2018.08.28

【英国発はこんなにスゴイ!】マリンクロノメーター

マリンクロノメーター

ジョン・ハリソンが高精度クロノメーターを完成

大航海時代から現在まで、船舶の安全な航海に欠かせない「マリンクロノメーター」。ある無名の英国人時計師がその開発に挑み、生涯をかけてついに完成へといたる。

ハリソンが1761年に完成させた「H4」。気温変化に対応するバイメタルテンプの携帯型マリンクロノメーターで、激しく揺れる船内でも高精度を維持する。

 

日差0.06秒の超高精度航海用時計

大航海時代が到来した欧州各国では、15世紀より海上での船舶追突・遭難事故が多発していた。この状況を重く見た英国議会は「経度法」を制定し、海上における経度を正確に測定する方法を生み出した者に賞金の授与を約束。これに応じたうちの1人が、当時は無名の時計師ジョン・ハリソンだった。

ハリソンはジョージ・グラハムらのもとを訪れて資金援助を仰ぎ、1728年から7年を費やしてハリソン型初号機「H1」を完成。高さ63㎝、幅70㎝のこの大型時計は、高精度だったが、平均日差2秒の厳格な基準はクリアできなかった。

続く’39年により小型の「H2」、’57年には「H3」、そして’61年、30年以上の試行錯誤の末に、直径13㎝の携帯型「H4」が完成。その後の航海実験では、81日間の誤差がわずか5.1秒という驚異的精度を発揮した。さらに、ジェームズ・クックの航海でもその複製品が高精度を証明。ハリソンの名は欧州中に知れ渡り、英国時計が飛躍する礎を築いたのである。

 

発案した英国人はこの人

英国時計を世界のトップに導いた努力と執念の時計師

ジョン・ハリソン(John Harrison)

大工職人の息子として生まれ、独力で物理学や機械工学を学び、大工仕事の合間に製作した時計が評判を呼ぶ。1720年代には、のちに「H1」でも採用された、摩擦や振動に強い「グラスホッパー脱進機」を発明している。’30年にロンドンに向かい、マリンクロノメーターの開発に着手。約30年かけて「H1」から「H4」を完成させる。庶民の時計師ゆえ、なかなか賞金を与えられず、80歳でようやく授与された。

 

[時計Begin 2018 SUMMERの記事を再構成]
文/岡崎隆奈 イラスト/WADE LTD