっとも人々の心に刻み込まれた万博といえば、やはり前回の大阪万博だろう。1970年3月〜9月の半年間、大阪吹田市の千里丘陵で開催した大阪万博は、日本およびアジア初の国際博覧会であり、戦後の高度経済成長を経て世界第2位の経済大国となったわが国の輝かしい記憶である。筆者が生まれる前の出来事なのでリアルタイムの実感はないが、当時の人々、とりわけ子どもたちの熱狂ぶりは容易に想像がつく。
大阪万博には日本を含む77ヵ国のほか、多くの国内企業が参加し、各パビリオンで互いの文化や技術を競い合った。その中で時計に関連したパビリオンがリコー館である。地上75mに浮く巨大バルーンが目を惹く同館では、大阪万博の記念モデル「RICOH EXPO’70」が販売されて人気を博した。以前、このコーナーでも紹介したが(2018年夏号参照)、リコーは1959年の伊勢湾台風で大被害を被った高野精密工業株式会社を請け負うかたちで’60年代にリコー時計(現在のリコーエレメックス)を設立。以降、ダイナミックオートなどの人気作を生み、その流れで製作したのがEXPO’70である。
残念ながらEXPO’70に関する当時の資料は、同社にもほとんど残っていない。森 年樹氏著「国産腕時計 タカノ・リコー(トンボ出版)」によると、本作は万博開催前日の’70年3月14日に発売が開始され、標準小売価格はSSが5000円、GP(ゴールドプレート)が5500円。同社30系のベースムーブを使用した17石の手巻きキャリバーを搭載し、革ベルトを備えた腕時計タイプと、専用アタッチメントにチェーンを装着するペンダントタイプが存在した。最先端技術の万博記念モデルがアナログの手巻きというのも興味深いが、前年に登場したばかりのクォーツがまだまだ高額品だったという事情もあるに違いない。
そして最大の見どころは、なんといってもそのデザインだ。ベゼルが大きく張り出した特徴的な5角形ケースは、よく見ると各隅に花びらのような円を擁している。これは日本の国花=桜をかたどった大阪万博のシンボルマークをベースにした意匠で、文字盤も一体的なデザインとなり、各円の片割れを除いたヒトデ状の中央には、赤、緑、青、グレーといった鮮烈な色が施されている。ちなみに、一部ネットなどに本作が岡本太郎デザインとの記述があるが、それは誤りで、あくまで大高 猛作のシンボルマークをもとにリコーが手がけたもの。しかし、それもにわかに信じてしまいそうなほど大胆かつ魅力あるデザインなのである。
何を隠そう、筆者もこの時計に魅せられた一人。ネットオークションや骨董市で見かけるとついつい手を出してしまう。なぜならそのデザインには、人々が活気と希望に溢れていた’70年代初頭の得体の知れない力を感じるから。見ているだけでパワーが湧く魅惑の時計なのだ。
EXPO’70(筆者所有)
上/SS(GP)ケース、シャンパン&ダークグレー文字盤。左/SSケース、シルバー&ライトグレー文字盤。右/SSケース、シルバー&レッド文字盤。他にグリーンとブルー、インデックスはバーとドットタイプがある。17石の手巻きキャリバー「43」を搭載。
[時計Begin 2022 SUMMERの記事を再構成]