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2024.04.04
あまり知られていないけど…「裏ジマン時計」vol.2 文字盤、ダイバーズケース編
ブランド的にはあんまりアピールしていないけど、時計好きにはたまらない通ネタを大発掘!
苦労して手に入れた時計であれば、コトあるごとに誰かに自慢したいもの。ただし昨今は時計メディアも増えて、ほとんどの自慢ポイントが知れ渡っている。とはいえ本格時計の世界は奥が深いもの。「え? こんな自慢ポイント、マジ?」というツウ受けするディテールやエピソードを持つ逸品がまだまだ隠れているのだ。近い将来脚光浴びるに違いない、そんな裏ジマンしたくなる時計を厳選してご紹介。
●文字盤裏ジマン編
時計の顔とも言える文字盤。普段、なんの気ナシに眺めているものだが、じつはブランドの智恵と労力が注ぎ込まれた重要パーツなのだ。その顔の中でも各ブランドがエステしまくった!? “美肌”文字盤のヒミツを知れば、絶対にジマンしたくなる!
4.セイコーの裏ジマン ワード
「トノー型の琺瑯って作るのが大変で歩留まりが悪いらしい♡」
名工をもってしても完璧に焼き上げるのは至難!
手だれの名工でも陶器などの焼き物は、窯から出してみないとその成否が分からないもの。陶芸家が失敗作をトンカチで叩き割っている映像を見たことがある方も多いのでは? その難しさは明白である。焼成工程を要する琺瑯文字盤も一種の焼き物といえるものであり、天気や湿度・気温でその焼き上がりは変わるという。丸型に比べ変形文字盤、なかでもトノー型は均一な厚みを出すのが難しいとされる形状。レシピ通りになかなか仕上がらないのだそう。また、三針モデルよりも多針モデルはダイヤルの高低差があるため、こちらも均一に焼き上げるには技術や経験がマストとか。トノー型や多針モデルのほうが貴重と言うことができるのかも?
セイコーのすべての琺瑯文字盤に携わる横澤 満さんは、日本でも数少ない琺瑯職人の名匠。その道40年以上の経験を持ち、琺瑯塗布面の厚さ、わずか0.01mm刻みの仕上がり違いを見抜く眼力を備えている。
琺瑯は焼き物製品。液体状のガラスおよび琺瑯釉薬を、ベースとなる盤面に塗布して作る。各成分の比率を微妙に変えることで仕上りも変化する。ここの勘所も職人技のひとつ。
釉薬を塗った文字盤を乾燥させたら次は焼成工程。その日の気候や天候に合わせて炉の音度を調整して焼き上げる。微調整なしに琺瑯独特のエレガントで柔和な美観は出ないのだ。
焼き上げ後は全品を検査。狙い通りの色調が表現されているか、規定内の厚さに仕上っているか等を厳しくチェック。丸型は失敗も少ないが、変形文字盤はムラが出やすいという。
<こちらは王道の丸型琺瑯文字盤>
美肌をトコトン楽しむならシンプルな丸型も良し!
製造の難しさという点では、変形文字盤に軍配が上がるものの、美肌時計という観点では丸型モデルに遜色はない。むしろ陶器のごとき美白っぷりを純粋に楽しむのであれば、柔和でシンプルな丸型三針が王道なのだ。
お問い合わせ:セイコー公式サイト
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5.クロノスイスの裏ジマンワード
「このギョーシェ、90年前の機械を使って彫っているんだって」
熟練職人による旋盤彫り込みだから味わいも段違い
フランスの某高級鞄ブランドが職人を大事にするのは、手仕事こそ究極のラグジュアリーと考えているからとか。工業製品が増えている昨今だからこそ、なおさら手仕事の温もりが心に沁みるのだ。そういう意味でクロノスイスがこだわるハンドギョーシェは、ラグジュアリーの精神に通じるもの。文字盤の紋様作りも近年は工業的なスタンプ仕上げが多い。しかしデルフィス サファイアの文字盤は1930年代のデッドストック手動旋盤機にてゆっくり丁寧にギョーシェを刻んで作りだすという。しかもこの一本は、湾曲面のみならずスモールセコンドにも精緻なギョーシェを刻んだ、非常に高い職人技を要するもの。画一的なスタンプ式やオートメーションのギョーシェとは異なる深イイ味わいがあるのだ。
デッドストックで見つけたという1930年代製、つまり約90年前の手動旋盤。クロノスイスではハンドギョーシェにこだわっており、この旋盤は三代目となる機械なのだそう。
旋盤を確実に操作するには当然ながら技術が必要。伝統的ギョーシェは0.2mmという極細線の集積。約0.1mmの深さの連続紋様をミスなく彫り込むには、熟練の職人が不可欠。
クロノスイスのギョーシェ作業もまたルツェルンの自社アトリエにて行われる。この画像はまさにデルフィス文字盤の彫り込みシーン。量産は難しく、一日に30枚ほどの生産が限界。
お問い合わせ:クロノスイス公式サイト
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●ダイバーズケース裏ジマン編
心臓とも言えるムーブメントを守るのはケースの役目。なかでも水中でハードな作業をこなすプロ用ダイバーズに関しては、それぞれのノウハウを込めたスーパーメタルの開発が鍵となる。
6.オメガ、ジンの裏ジマンワード
「このダイバーズのケースって深海を通り越して、もはや神界(しんかい)なんだよ」
圧倒的な信頼性は特殊開発によるタフ・メタルがあればこそ
ステンレスケースの話をすると「316Lだ904Lだ」と語るツウもいるが、深海(神界)においてはヒヨッコかもしれない。なにしろ地上では考えられない水圧が襲い掛かるだけでなく、長時間の塩水漬けにも耐える必要があるからだ。そこでスイスの雄、オメガでは6000mの水深にも耐える「O-MEGAスチール」を5年の歳月を掛けて開発。対してドイツのジンでは耐圧・耐磁性を持ち、実際の潜水艦の外殻にも用いられる「Uボート・スチール」を採用する。強いからこそ信頼できる=誰にも負けないジマン時計となるのである。
【オメガ シーマスター プラネットオーシャン 6000M】オメガが手掛けるダイバーズシリーズ、プラネットオーシャン。なかでもこの一本は実際の潜水艦の外部アームに取り付けられ、マリアナ海溝の水深1万928mまで潜り動作し続けたという世界記録級のモデル。耐圧に優れたO-MEGAスチールをケースに用い、特殊チタンのパーツ、そしてリキッドメタルにて封をすることで万全の潜水性能を持つ。自動巻き。SSケース。径45.5mm。600気圧防水。パワーリザーブ約60時間。200万2000円。
オメガが開発したO-MEGAスチールは、通常のステンレスよりも40〜50%ほど高い硬度を持つ。しかも可塑性に優れ、頑強にして複雑なケース形状を作り出すことも可能だ。
<「O-MEGAスチール」とは>
オメガが本格潜水時計に用いるメタル素材として、5年を掛け開発したO-MEGAスチール。水圧約6tにも耐える強度を持つのがポイント。クリーンな白色で通常のステンレスよりも光沢が長続きする。そして耐蝕性にも優れ長期にわたり美観をキープする特殊スチール合金だ。
お問い合わせ:オメガ公式サイト
【ジン U50】ドイツの実力派、ジンが打ち出す「Uシリーズ」は、最新鋭潜水艦であるUボートに用いられるUボート・スチールを採用した本格ダイバーズ。耐圧に始まり高い海水耐性や非磁性の素材、そしてベゼルあるいはケースにジン独自の硬化処理まで施しており、非常にタフ。また、船級認証機関であるDNVの検定を、唯一時計ブランドとして受けており、万全の50気圧(500m)防水を誇る。径41mm。Uボート・スチールケース。50気圧防水。パワーリザーブ約42時間。左からU50.SDR 58万3000円、U50.S 66万7700円、U50 55万2200円。
ドイツを代表する潜水艦であるUボート。ジンでは実際に潜水艦等に使われる、海水や水圧などに耐える特殊スチールを採用。そしてそのケースはドイツ著名ブランドの時計ケースを手掛けるSUG社が製作。
<「Uボート・スチール」とは>
ジンが手掛けるダイバーズの「Uシリーズ」に使用するUボート・スチール。ドイツの潜水艦メーカーであるティッセンクルップが、独海軍の212クラス非原子力潜水艦の外殻のために開発した特殊鋼。海水耐性に優れるだけでなく非磁性、ヒビ割れ耐性も獲得している。
お問い合わせ:ジン公式サイト
文/長谷川 剛(TRS)