2024.11.07

チューダーの新作ペラゴスに2つの「初」

フランス海軍の要請で誕生した「海」と「空」のスペシャリスト

「ペラゴス FXD GMT」。M2542G247NU-0002。自動巻き。径42㎜。チタニウムケース(ベゼルにブラックセラミックのインサート)。グリーンファブリックストラップ。200m防水。約65時間のパワーリザーブ。65万1200円。

チューダーから新作ダイバーズ「ペラゴス FXD GMT」が発表された。この時計の詳細を知る前に、チューダーのダイバーズウォッチのラインアップやペラゴスの由来、そしてフランス海軍との関わりの歴史を整理してみたい。

まずは、チューダーのダイバーズウォッチについて。チューダー製品のラインナップはスポーツウォッチが中心となっているが、そのうちダイバーズ認定となるのが「ブラックベイ」コレクションと「ペラゴス」コレクションである。

「ペラゴス」の意味は、ギリシャ語で「海」。よりプロフェッショナルなダイバーズウォッチという位置付けで、2022年のジュネーブ時計グランプリにおいてダイバーズウォッチ賞を獲得していることからも、その実力の高さは証明されている。

現行コレクションは「ペラゴス」、「ペラゴス 39」、「ペラゴス FXD」の3つで構成。今回の新作は、「ペラゴス FXD」に新たに加わったモデルである。FXDとは「Fixed=固定」のことで、この時計の特徴であるケース形状を示している。通常、時計はラグの間に「バネ棒」と呼ばれる伸縮するパーツが挟まっており、ここにストラップやブレスレットを通すことで、ケースとベルトを繋いでいる。

外れることは、まず考えにくいが「バネ式」である以上、強い衝撃が加われば曲がったり外れたりする事もありえる。しかし、「ペラゴス FXD」には、この「バネ棒」が、ない。つまり2本のラグは固定されたバーで一体化されているのだ。

こうしたタフな作りは、かつての海軍からのリクエストを継承するもの。チューダーのダイバーズウォッチは1950年代半ばにはアメリカ海軍によって高い評価を受けており、1958年には制式に採用されているほか、フランス海軍とも密接な関係を築いてきた。

1961年にフランス海軍の制式サプライヤーになって以降、数十年にわたって堅牢な時計を作り続けてきた。現行モデルの「ペラゴス FXD」は、フランス海軍の戦闘ダイバー部隊「コマンドー・ユベール」の協力によって、2021年に誕生したモデルである。

かつて軍用モデルの時代には、ケースバックに“M.N.”(MARINE NATIONALE=フランス海軍)と製造年の刻印が入っている個体が数多くあった。それに倣って、新作のケースバックにも「M.N.24(数字は販売年に応じている)」と刻印が入る。

海軍とのエピソードを聞いただけでも、欲しくなる要素としては十分なのだが、今回の最新作の最大の特徴は、この「ペラゴス FXD」に2つの「初」が加わったこと。ひとつはペラゴス初のGMT機能。そしてペラゴス初のマスター  クロノメーター認定である。

一見すると、ダイバーズウォッチとGMTウォッチは、別物。しかし、今回の「ペラゴス FXD GMT」は、海軍航空作戦を担うフランス海軍航空隊(Aéronautique Navale)の要求に応じて誕生。つまり「海」と「空」のスペシャリスト、両者の要望に応えるべく、タフなダイバーズウォッチにGMT機能が加わったのである。

「ペラゴス FXD GMT」は、軍事用語でズールー時間と呼ばれている協定世界時間 (UTC)を含んだ、最大3つのタイムゾーンを同時に計測することができる。ズールー時間とは、国やタイムゾーンの伝達において混乱を避けるため、あらゆる航空業界の基準になっている時間。経度0度に位置する子午線時間のことで、一般的に知られるグリニッジ標準時(GMT)に相当する。

そして「ペラゴス FXD GMT」が搭載するマニュファクチュールキャリバーMT5652-Uは、ペラゴス初のマスター クロノメーター仕様。スイス公認クロノメーター認定を取得する上に、さらに厳しい条件で知られるMETASの試験もパスしている。

こうした「ホンモノ」の仕様をさらに盛り上げるのが、スノーフレーク針や、トライアングルタイプのアワーマーカーといった往年の名作を思わせるディテール。また装着されているストラップのカラーは、フランス海軍航空隊の飛行士が着用するフライトスーツをイメージしたものだ。

チューダーのファンであれば、このファブリックストラップがフランスで150年以上家族経営を続ける老舗ジュリアン・ フォール社製であることは、お分かりだろう。1864年創業のジュリアン・フォール社は長きにわたり、 フランス海軍の水兵帽bâchi(バシ)の縁につける装飾リボンを手掛けてきた。偶然なのかもしれないが、長い歴史を刻んできた両者だからこそ巡り会えた、奇跡のコラボレーションと言えるだろう。

問い合わせ/チューダー公式サイト

文・構成/市塚忠義