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2018.08.17
【英国発はこんなにスゴイ!】シリンダー脱進機
シリンダー脱進機
トーマス・トンピオンによるシリンダー脱進機が登場
それまで一般的だった冠型(バージ)脱進機にくらべ、圧倒的にコンパクトかつ高性能な「シリンダー脱進機」。この画期的機構は、英国人時計師の師弟によって完成を見た。
より近代的で精度も高い小型脱進機
14〜18世紀頃の機械式時計では、そのムーブメント中枢部が、現在のように円形テンプ、アンクル、ガンギ車で構成されるのではなく、棒状のテンプに“バージ”と呼ばれる冠型の歯車が噛み合うことで調速・脱進を行っていた。これに対し、円形テンプ、ガンギ車、シリンダーを備え、より現行のスタイルに近い「シリンダー脱進機」を発明したのがトーマス・トンピオンだ。
新たなシリンダー式の脱進機は、12枚の歯をもつガンギ車が、テンプの軸に配したシリンダーの回転運動により、ストップ&ゴーを繰り返しながら一定速度で回転し続ける仕組みとなる。それ以前のバージ式よりも安定した精度と携帯可能なコンパクトさを実現し、のちにアンクル式脱進機が登場するまでのスタンダードとなった。この脱進システムは、1695年にトンピオンによって発案され、弟子のジョージ・グラハムが1720年頃に完成。どちらも後世に名を残す、2人の英国人時計師の連携が生んだ賜物といえよう。
発案した英国人はこの人
マニュファクチュールを先駆けた"英国時計産業の父"
シリンダー脱進機の前に、親交のあったロバート・フックの助言を得て、ひげゼンマイ付きの円形テンプを発明したトンピオン。他にも1年巻きの時計や旅行用の携帯時計なども開発した。また、彼の工房ではパーツごとに分業制を敷いて、良質な製品を効率よく生産するマニュファクチュール体制を確立。これにより生涯で6000個以上の時計を製作したことから、英国時計産業の父と呼ばれている。
[時計Begin 2018 SUMMERの記事を再構成]
文/岡崎隆奈 イラスト/WADE LTD