時計デザインは 個性が強くってなんぼです！／「グラハム」オーナー、エリック・ロト氏激白！

エリック・ロト氏：グラハム創業者・役員
1958年、スイス生まれ。もともとエンジニアとして時計業界に入り、イギリスの文化や歴史好きが高じて1995年にグラハム社を設立。オーナーとしての激務をこなしながら、現在もグラハムの主要モデルのデザインや製作の陣頭指揮を執っている。趣味はモータースポーツ。

クロノグラフの父と呼ばれる、17世紀から18世紀にかけて活躍した天才イギリス人時計師の名を冠して1995年に創業。彼に因んだクロノグラフ中心のラインナップで、快進撃を続けてきた「グラハム」。その創業者にしてオーナーであるエリック・ロト氏に、主軸の「クロノファイター」コレクションに対する熱い思い、そして今後の展望について取材した。

万人受けする時計は、他社さんにお任せしています

時計ビギン（以下ＴＢ）／今年（2017年）出した「クロノファイター ヴィンテージ ノーズアート」が、とても好調のようですね。
エリック・ロト氏（以下ロト氏）／おかげさまで。世界中の時計ファンから高評価を得られました。日本では、色によっては完売も出ているようですね。嬉しいことです。
ＴＢ／2016年に、クロノファイター誕生15周年記念として登場した「クロノファイター ヴィンテージ」をベースとしつつ、色っぽくもポップなピンナップガールのイラストが抜群にマッチしていました。
ロト氏／ノーズアートは、もともと軍用機の機首に描かれたもの。パイロットたちが無事帰還するための一種のラッキーチャーム（お守り）だったんですね。アメリカ軍のパイロットたちが始め、後にイギリスやドイツ、イタリア軍にも広まったようです。ご存じのようにクロノファイターは、イギリス軍パイロットのために開発された軍用クロノグラフをもとにしていますから、こうしたノーズアートが似合うんでしょう。

ロト氏の腕には、お気に入りの「クロノファイター ヴィンテージ ノーズアート」が。

ＴＢ／ある意味パンクと言いますか、じつにグラハムらしい遊び心だと思いました。
ロト氏／私どものモットーは「NOT EVERYBODY’S WATCH」。つまり、万人受けするような時計を作る気はサラサラないんです。一部のツウにだけわかっていただければいい。だからこうした思い切ったデザインもできる。
ＴＢ／そもそもクロノファイター自体、それまでのクロノグラフの概念から大きく逸脱する唯一無二のデザインですもんね。
ロト氏／最初は、こんな時計は絶対に売れないと笑われました（笑）。ケース左側にあるクロノグラフ操作用の大型トリガーも、袖口で邪魔だとさんざん叩かれた。でも、気がついたら熱狂的なファンを獲得し、ちゃんとグラハムの看板ラインに育ってくれました。
ＴＢ／こういう攻めたデザインのコレクションを核としているなんて、他の時計ブランドではちょっと考えられないかもしれませんね。
ロト氏／大きなグループ企業は、売り上げを過剰に意識しすぎて、どうしても守りに入ってしまうんです。その点うちは独立したファミリー企業ですから、個性的な時計を求める一部のエンドユーザーと向き合える。ただこういうユニークなデザインですから、すぐ爆発的に売れることはないと覚悟していました。売れなくとも、とにかく毎年しつこくやり続けることが大事なんだと考えて。
ロト氏／私たちがカーボンを初めて手がけたのは、2005年の「シルバーストーン」。その頃はベゼルのみでしたが、この「クロノファイター スーパーライト 」はオールカーボン製。しかもカーボンの製造に関しては、トリガー部分はアイスホッケーのスティックを作っているメーカーから、ベゼルはクルマのバンパーを作っているメーカーから、ケースバックは医療用器具を作っているメーカーからといった具合に、６つのサプライヤーに作ってもらっています。これは、それぞれ得意とするカーボンの種類が違うため。結果、100gをきる驚異的な軽さを実現しています。１つのサプライヤーに全てを任せていたら、この軽さにはなりません。

オールカーボン製のクロノファイター スーパーライトを手にするロト氏。

クリスマス限定として、サンタ衣装のピンナップガールが！

ＴＢ／そうしたオールカーボン仕様のモデルでモダンな魅力をアピールする一方、往年のミリタリーやアビエーションウォッチを彷彿とさせるヴィンテージコレクションがあるのが、クロノファイターの面白いところですね。
ロト氏／ベースのデザインは同じなのに、雰囲気がガラリと変わりますよね。ちなみに“モダン”と“ヴィンテージ”は、グラハムのデザインの二本柱。クロノファイターは、そのどっちも受けとめてしまうコレクションだと自負しています。
ＴＢ／「クロノファイター ヴィンテージ」のほうでは、クリスマス限定スペシャルコレクションとして、最近新しいノーズアートシリーズがリリースされましたね。しかも世界限定25本という極小ロット！　限定モデルでありながら72万5000円と、レギュラーモデルとほぼ変わらない値段というのも、すごいですね。
ロト氏／スペシャルモデルは100万円を超えるのが当たり前、というのが最近の時計界の風潮ですが、私たちは本当の時計ファンのためにそれをしたくないんですよ。ちなみにヴィンテージ＝クラシックと誤解している人も多いようですが、ヴィンテージには「その時にしか手に入れることができない希少品」という意味もあります。だからこういう限定は「クロノファイター ヴィンテージ」にとても相応しいものと考えます。利益を度外視しても、今後も茶目っ気のあるモデルを度々発表したいですね。
ＴＢ／期待しています。本日はどうもありがとうございました。
写真／谷口岳史　文／吉田 巌

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