2023.02.20

今年の時計界の傾向とは!? 「 2023年 時計トレンド予測」

2023年トレンド予測

多くの新作が発表された2022年は、来年のトレンドを担うであろう話題作も数多くみられた。そこで、数多ある2022年発売モデルの中から、時計識者が選ぶ「ベスト・ワン」をご紹介。また、2023年の時計界の傾向も大胆予測します。

「ラグジュアリー・スポーツ系」のさらなる充実の時代

松山さん

作家 松山 猛さん/1946年京都生まれ。早くから作詞家として活躍。ライターとして日本の音楽とファッションシーンをリードし、時計への造詣も深い。

スティール・ブレスレットを持つ、いわゆるラグジュアリー・スポーツというジャンルの時計を、多くのブランドがラインナップする時代が来ているように思える。ジュネーブのチャペックやシャフハウゼンのH.モーザーなどからも、斬新なスタイルのラグジュアリー・スポーツウォッチが登場した。それは世界的なファッションの変化にも対応する試みだと言えるかもしれない。なぜなら、人々はより軽快なものに贅沢さを求めているに違いないからだ。

【2022 BEST】
古典的な技法による視認性の良い文字盤の時計

モリッツ・グロスマン

モリッツ・グロスマン
トレンブラージュ

文字盤に微細なニュアンスをあたえるトレンブラージュ技法の彫金を施したもので、それにより視認性を高めたものだが、そのシックさが素晴らしい。手巻き。径41mm。18KRGケース。アリゲーターストラップ。約42時間パワーリザーブ。682万円。(モリッツ・グロスマン公式サイト

ケニッシ社が牽引する「GMTウォッチ」のトレンド

髙木さん

ライター 髙木教雄さん/1990年代後半から時計を取材対象とし、さまざまな雑誌で執筆。書籍「世界一わかりやすい腕時計のしくみ」(世界文化社刊)が2022年末に発行予定。

行動制限が解除されたからだろうか、2022年はマルチタイムゾーンウォッチが各社からリリースされた。2023年もこの傾向は続き、GMTウォッチがトレンドになると予想する。カギを握るのは、ケニッシ社だ。かつてモデル数が多かったGMT針単独操作タイプは、ETAとセリタの寡占状態だった。

近年は主時針が単独操作でき、現地時間に合わせられる仕組みが主流だ。真のGMTウォッチとも呼ばれる主時針単独操作のムーブを供給できるのは、現状ではケニッシ社のみ。新工場の完成で、増産体制は整った。同社の優れたGMTキャリバーは、引く手あまたになるはず。

【2022 BEST】
仕組みと美しさが傑出するデュアルタイムウォッチ

パルミジャーニ・フルリエ

パルミジャーニ・フルリエ
トンダ PF GMT
ラトラパンテ

8時位置のボタンでホワイトゴールドの針を現地時間に合わせられる仕組み。帰国後リューズ同軸のボタンを押せば、ローズゴールドの針に追い付く。その操作が実に楽しい。ローズエンジンによる、真のギョーシェ彫りの美しさも魅力だ。ベゼルはプラチナ製。自動巻き。径40mm。SSケース&ブレスレット。386万1000円。(パルミジャーニ・フルリエ公式サイト

「カラー文字盤」が時計本来の楽しさを教えてくれる

柴田さん

ライター 柴田 充さん/1962年東京生まれ。時計をはじめ、ファッション、クルマ、デザインなどライフスタイル分野を中心に、広告制作や雑誌の執筆で活躍。

この数年、新作時計の開発や発表は減衰する一方、投資対象としての価値は上がり、高級化と稀少性に重きを置き、ゴールドの採用で価格はより高騰した。また一部の人気モデルは入手困難な状態が続く。その中で光明となったのはカラー文字盤だ。ロングセラーの定番でも新鮮さをアピールでき、色合いは雑誌やネットでも伝わりにくいため、時計店への来店促進にも繋がる。

この傾向は2023年も続くのではないか。このカラー化も含め、2022年最も注目したのは「バイオセラミック ムーンスウォッチ」だ。願わくばオメガ以外のブランドともコラボをしてもらいたい。僕らはただ時計でもっと遊びたいのだ。

【2022 BEST】
遊び心満載ながら素材やデザインは本物のこだわり

スウォッチ

スウォッチ
バイオセラミック ムーンスウォッチ

限定モデルではないにもかかわらず世界で熱狂的に受け入れられた。先進素材に、非対称ケースやドットオーバー90のタキメーターなど細部にもこだわる。クォーツ。径42mm。バイオセラミックケース。ベルクロストラップ。3万3550円。(スウォッチ公式サイト

昭和レトロな雰囲気をたたえる「ベーシックな良品」が人気に(願望)

吉田さん

ライター 吉田 巌さん/メンズ雑誌やWEBで時計やファッションについての記事を執筆。人物インタビューも得意。時計はヴィンテージのクロノグラフが好物。バイク好き。

ココのところ高級腕時計市場は、空前絶後の活況と言われています。値上がりを続ける時計を前に、指をくわえて見守るばかりという私のような時計好きも多いのでは? 2023年はそこを打破する高コスパな時計がいっぱい出てくる、いや出てきてほしいと切に願っております。そうじゃないと若い世代の腕時計離れがますます進んでしまいますからね。

私がとくに期待しているのは国産勢。’22年ベストに選出したキングセイコーのように、頑張れば手が届く価格帯のベーシックな良品をもっとテコ入れしてほしい。昭和レトロがトレンドですし、掘り起こせば大ヒットしそうな隠れ傑作はまだまだあるんじゃないでしょうか。

【2022 BEST】
エッジの立ったデザインが’60年代の工業製品ぽくて好き

キングセイコー

キングセイコー
SDKS001

GSと並び国産機械式を牽引したもうひとつの雄がレギュラーコレクションで復活。’65年発売の2代目、”KSK”を受け継ぐソリッドな意匠は、洗練を極めたGSとはまた違った味があっていい。コンパクトなサイズもツボ。自動巻き。径37mm。SSケース&ブレスレット。19万8000円。(セイコーウオッチ公式サイト

ハイエンドウォッチ“コンプリ”から「こだわり装飾」へ

まつあみさん

ライター まつあみ靖さん/集英社編集者を経て’92年よりフリー。様々な雑誌で腕時計、ファッション、音楽、インタビューなどの記事に携る。ミュージシャンとしても活動中。

最近、高級腕時計のトレンドが複雑機構よりも装飾仕上げにシフトしつつあるのを感じる。往年の時計製作のための器具を用いた凝ったギョーシェ、丁寧で深い面取り、ブラックポリッシュなどの仕上げに愛好家の注目が集まっている。

カリ・ヴティライネン氏が、これを先導しているように思うが、関口陽介氏の「プリムヴェール」、レジェップ・レジェピ氏の「クロノメトル コンテンポランⅠ&Ⅱ」、ナオヤヒダの各モデルなども、その流れに位置付けられるといえるだろう。

このトレンドが、今後ミドルレンジのブランドにも広がっていくことが予想される。ロンジンの190周年記念モデルなどは、その予兆を示すものとみている。

【2022 BEST】
19世紀のヤーゲンセンスタイルを範とする実直時計

YOSUKE SEKIGUCHI

YOSUKE SEKIGUCHI
「プリムヴェール Ref.39SS-WHBK」

有力複雑系メゾンで腕を磨いたル・ロックル在住の実力派時計師、関口陽介氏のデビュー作。19世紀の時計師ユール・ヤーゲンセンのムーブメントをベースに、パーツ製作から仕上げまで全て手作業で完成させた労作。グラン・フー・エナメル文字盤を採用。手巻き。径39.5mm。SSケース。アリゲーターストラップ。限定5本。938万3000円。(小柳時計店公式サイト

こんな時計みたことなかったという「驚きの時計」が登場

岸田さん

フォトグラファー 岸田克法さん/1962年生まれ。コロナ禍以前は26年にわたりスイスで開催された時計の展示会を撮影。生涯に撮影した時計の数は5万本以上にわたる。

未来予想ほど当てにならないものはないと思っています。誰がコロナ禍、戦争、円安に翻弄される日本の今を予想できただろう。腕時計業界も、ラグスポブームや転売目的も含めた某ブランド店舗の朝一の開店待ちの列などで、一部の人気の腕時計が市場から一気に消えるなど、純粋な時計ファンにはあまり歓迎できない現状。

だが、クォーツショックの最中の1972年にロイヤル オークが誕生するなど、世界が変化する時期には新しい何かが生まれるものです。G-SHOCKも40周年。40年前にはこの世になかった落としても壊れない腕時計のような、現時点でこの世にない価値観をもつ腕時計の登場を楽しみにしています。

【2022 BEST】
GPHG受賞おめでとうございます!

グランドセイコー

グランドセイコー
Kodo コンスタントフォース・トゥールビヨン
SLGT003

2022年度ジュネーブ時計グランプリ(クロノメトリー賞)を受賞!おめでとうございます。1969年発売のセイコークオーツアストロン35SQと同じくらいの衝撃を世界に走らせたと個人的に思っています。手巻き。径43.8mm。Pt+ブリリアントハードチタンケース。姫路黒桟革ストラップ。4400万円。(グランドセイコー公式サイト

[時計Begin2023 WINTER&SPRINGの記事を再構成]

※表示価格は税込み
写真/岸田克法(人物)