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2025.12.02
フランク ミュラーは叩き、IWCは削る!? これ何のこと?
【学ぶぞ、本格時計】パーツで分けて、すべてを理解しよう!
なんとなくは分かっているけど、人には説明できない……。そんな時計の専門用語を一度しっかりマスターすれば、本格時計の真の価値が見えてくるはずだ!
[ケース・外装編]
大きく2つに分類できる【ケース成形】
金属組織が密に詰まる鍛造
形状と素材を選ばない切削
大まかなケース形状に打ち抜いた金属塊を、ケースの表と裏の形を凹状に写し取った金型の間に置き、50~200トンの圧力で繰り返しプレスする──鍛造ケースは、この高圧プレスによって金属組織が密に詰まり、仕上げ磨きした際に輝きが一層美しくなるという。一方で複雑な形状やシャープなフォルムには向かず、また成形の際に複数の金型を必要とするためコストもかかる。また1台のプレス機で1つのケースしか作れないため、量産性も低い。かつては時計ケース製造の大半が鍛造だったが、多くのブランドやケース工場が切削に切り替えた理由だ。
それでもなお、パテック フィリップやフランク ミュラー、ブライトリングなどが鍛造にこだわるのは、前述したように美しく仕上げられる密な組織を求めているからであり、素材自体がより頑強になるからである。
鍛造の場合も、最終的に切削によって形状が整えられ、ムーブメントを収めるための内部の溝などが加工される。そして現在主流の切削ケースもまた、用いる金属部材が材料メーカーによってあらかじめ冷間鍛造されている。
切削加工は1台のマシンでさまざまなケースに対応でき、形状の制約もほぼなく、エッジが効いたシャープなフォルムが容易に作り出せる。またそもそも鍛造ができないチタンはもとより、工作機械の高性能化によってセラミックやカーボン複合材といった金属以外の素材も加工できるようになった。
ケース素材がバリエーション豊かになったのは、切削技術の進化の賜物だ。
時計のケースは“叩く”or“削る”の二択
《鍛造》
金属は、一定の力で変形させると元に戻らない特性を持つ。鍛造はこの特性を利用し、金属を叩いて圧力をかけ、変形させる成形方法。包丁や刀のように金属を熱してから叩く熱間鍛造と、常温で行う冷間鍛造とがあり、時計のケースは冷間鍛造で作られる。

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金型の間で高圧プレスを繰り返すことで、金属塊は、少しずつケース形状に整っていく。フランク ミュラーのトノウ カーベックスの場合、完成まで10種の金型を必要とする。プレスを行うごとにケースを熱処理し、工程によってプレスマシンの圧力を調整している。
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三次元曲面の複雑な形状は、鍛造時に硬度が不ぞろいになりやすいため、途中で随時熱処理をして、硬さを均一化する。また全鍛造工程終了後にも、同じ熱処理で残留応力を抜く(工程画像はヴァンガード)。
FRANCK MULLER(フランク ミュラー)
トノウ カーベックス クレイジー アワーズ

哲学的独自機構
毎正時に時針がジャンプし、不規則に並んだ時インデックスの次の時間の数字を指す。メゾンを象徴する独自機構のダイアルは、背景にも数字がランダムに浮かび上がる。自動巻き。ケース45×32mm。18KPGケース。クロコダイルストラップ。517万円。
問い合わせ:フランク ミュラー ウォッチランド東京
フランク ミュラー公式サイト
《切削》
金属を切り削り、成形する加工方法。1990年代後半にコンピュータ制御ができ、自動で複数の工具を使い分けるCNCマシニングセンターが普及したことにより、ケース製造でも切削加工が主流となった。鍛造よりも加工精度が高く、より複雑な形状がかなう。

素材とサイズごとに分けられた、ケース素材のストックルーム。大半が円筒状で、チタンを除く金属部材は、すべて冷間鍛造を終えた状態でメーカーからファクトリーに届けられる。
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ケース切削加工する最新のCNCマシニングセンター。部材を自動で持ち替えて左右からケースの表裏を一度に切削できる。また36ものツールがセットでき、あらゆる形状に対応。
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ベゼルと内部の形を整える一次加工を終えたケースで、その形状から通称UFO。続いて周囲を切削してケースとラグの形状を成形する。この段階でも、表面は実に滑らかだ。
IWC(アイ・ダブリュー・シー)
パイロット・ウォッチ・クロノグラフ 41

爽やかな青に装う
ダイアルのブルーは、米国海軍のトップガン・プログラムのかつての拠点ミラマー海兵隊航空基地に由来する。ストラップも同色に整え、装いは実に爽やかだ。コラムホイール式の自社製クロノグラフCal.69385を搭載。自動巻き。径41mm。SSケース。ラバーストラップ。109万4500円。
問い合わせ:IWCシャフハウゼン
IWC公式サイト
[時計Begin 2025 AUTUMNの記事を再構成]
※表示価格は税込み