2026.07.01

グランドセイコーが「ミラノデザインウィーク2026」に出展

2018年から続く「ミラノデザインウィーク」への出展 

グランドセイコーの「ミラノデザインウィーク」出展スペースとなったのは、ブレラ地区にあるギャラリー「ガレリア・ダルテ・モデルナ・イル・カステッロ」。進藤 篤氏、川原隆邦氏、阿部伸吾氏という3名のクリエイターが制作したインスタレーションが披露された。

ジュネーブで開催されたWatches & Wonders 2026の終了直後、4月21日から26日までの日程でイタリア・ミラノで開催された、世界最大規模のデザインの祭典「ミラノデザインウィーク2026」に、グランドセイコーが出展した。 

グランドセイコーが「ミラノデザインウィーク」に初出展したのは、セイコーブランドから独立を果たした翌年の2018年のこと。その後、コロナ禍による中止の時期を挟み、通常開催となった2022年に復帰。昨年2025年には、日本を代表するデザイナー/アーティストの吉岡徳仁氏を迎え「TOKUJIN YOSHIOKA-Frozen」というテーマの下、ブレラ地区にある歴史的建造物「パラッツォ・ランドリアーニ」でアートプロジェクトを展開した。

グランドセイコーは、2023年からフォーリサローネ/ブレラ デザイン ウィークの公式タイムキーパーに就任している。 

少々説明を補足すると、「ミラノデザインウィーク」は、ミラノ郊外の展示会場ロー・フィエラで行われる、家具、インテリアなどのブランドが主体の「ミラノサローネ」と、同時期にミラノ市内各地のギャラリー、ブティック、歴史的建造物などを舞台に、ファッション、家電、自動車、時計など多彩なブランドが参加する「フォーリサローネ」という二つのエキシビションからなる。 
グランドセイコーは後者の「フォーリサローネ」に参加し、感度の高いブティック、ギャラリー、飲食スペースなどが軒を連ねるブレラ地区でエキシビションを開催してきた。その実績から、フォーリサローネ/ブレラ デザイン ウィークの公式タイムキーパーの大役を担うこととなった。 

3人のクリエイターがダイヤルにインスパイアされた作品を披露

そして2026年の今年は、デザインプロデュースやコンサルティングを手掛け、「ミラノデザインウィーク」でも実績のある株式会社 TRUNKの創業者・桐山登士樹氏を改めてプロデューサーに迎え、ブレラ地区にあるギャラリー「ガレリア・ダルテ・モデルナ・イル・カステッロ」の約80m²の空間で、進藤 篤氏、川原隆邦氏、阿部伸吾氏という3名のクリエイターが制作したインスタレーションが披露された。 
作品のインスピレーションソースとなったのは、ブランドフィロソフィーである「THE NATURE OF TIME」を具現化したダイヤル。自然や季節の移ろいに寄り添う感性と、時の本質に迫ろうとする匠の技という、二つの日本の精神性が凝縮されたダイヤルを、それぞれのクリエイターが、独自の感性と手法で再解釈した。 
作品制作にあたり、各クリエイターは長野県塩尻や岩手県雫石にある時計工房を訪れ、時計の製作に対する理念、プロセス、技術などに対する理解を深め、それを作品に反映させたという。 

「PULSE OF TIME」進藤 篤

進藤 篤氏は、「空気感との対話(Cultivating Atmospheres)」をテーマに多彩な作品を展開するデザイナー/アーティスト。腕時計のダイヤルという小宇宙に散りばめられた光の屈折と奥行きが創り出す繊細な多層性を、空間へと拡張したインスタレーション作品『PULSE OF TIME』を展示した。 

「aurora」川原隆邦

富山県伝統の蛭谷(びるだん)和紙を継承する一方、独自のクリエーションを展開する川原隆邦氏は『aurora』と『うつろい』の2作品を展示。 
『aurora』は、薄さと漉き方を微妙に変えた巨大なグラデーションの和紙によって、静かで流動的なオーロラの広がりを再現。
『うつろい』は、グランドセイコーのダイヤルデザインである花筏・雪白・樹氷・水面・白樺の5つをモチーフに、「THE NATURE OF TIME」というブランドフィロソフィーを可視化した作品。

「うつろい」川原隆邦 

この作品の前には、花筏・雪白・樹氷・水面・白樺をモチーフとするダイヤルのエヴォリューション9コレクションの5モデルも並んだ。 

「story」阿部伸吾

ストーリー性の高い映像表現に定評のあるCGディレクターで、このプロジェクトには3度目の参加となった阿部伸吾氏は、ビデオインスタレーション「story」を制作。舞い降りる花弁、降り積もる雪、吹き付ける風、木立の間を動く影――光と影の連鎖から新たな風景が生まれ、時間とともに重なり、凝縮された瞬間が結晶のように輝く、そんな「物語」が映像に閉じ込められた。

クリエイターへのインタビュー①進藤 篤氏

「ミラノデザインウィーク2026」の開幕に立ち会った進藤 篤氏と、川原隆邦氏の二人に現地で話を聞くことができた。 

進藤 篤(しんどう・あつし) 1991年生まれ。東京藝術大学大学院デザイン専攻課程修了。 インテリアデザイナーとしてホテル、オフィス、商業空間等のデザインに携わる。 個人プロジェクトでは、「空気感との対話(Cultivating Atmospheres)」をテーマに据え、空間、インテリアオブジェクト、アート作品等、多岐にわたる作品を発表。主な受賞歴に、iF Design Award(2026)、日本空間デザイン賞「エキシビション・イベント空間部門」銅賞、サステナブル空間賞(2024)、ELLE DECOR JAPAN, Young Japanese Design Talent(2023)ほか。

まず進藤 篤氏。 
「グランドセイコーさんは国内外で評価される高い技術や認知度を獲得されているブランドであることは意識していましたし、これまでのミラノデザインウィークでの展示も拝見していて、いつかご一緒できればという思いは、1クリエイターとして持っていました。今回こうしてミラノでの展示に参加できたことを嬉しく思います。 

作品制作に先立ち、腕時計のダイヤルの工房を訪ねました。髪の毛1本分にも満たないような極薄の世界でありながら、多層で深く鮮明な奥行きがあり、小さな宇宙というべきダイヤルの世界に感銘を受けました。そんなダイヤルの世界が、現実の世界へと立ち上がり、その小宇宙の中に入り込んでしまえるようなインスタレーションの展開を構想しました。初期の検討段階で3カ月、さらに形状の試行錯誤に5カ月、完成までにあわせて約8カ月を費やしました。 

このインスタレーションでは、3Dプリンターの技術を用いて、まず3つの異なるタイプのオブジェクトを製作します。ひとつは曲線的な光、ふたつめは直線的な光、3つめは細かいリズムを刻むことにインスパイアされたもの。出力時間、ノズルのサイズや吐出量などを調整し、本来なら積層して固定することで形成される3Dプリンティングのオブジェクトが完全に接着されずに、積層部分がほどけるように設定しました。この調整にかなりの時間を要しました。 
そうして一旦出来上がった3種類のオブジェクトをほどき、線状になった酢酸セルロース樹脂の部材約600本を『光の脈』としてフレームの中に連ね、どこまでもレイヤーが続いていくような構成にすることで、光の移ろいを通じて『THE NATURE OF TIME』の世界を表現しました」

クリエイターへのインタビュー②川原隆邦氏 

川原隆邦(かわはら・たかくに) 1981年生まれ。伝統的和紙の材料栽培から原料処理までを一貫して手作業で行う職人。従来の和紙とは異なる素材を和紙化させるなど新しい和紙の技術と表現をするアーティスト。2016年第30回人間力大賞グランプリとなる内閣総理大臣奨励賞、経済産業大臣奨励賞を受賞。 2017年国際北陸工芸サミット「U-50 国際北陸工芸アワード」最優秀賞。 2018年パリ装飾美術館「ジャポニズム2018」参加。2025年日本国際博覧会迎賓館エントランスに8作品を創作。

続いて川原隆邦氏。和紙という伝統工芸に携わりつつも、そのクリエイティブなスタンスは他にあまり例を見ないものかもしれない。 
「もともと物づくりとの絡みはなかったのですが、たまたま20代の時に富山の蛭谷(びるだん)という和紙の産地と出会い、材料、栽培から一貫して和紙をつくられているのに感銘を受けました。当時80歳を過ぎ、一度和紙作りから引退されていたおじいさんから、種の撒き方、道具の使い方などの全てを教えてもらいました。 
最初の10年間は伝統工芸を残していきたいという思いで、シンプルな紙をつくっていましたが、ただ引き継いだものを残していくだけでいいのだろうかと。今までの伝統工芸をトレースしているだけでは衰退していく一方で、アップデートし続け、産地や技法にも捉われず、どんどん変えていかなくてはならない。もちろん残すことや、その役割を担う人も必要ですが、自分は皆がやっていないものを重点的にやっていって、確認していけばいいのかなと。その中で、様々なサイズのものであったり、薄いものであったり、いろいろな素材を混ぜたり、途中からオーダーでいろいろな紙を作るようになったり、どんどん自在型、フリースタイル化していきました」 

そのクリエイティブな立ち位置が、グランドセイコーの伝統性だけではないチャレンジングなスタンスと響き合った。 

「日本を代表するようなクリエイティブを実践しているグランドセイコーさんと、一緒に活動できるのはクラフトマンとして大きな喜びですね。特に繊細さ、緻密さという点に於いてシンパシーを感じていけるのかなと思いました。 
ダイヤルの工房を訪ね、最初の段階の素材を削って、色を着け、焼き付けてという工程を見せてもらったときに、ただ単に一発でラッカーで色を着けているわけではないですし、その表現方法を取り入れていくべきだなと。和紙そのものも、厚さ、薄さなどいろいろありますが、重ねて重ねていったら、どんどん厚くなって、後ろ側は見えなくなりかねませんが、薄いものを重ねることで出てくる奥行き感は、共通する部分を感じました。それを取り入れた新しい表現を、自分としても発信したい思いもありました。 

今回、『aurora』という没入型の作品と、やや具象的な『うつろい』という2作品を展示させていただきました。 
まず『aurora』ですが、1本が1.2×4mの和紙を25本、延べ100mになるものです。ヨーロッパの紙と和紙を比べると、薄さが圧倒的に違っていたり、繊維の長さも違いますし、これだけの大きさのものは、こちらではなかなか作れないのではないかと思います。和紙の中に入る経験というのはあまりないと思いますが、包まれるような感じとか、人が通ると光が歪んで見えたり、木漏れ日のような感じだったり、影が移っていったり、そんな光の遊びを体験できる形にしています。 

「うつろい」では、時計のダイヤルが薄さの中にも、すごい積層感が表現されているということで、作品中の白樺の樹皮を、和紙を重ね合わせるのではなく、漉く段階の途中でちょっとずつ乾かしたあと、また流し込んで、寄せながらレイヤー感をつくっていき、表現の新しさ、独特な見え方にも工夫をしました。 
自分の作品では、月を時間の移ろいのシンボルとして用いることがありますが、ギャラリーの外から見ても、アイコンになるようなアクセントも意識して、作品をつくらせてもらいました。

阿部伸吾(あべ・しんご) TVCM、CIデザイン、ミュージックビデオを主に、ディレクターとしての企画力と先鋭的なモーショングラフィックデザイナーとしてのスキルを組み合わせ、本質的かつミニマルな表現スタイルを持つ。同時に外部アーティストとの共同制作、インスタレーション、劇中映像など、メディアにとらわれない創作活動にも挑戦し続けている。

海外でも評価を高めるグランドセイコーの世界観

今回の展示について、現地イタリアのメディアでも評価の声が上がっている。例えば――。 

《ガレリア・イル・カステッロにて、グランドセイコーが自然、匠の技、そして美をめぐる体験の道筋を描き出す。ブレラ・デザイン・ディストリクトにおいて必見の存在となるこの空間に、3名のクリエイターによって創り上げられた、自然と美にまつわる概念が凝縮》 
――「Living Corriere della Sera」4/23発行 

《じっくりと向き合う価値のあるインスタレーション。繊細で輝きを放つ三人のアーティスト――進藤 篤、川原隆邦、阿部伸吾――の作品に触れられるだけでなく、ゆっくりと歩みを緩めるという贅沢なひとときを与えてくれる》 
――「AD」4/25発行 

日本ならではの美意識に立脚した「THE NATURE OF TIME」というグランドセイコーのフィロソフィー、そしてそれを具現化した世界観が、世界中の時計愛好家のみならず、アートやデザインに対する意識の高い人々までも魅了していく。今年の「ミラノデザインウィーク」に於ける展示は、それを力強く押し進める大きなステップと言って差し支えないだろう。 

グランドセイコー公式サイト

文/まつあみ靖