- 時計Begin TOP
- ニュース
- [編集長の工房レポート]いま世界の時計ファンの間で圧倒的な存在感を増す「グランドセイコー」機械式時計の聖地を訪ねて
2022.02.21
[編集長の工房レポート]いま世界の時計ファンの間で圧倒的な存在感を増す「グランドセイコー」機械式時計の聖地を訪ねて
2020年7月、岩手県雫石町にオープンした「グランドセイコースタジオ 雫石」(以下GSSS)。昨年末、雪舞う季節にお伺いする機会をいただきましたので、編集長がレポートします!
グランドセイコーは、日本国内での人気はもちろんですが、いま世界での評価がグンッと高まっています。
昨年末には新キャリバー9SA5を搭載した“白樺ダイヤル”モデル「SLGH005」がGPHG2021(ジュネーブ時計グランプリ。時計界のアカデミー賞ですね。)の「メンズ時計」部門を受賞したことも記憶に新しいでしょう。
このモデルのダイヤルがインスピレーションを得た地が、ここ雫石にほど近い平庭高原の白樺の美林なのです。
グランドセイコーのブランド哲学は「THE NATURE OF TIME」。自然の中に時の流れを感じる日本独特の美意識を表した言葉です。
まさに、そのフィロソフィを具現化した場所と言えるのがGSSS。
GSSSはグランドセイコーの機械式時計製造を長年担っている盛岡セイコー工業の中にあります。GSSSは世界観を体験できる場として、1月に完全予約制で一般公開をスタートしましたが、コロナ再拡大で現在は休止中。
※見学、予約が再開する際は以下にて発表があります。
https://gs-studio-shizukuishi.resv.jp/
まず訪れて感動したのは、存在感ある建築。隈 研吾氏による設計は、温もりある木を使いながら、ダイナミックな様式を取り入れ、大きく跳ね上げた屋根が私たちを受け入れてくれました。
晴れた日には、岩手山を望める場所に位置しています。
2階から望む雄大な岩手山。四季のうつろいを感じられる地で時計師たちはものづくりをしています。
今回、取材にご対応していただいたのはグランドセイコーのメカニカルモデル製造を担う盛岡セイコー工業の林義明社長。
1970年創業の盛岡セイコー工業は、ムーブメントに使用される微細なビスまで自社生産しています。その熱処理や、半導体製造技術を応用した超精密成型技術・MEMSの施設も持ち、ムーブメントの組み立てからケーシング、検査まで行っており、グランドセイコーを真のマニュファクチュールと言わしめる機械式時計の聖地です。
GSSSでは、グランドセイコーのメカニカルモデルの製造、組立、調整から検査、出荷までを行っています。
ちなみにグランドセイコーのスプリングドライブ及びクオーツモデルは信州・塩尻の「時の匠工房」で生み出されています。
グランドセイコーの世界観を発信する場としての役割も果たすGSSS。製造の場であり、匠のものづくり精神を学べるミュージアムであり、ショップやトライ&タッチのラウンジもあります。
2階のサロンにはスタジオ限定モデル「SBGH283」を展示。スタジオを取り巻く森の新緑をイメージしたグリーンダイヤルはここでしか買えない貴重なモデルです。
ローターにShizukuishi Limitedの文字が刻まれたここでしか買えない「SBGH283」。径40㎜。SSケース&ブレスレット。72万6000円。
グランドセイコーの世界観を学べる空間で、まずはお勉強です
入ってすぐにブランドの歴史を学べるショールームでは、貴重なアーカイブが展示されています。
国産初の腕時計「ローレル」からグランドセイコーのデザインの礎となった「44GS」まで、歴代の名作がずらりと並び、時計好き、グランドセイコー好きにとってはワクワクの空間です。
1913年、国産初の腕時計「ローレル」。
1967年に登場した44GS。直線と平面、光と影を表現した意匠は、その後のグランドセイコーに受け継がれている。
GSSSがある盛岡セイコー工業は、ビスの一つから組立作業まで自社製造しており、グランドセイコーはまさに“真のマニュファクチュール”と言えます。グランドセイコーの機械式ムーブメントを紹介するコーナーもあり、次世代ムーブメント「9SA5」をはじめ主力キャリバーを各パーツに分解した標本を見ることが出来、いかに複雑で小さな機構かが一目で分かります!
2020年、新たに開発された「9SA5」は3万6000振動/時のハイビートで80時間パワーリザーブ。構成するパーツの数は273個!
プロフェッショナル人材制度が匠の技を支え伝承されていく
GSSSの中枢部分にあるのが、広々とした「クリーンルーム」。ここでは組立、調整などの作業を行う。内装にはアカマツ、カラマツの集成材を使い、“梁”などの水平材を設けないことでホコリがたまらないよう工夫されています。
高い天井、そして光が差し込む明るい環境。工程ごとに横並びになった効率的なレイアウトで作業を行っています。
盛岡セイコー工業では、高度な技術を持つ技術者を「マイスター」として認定する制度があり、習熟度によって「ゴールドマイスター」「シルバーマイスター」「ブロンズマイスター」と分かれています。
GSSSには多くの「マイスター」が勤務しており、訪れた日もゴールドマイスターの作業をガラス越しに見学させていただきました。
マイスターは後進の育成も担い、匠の技が脈々と人から人へ受け継がれていくのもグランドセイコーの強みです。
組立・調整の行程は主に1~4の順で行われます。
1.ムーブメントのザラ組(ほとんどの部品を組み立てる)
2.ひげゼンマイの調整
3.精度調整
4.GS規格検定
※GS規格は、平均日差‐3.0~+5.0という高い精度基準を設ける。
4.の検定だけでも17日間を要し、その後、ダイヤルの針のセット、ケーシング、防水検査などを経て最後にバンドが取り付けられます。
一つ一つの工程が人の手と目を通して行われているのを間近で見ることができ、一本の時計作りへの“こだわり”と“想い”を感じました。
最後に。GSSSは、自然とものづくりの共生を目指しており、建物周りの森には希少種の保全管理をはじめ、鳥の巣箱づくりに取り組んだり、“虫のためのホテル” があったりと、時計の工房としてはとってもユニークです。
雫石の自然の中に建つGSSSを取材してグランドセイコーの「THE NATURE OF TIME」の意味を体感する取材となりました。
私自身も大好きなブランドの真髄に触れ、グランドセイコーが今、世界での存在感を増している理由を学び、そして日本人として、このようなブランドがあるということが、とても誇らしいなぁと感じました。グランドセイコーの皆様、貴重な取材をさせていただきありがとうございました!
工房で実際に使われるのと同じ作業台にて、時計師の気分で記念撮影。
グランドセイコースタジオ 雫石の特設Webサイト
撮影/若林武志 文/大野 陽(時計Begin)