2019.09.19

【受け継ぐ時計】ベル&ロス 共同創業者ブルーノ・ベラミッシュが語るクリエーションの秘密

 

スペース1、J12マリン、BR03、そしてカシオとリップ

アビエーション、プロフェッショナル志向、機能性、シンプルな力強さ、そしてブラック。1994年の創業以来、ベル&ロスはブレることなく、こうしたメッセージを発信し続けてきた。そのルーツはどこにあるのか?クリエーションの柱であるブルーノ・ベラミッシュ氏が“受け継ぐ時計”を語る。

Bruno Belamich(ブルーノ・ベラミッシュ)
ベル&ロス 共同創業者、クリエイティブディレクター。1965年フランス・ブルゴーニュ地方のジョワニー出身。大学入学のためのパリの予備学校で過ごした3ヵ月の間に、カルロス・ロシロ氏と知り合い、意気投合。投資銀行で働いていたカルロス氏を誘い、1994年ベル&ロスを設立し、デザイン部門を担当。2005年に発表したスクエアケースの「BR 01」がブランドの顔となるヒット作に。2013年、レジオン・ドヌール勲章を受章。

 

ブルーノ氏のファーストウォッチ
少年時代のブルーノ氏が初めて手にした腕時計カシオ「F-100」。1/100秒計測クロノやアラーム機能付き。日本国内では1978年に"黒のクオーツ"を謳い文句に、7500円で発売。現在、ブルーノ氏の手元にはないが、黒い角型ウォッチ志向の萌芽を感じさせる。(写真提供/カシオ計算機)

 

亡き先人たちとの関係性を象徴するブラックモデル

自分にとって大切な3本の時計を紹介させてください。まず時計デザイナーとしてのキャリアのスタートと言うべきモデル、「スペース1」です。

ベル&ロスというブランドのスタートは、ジン社なくしては語れません。パリ・デザイン大学(ENSCI)を卒業する際、デザインプロジェクトのインターン先として、憧れを抱いていたジン社を選び、そこで創業者のヘルムート・ジンさんと出会いました。ジン社では、既存コレクションをチューンナップし、全体の統一を図る仕事に携わりましたが、そこで「スペース1」を目にした瞬間、一目惚れしてしまったんです。まずフォルムに惹かれましたし、「レマニアCal.5100」というキャリバーにも魅力を感じました。

黒い時計という点も重要でした。反射を抑え、視認性を高めたブラック仕上げは、プロフェッショナルの計器としても洗練され、差し色の赤と白も効果的。普遍的な完成度の高さでした。

1992年からベル&ロス設立のための準備をはじめ、この時計をフランス国内で流通させようと考えました。“BELL & ROSS by SINN”というロゴを入れるために、文字盤全体をリデザインし、タイポグラフィーも一新。ブレスレットも変更しました。まさにベル&ロスの初期を象徴するモデルと言えるでしょう。当時、建築家やデザイナーといった感度の高い顧客が高く評価してくれたのが嬉しかったですね。このモデルをはじめ“BELL & ROSS by SINN”として、フランス国内向けにジンのオリジナルをベースに、少しシンプル化したコレクションを発表しました。ヘルムート・ジンさんからは「自分たちのコレクションを再発見したよ」という言葉を頂きました。

その大恩人、ヘルムート・ジンさんは、昨年2月に帰らぬ人となりました。享年101歳。悲しみや喪失感はもちろんありますが、充実した人生を全うされたのではないかと思っています。

 

「ジン氏は『コレクションを再発見した』と言ってくれました」

BELL & ROSS by SINN
スペース1

ジン社のオリジナルモデルをベースに、 BELL&ROSS by SINNとして1994年に発売されたモデル。センターの同軸上に秒積算針と分積算針を備えたレマニアCal.5100を搭載。PVDやセラミックの技術はまだ開発途上で、塗装によるブラック仕上げだった。

 

2つめはシャネルの「J12マリン」。1997年からシャネルとは資本提携関係にあります。クリエーションに対する理解や愛情に基づく、長期的で強力な理想的パートナーシップと言えます。伝統やラグジュアリーに対する考え方も、フランス人同士、近いものがあります。「J12マリン」は、この関係性を象徴するモデルです。シャネルのアーティスティック・ディレクターで「J12」を創り上げたジャック・エリュさんが2007年に亡くなり、次の時代までの移行期に、シャネルからこの時計のデザインを依頼されました。ジャックさんは先見性があり、ブランドのストーリーを形にまとめ上げることに長けている方でした。

デザイナーの仕事とは、今までのものとの一貫性を保ちながら、新しいものを生み出すこと。それを大切にしながらデザインしたことを覚えています。

 

意外にも普段、腕時計を身に着けない。「常に今デザインしているモデルを着けたい衝動に駆られる。でも、それは完成していないから無理なんです(笑)」。結果、時刻はもっぱらiPhoneで。

 

幼少期から育まれたブラックウォッチへの憧憬

素晴らしい先輩方の仕事にインスパイアされながら、一目でベル&ロスだとわかるアイコニックなモデルの必要性も感じていました。そして2005年に誕生したのがスクエアケースの「BR01」です。当初からアビエーションウォッチを手がけてきたブランドの歴史を踏まえ、機能的でプロフェッショナルな時計を求め、紆余曲折の末、航空機のダッシュボードの計器を時計に導入するアイデアに辿り着きました。「スペース1」が20年経っても普遍的なデザイン性を感じさせるように、この時計もそうであることを願っています。今年の新作「BR03-92ダイバー ブラック マット」にも、その精神が受け継がれています。

この3モデルに共通しているのは、スポーティさと、デザインの強さ、そしてブラックという色使いです。ブラックという色は、プロフェッショナルな計器に必要な要素であり、デザインにインパクトを与えることもできます。

実は私が最初に手にした時計は、カシオの角型のデジタルウォッチでした。色はブラック。そして、高校生のとき、誕生日に両親からプレゼントされたリップの時計もブラックでした。この時計は、母が父に贈ったもので、父から手渡されたんです。当時ロジェ・タロン氏が率いていたリップには、IWCが製造を請け負ったポルシェデザインや、ジウジアーロがデザインしたセイコーと並んで、最先端のイメージがありました。だから身に着けるのが誇らしかったですね。これらの時計から、何らかの影響を受けているのかもしれません。ブラック、そしてミニマルで強いデザイン。

14歳と12歳の息子に時計を渡すときがきたら、やはりベル&ロスのブラックの時計でしょうか。スクエアかラウンドかは、本人たちに選ばせたいと思います。それまでに、まずは学校の勉強を頑張ってもらわないとね(笑)。

BELL & ROSS
BR 03‐92 ダイバー ブラック マット
アイコン的要素を引き受けて

ブラックで角型という、アイコニックな要素を備えた新作ダイバーズ。自動巻き。ケース42×42㎜。マットブラックセラミックケース。ラバーストラップ。300m防水。49万円。お問い合わせ先:ベル&ロス ジャパン

ブルーノ氏によるJ12マリン
ブルーノ氏デザインの「J12マリン」。2010年発表。「『J12』初のダイバーズモデルで、スポーティで、マスキュリンな男性に向けた時計という位置づけでした。私からは、ブルーのセラミックベゼルを提案しました。これもブラックケースで、プロダイバーを意識しました」(現在は販売終了)。

リップの自動巻きウォッチ
高校時代、誕生日に父親から贈られたモデル。母親から父親へのプレゼントだったそうだ。自動巻きで、ラグのないラウンドケースは径が40㎜弱あったような記憶があるそうだが、現在実機は手元にはない。ブラックウォッチ、そしてシンプルで強いデザインに対する思いに拍車をかけたことを窺わせる。(写真提供/DKSHジャパン)

<strong>BELL & ROSS<br />BR 03‐92 ダイバー ブラック マット<br />アイコン的要素を引き受けて</strong><br />ブラックで角型という、アイコニックな要素を備えた新作ダイバーズ。自動巻き。ケース42×42㎜。マットブラックセラミックケース。ラバーストラップ。300m防水。49万円。お問い合わせ先:ベル&ロス ジャパン
<strong>ブルーノ氏によるJ12マリン</strong><br />ブルーノ氏デザインの「J12マリン」。2010年発表。「『J12』初のダイバーズモデルで、スポーティで、マスキュリンな男性に向けた時計という位置づけでした。私からは、ブルーのセラミックベゼルを提案しました。これもブラックケースで、プロダイバーを意識しました」(現在は販売終了)。
<strong>リップの自動巻きウォッチ</strong><br />高校時代、誕生日に父親から贈られたモデル。母親から父親へのプレゼントだったそうだ。自動巻きで、ラグのないラウンドケースは径が40㎜弱あったような記憶があるそうだが、現在実機は手元にはない。ブラックウォッチ、そしてシンプルで強いデザインに対する思いに拍車をかけたことを窺わせる。(写真提供/DKSHジャパン)

 

[時計Begin 2019 SUMMERの記事を再構成]
写真/小澤達也(Studio Mug) 文/まつあみ 靖 構成/TAYA