2023.08.08

1960年代の優雅な時計作りをギュッと凝縮した カール F. ブヘラのヘリテージコレクション新作

レトロな風防ガラスと優雅なミラネーゼブレス

「ヘリテージ クロノメーター セレブレーション」。自動巻き。径39㎜。SSケース&スレスレット。88本限定。99万円。

カール F. ブヘラは、多くのスイス時計ブランドと異なり、その母体となっているのは欧州で名高い高級時計宝飾店である。創業者のカール・フリードリッヒ・ブヘラが、1888年にスイス・ルツェルンで開業した時計店がブランドの原点。現在も、同家3代目のヨルグ・G・ブヘラ氏が家族経営を守る数少ない独立時計メーカーの一つだ。

時計ブランド「カール F. ブヘラ」の名を一躍有名にしたのは、2008年のバーゼルワールドで発表したペリフェラルローターの自社製ムーブメントだ。ムーブメントの「外周」で回るローターは、自動巻きにして手巻きのよう。美しいムーブメントをローターに邪魔されることなく観賞することができるペリフェラル式が、同社の代名詞になった。

「ヘリテージ クロノメーター セレブレーション」の18KRGケース&ブレスレットバージョン。ダイヤルはブラウンのグラデーション。88本限定。335万5000円。

そんなペリフェラルの最新技術とは対極にあるレトロクラシックな時計が「ヘリテージ」コレクションだ。2018年、カール F. ブヘラは創業130周年を迎えたのを機に、メゾンの歴史を見つめ直し、アーカイブを精査。そこで生まれたのが「ヘリテージ」コレクションである。その代表作が「ヘリテージ バイコンパックス アニュアル」。1956年製の2つ目クロノグラフをモチーフとした多機能モデルは、大きなセールスを記録した。

こちらはオリジナルの仕様に最も近い、18KRGケース&ブレスレットのシルバーダイヤル仕様。88本限定。355万5000円。

今回紹介する最新のヘリテージ・コレクション「ヘリテージ クロノメーター セレブレーション」は、1960年代のエレガントな3針モデルがモチーフになっている。非常に薄いベゼルの上品なラウンドケースを持ちながら、時分針は力強くインデックスは立体的。赤い先端の秒針や、デイト表示のデザインなどもオリジナルを忠実に再現している。

1960年代製造のオリジナルモデル。赤い先端の秒針は、復刻版よりいくぶん短い。

またミラネーゼブレスレットの作りも非常に丁寧だ。通常、このタイプのブレスレットはケースとの接合部は一直線になっていて、ラグとラグの間に隙間があくことは避けられない。しかし、カール F. ブヘラのミラネーゼブレスレットは、カーブするケースにピタッと合わさるようにデザインされている。コマ数の少ないブレスレットであれば隙間を埋める方法はいくらでもあるが、繊細なミラネーゼブレスレットの構造で、これを実現するのはかなり難易度が高い。しかしよく見ると、1960年代のオリジナルモデルも、同タイプのミラネーゼを採用しており、この点も忠実に再現したこだわりのディテールであることが分かる。

SSケース&ブレスレットのシルバーダイヤル仕様。88本限定。99万円。

忠実なのは、外装だけではない。中に搭載するムーブメント「CFB1965.1キャリバー」も、オリジナルモデル同様にCOSC認定のクロノメーターを取得している。文字盤6時位置に入る「OFFICIALLY CERTIFIED CHRONOMETER」の書体も、ほとんど同じ。

ケースバッグにはブヘラ家の紋章と創業年、シリアルナンバーなどが入る。

ダイヤル上で大きな違いがあるとすれば、オリジナルではロゴの上にあったブヘラ家の紋章(ルツェルンを象徴する白鳥とブヘラ家を示すブナの木)が、ケースバックに移され、大きく刻まれていること。またゴールドケースの他に、復刻版ではSSケースも用意され、ダイヤルカラーもゴールドケースで2種(シルバー、ブラウングラデーション)、SSで2種(ブラック、シルバー)がラインナップしている。

時計店として現場の「声」を知り尽くしているカール F. ブヘラ。顧客の声を汲み取りながら真摯に時計製作に向き合う姿勢が、多くの時計愛好家を魅了している。

お問い合わせ:カール F. ブヘラ公式サイト

文・構成/市塚忠義