トゥールビヨンは次世代へ、改めて学ぶその仕組み

【学ぶぞ、本格時計】パーツで分けて、すべてを理解しよう！

なんとなくは分かっているけど、人には説明できない……。そんな時計の専門用語を一度しっかりマスターすれば、本格時計の真の価値が見えてくるはずだ！

［ムーブメント編］
飛んで回って、精度のために
クルクル回って重力に立ち向かう【トゥールビヨン】

片側だけで支えたケージが浮遊し回っているかのよう

携帯される時計は、その時々で姿勢が変わり、かかる重量方向も変化する。この姿勢差でテンプの振動軸（天真）はさまざまに傾き、細い軸先がそれを支える受石内で揺れ動き、精度を落とす。トゥールビヨンは、回転するケージ（キャリッジ）にテンプと脱進機を収めることで、姿勢差の平均化を図る複雑機構だ。これは1801年、アブラアン-ルイ・ブレゲによって発明された。その構造上、重量がかさむため、ケージの軸は両端で支える必要があった。それが1900年代初頭、イギリスとドイツで片側だけで支える構造が登場。ケージの上に視界を遮るブリッジがなく、宙に浮いているように見えるから、名付けて「フライングトゥールビヨン」。腕時計としては1998年にブランパンによって初めて実現された。

リシャール・ミルも2023年から、フライングトゥールビヨンをラインナップする。そして今年、同機構は透明ケースに収められ、浮遊感を高めた。

《フライング》トゥールビヨン

ケージを片側だけで支える構造のトゥールビヨン。同機構は長く1920年にドイツ人時計師アルフレッド・ヘルヴィグが発明したとされてきたが、2011年、英国人時計師ロバート・ベンソン・ノースが1903年にこの仕組みを特許申請していたことが判明した。

Cal.RM75-01
サファイアクリスタルケース専用に設計されたフライングトゥールビヨン。香箱もブリッジがないフライング構造を採る。片持ちだけのケージの耐衝撃性を高めるため、フレーム状のチタン製地板の構造を徹底的に検証した。

RICHARD MILLE（リシャール・ミル）
RM 75-01 フライングトゥールビヨンサファイア

360度光を透過
文字盤側のブリッジを最小限にし、豊かな透明感を創出。ムーブメントを固定するフランジもリブが連なるスケルトンとし、横からも光を通す。世界限定10本。手巻き。ケース46.74×32.9mm。サファイアクリスタルケース。ラバーストラップ。価格要問い合わせ。

問い合わせ：リシャールミルジャパン
リシャール・ミル公式サイト

《コンスタントフォース》トゥールビヨン

ゼンマイのトルク変化は、精度落ちの大きな原因である。そこで輪列の途中に駆動力をバネに溜めて一定周期（多くは振動数と同じか1秒）で開放し、固有のバネ定数による一定の力でそれ以降を動かす機構を、コンスタントフォースと呼ぶ。通常は脱進機に作用させるが、トゥールビヨンと組み合わせる場合はケージを一定の力で回転させる。

ARNOLD & SON（アーノルド＆サン）
コンスタントフォース トゥールビヨン 11 イエローゴールドエディション

二人の天才時計師へのオマージュ
ダイアル側にコンスタントフォースを見せ、裏蓋側にトゥールビヨンを装備。裏が見える構造は、ジョン・アーノルドの死後、彼が製作した懐中時計を盟友だったブレゲが初代トゥールビヨンに改良したモデルに範を採る。限定11本。手巻き。径41.5mm。18KYGケース。アリゲーターストラップ。価格要問い合わせ。

問い合わせ：アーノルド＆サン相談室
アーノルド＆サン公式サイト

《コンスタントフォースフライング》トゥールビヨン

テンプに重ねたシリコン製の円形プレートと一体成型した超極細の2本のブレード（板バネ）で、同じくシリコン製のアンクルを固定。ブレード固有のバネ力で脱進時にアンクルがテンプに伝える力を定量化する独自のユリス・アンカー・コンスタント・エスケープメントをフライングトゥールビヨンに組み合わせた。ガンギ車もシリコン製。

ULYSSE NARDIN（ユリス・ナルダン）
ブラスト フリーホイール マイユショール

ミステリアスな複雑機構
フライングトゥールビヨンが単独で回転する様子が幻想的。4時位置にやはり単独で備わるのはパワーリザーブ計で、その機構はダイアル左サイドに並ぶ遊星歯車を用いたユニットが担う。すべてが独立したような構造が、実に斬新。限定50本。手巻き。径45mm。18KWGケース。ラバーストラップ。価格要問い合わせ。

問い合わせ：ソーウインドジャパン
ユリス・ナルダン公式サイト

[時計Begin 2025 AUTUMNの記事を再構成]

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