2022.05.12

パテックフィリップ、ロレックス、エルメス、チューダーetc.トラベルタイムが充実の2021年新作

『時計ライター髙木教雄が解説！ 2022年新作時計レポート』Vol.3

髙木教雄（たかぎ・のりお）
1962年生まれ。1990年代半ばから時計を取材対象の1つとし、『時計Begin』をはじめとする時計専門誌やライフスタイル誌で執筆。

パンデミックは新たな局面を迎え、ジュネーブでの新作時計発表会Watches and Wonders Geneva 2022は、昨年のオンライン開催から対面での開催へと変更された。そこでは、まもなく訪れるであろう自由に海外外旅行が楽しめる日を待ちわびるかのように、マルチタイムゾーン機構を持つ良作が散見された。

パテックフィリップ
世界初の機構搭載のトラベルタイム

パテックフィリップは、12時間表示の時針を２つ持ち、一方をローカルタイムに合わせられるトラベルタイムと年次カレンダーという、いずれも得意とする機構を初めて組み合わせてみせた。古い写真機のボディをモチーフとしたというざらつきのある質感のダイヤル仕上げが、パテックフィリップでは実に新鮮。インデックスと針も、往年の航空時計を彷彿とさせ、レトロな印象である。そしてケースサイドの全周には、クル・ド・パリが彩る。

これまでボタン式だったトラベルタイム機構はリューズ操作に変更されたが、時針を前後に動かせる利便性の高さは、そのまま継承する。そしてローカルタイムに一方の時針を合わせる際に深夜０時をまたぐと、年次カレンダーのすべての表示が連動する世界初の機構を、パテックフィリップは開発した。これまで月の大小をメモリしていた日車に載せたイルカ型カムは一方向、すなわち進む方向にしか機能しない。そこで日車ではなく、それを動かす24時間車に長さが異なる２叉フォーク状の突起で日車を１日送るか、２日分送るかを決める設計とし、ローカルタイムを前後いずれに操作しても、カレンダーが連動できるようにしたのだ。実に巧妙な改良で、2つの実用的機構のマリアージュをかなえた。

ロレックス
リューズ＆リューズガードが左サイドに！

ロレックスが1955年に発表した、24時間目盛り入り２トーンの回転ベゼルを持つ「GMTマスター」は、1982年に「GMTマスター Ⅱ」へと進化を果たし、今日でもGMTウォッチの代名詞的存在である。その最新作のベゼルカラーは、このモデル初のグリーン×ブラックの組み合わせで登場。

しかも驚くことに、リューズとリューズガードを左サイドに備えた、新デザインのケースになっている。これは、まったくの予想外であった。日付表示も、３時位置からリューズと同じ９時位置へと移動。新色ベゼルと相まって、実に新鮮な外観が、GMTマスターⅡにもたらされた。

エルメス
「時を旅する」ロマンあふれる機構

©Joël Von Allmen

時間を素材とするエルメスは、時差を素材にトラベルタイム機構をドラマティックに表現した。ダイヤル外周に各タイムゾーンを代表する24の都市名リングを設置。９時位置のボタンを押すたびに、想像上の“乗馬の世界地図”の上に載るインダイヤルが隣の都市へと移動して、その地の時刻を示す仕掛けだ。インダイヤルは常に着用者に正対する設計が実に巧妙。

©Joël Von Allmen

ダイヤル上部の窓の数字は、ホームタイムを示す。モデル名にある「ルタンヴォヤジャー」とは、時を旅する者との意。インダイヤルが時間を刻みながら旅するロマンあふれる機構は、クロノード社率いる凄腕時計師ジャン=フランソワ・モジョンによってかなえられた。

チューダー
スノーフレークのGMT針

２トーン回転ベゼルのGMTウォッチは、チューダーの十八番でもある。ところが新作「ブラックベイプロ」では、プレーンなSS無垢製の“固定”ベゼルに、24時間インデックスを刻む、新たなスタイルを提示した。マットブラックのダイヤルに、GMT針のイエローが映える。その形状を時針と同じくスノーフレークとしているのが、心憎い。